第1章 69 朽ち果てた村で

 ガラガラガラガラ…


アンデットを殲滅した後、馬車はゆっくり走り続け…私達3人はいつの間にか眠っていた…。



私は夢の中で、懐かしい夢を見た。

橋本恵として生きていた頃の懐かしい夢。

まだ子どもたちは小さくて、家族4人で遊園地に行く幸せな夢を―。



****



「…様、クラウディア様…」


誰かが私を呼んでいる。


「う…うん…」


ゆっくり目を開けると、すぐ側に私を見つめているリーシャの姿があった。


「あ…リーシャ…」


「申し訳ございません、折角のお休みのところ…。実はここで一度休憩を取ることになりましたので、声を掛けさせていただきました」


リーシャがすまなそうに頭を下げた。


「え…?休憩…?」


目をこすりながら外を見た。


いつの間にか夜が明け、外の景色はすっかり変わっていた。


私達が今いる場所は、住む人がいなくなった打ち捨てられた村だったのだ。

あちこちに今にも崩れ落ちそうな家々が立ち並び、とても物寂しい光景だった。


「この村は…数年前までは『レノスト王国』の領民達が住んでいた村だわ…」


「クラウディア様…」


私の様子を心配してか、リーシャが声を掛けてきた。


「いつか…この村を元通りに復興出来ればいいのだけど…」


ため息混じりに口にした。


「大丈夫です。クラウディア様ならきっと出来ますよ。私は信じていますから」


「リーシャ…」


リーシャが元気づけてくれている。そんな姿を見ていると、私は彼女が裏切り者だとはとても思えなかった。


「クラウディア様。馬車から降りましょう?ここで休憩してから『シセル』の村へ向かうそうです」


「ええ、そうね。降りましょうか?」


そして私とリーシャは馬車を降りた。





「姫さん!起きたんだな!」

「王女様、お目覚になったのですね?」


私が馬車から降りるとかまどを作って火を起こしていたスヴェンとトマスが駆け寄ってきた。


「ええ、たった今起きたところよ。ところでスヴェン…貴方は全く一睡もしていないんじゃないの?」


「ああ…実はそうなんだ。『エデル』の奴らが言ってたよ。ここで5時間休憩を取ったら、次の村へ向かうそうだ。それで奴等に頼まれて今、俺とトマスで火を起こしていたところなんだ」


「そうなの?ところで…」


私はあたりを見渡した。


「ユダ達はどうしたの?」


『エデル』の使者たちの姿が1人も見当たらないのか気になった。


「あ、ああ…それなんだが…実はあいつら全員集まって、あの中で今話し合いをしている最中なんだよ」


スヴェンが指さした先には石造りの家があった。

他の家々は半壊や倒壊していたが、その家は戦火の中でも残っていたようだ。


「あんな場所で何をしているんでしょうか?」


リーシャが首を傾げた。


「妙ですね。旅の行程についての話なら僕達も話に混ぜて貰う権利があると思うのですが」


トマスはどこか不服そうだった。


けれど、私は彼等のことが気がかりだった。それにスヴェンもいつもとは様子が違う。


「ねぇ、スヴェン。ひょっとして貴方…何か知ってるんじゃないの?」


「え?そ、それは…」


うろたえるスヴェン。


「スヴェン。知ってることがあるなら教えて欲しいの。お願いよ」


私は頭を下げた。


「や、やめてくれよ。頭上げてくれよ姫さん」


「なら、教えてくれる?」


顔を上げてスヴェンを見る。


「分かった…言うよ…。実は…ユダが今、仲間たちから尋問されてるんだ」


「え?!」


私はその言葉に血の気が引くのを感じた――。



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