第1章 67 夜に響き渡る悲鳴 前編
日暮れ前に【死の大地】を抜けることが出来たのは良いものの、私の中にはさらなる不安がこみ上げていた。
今や太陽は完全に沈み、辺りは青白い月明かりに照らされている。
私たちは月明かりだけを頼りに『シセル』の村に向って進んでいたのである。
****
辺りの景色はすっかり変わり、いつの間にか霧が立ち込める林の風景へと変わっていた。
「何だか不気味な場所ですね…」
リーシャが少し怯えた様子を見せる。
「リーシャさんもそう思いますか?僕も先ほどから背筋がゾクゾクするんですよ」
トマスもどこか不安げだった。
「どうして夜にこんな不気味な場所を通るのでしょう?こんなことならあの洞窟で夜を明かした方が良かったのではないでしょうか?」
リーシャは益々怯えながら、私に意見を求めてくる。
確かに普通に考えれば、夜の移動は危険が伴う。
外は夜行性の動物がうろつき、襲われる可能性が非常に高いのだから。
「そうね、リーシャの言う通りかもしれないわね」
リーシャの言葉に私は頷く。
回帰前もそうだった。
あの時も夜にこの場所を通り…そこで…恐怖体験を…。
その時――。
「うわぁああああっ!!な、何だあれはっ?!」
「ば、化け物だっ!!」
「た、戦えっ!!け、剣を…剣を構えろっ!!」
先頭を進んでいた兵士たちの叫び声が不気味な林に響き渡った。
「きゃああっ!な、何があったのっ?!」
リーシャが叫んで頭を抱えた。
「い、一体、な、何が…」
トマスはガタガタ震えている。
回帰前の私だったら、やはり2人のように怯えてパニックになっていただろう。
けれど、今の私には一体何が現れたのか分かっている。
現われたのは…。
ユダの声が闇夜に響く。
「全員剣を持てっ!戦闘態勢に入るんだっ!!あれは…アンデッドだっ!!」
アンデッド…!
やはりそうだ。回帰前と同じだ!
あの時も私たちはアンデッドに襲われた。
「な…何だってっ?!」
「た、大変だっ!!」
馬車の後ろについていた兵士たちが慌てたように次々とアンデッドへ向かって馬を走らせて行く。
アンデッドは決して強い存在では無い。動きも遅いし、力も生前と変わらない。
けれど通常の武器ではダメージは与えられるものの、倒す事は出来ない恐ろしい存在なのだ。
彼等は…そのことを知っているのだろうか?
「そんな…ア、アンテッドが現れるなんて…」
「か、神様…!」
リーシャもトマスも顔面蒼白になって震えている。
「2人とも、落ち着いて!馬車の中にいれば安全よっ!その変わり絶対に動いてはいけないわ!」
私は2人に必死で声を掛ける。
アンデットは動く者を襲う。
じっとしてさえいれば襲うことは無いのだ。
「姫さんっ!」
馬に乗ったスヴェンが馬車に駆け寄って来た。
「スヴェンッ!」
「俺も加勢に行く!ここでじっとしていてくれっ!」
「いいえっ!私も行くわ!連れて行って!」
夜明けまではまだ大分ある。
もし彼らが通常の武器しか持っていないなら‥ただではすまない。
「何だって…?姫さん!本気で言ってるのか?!」
ユダが目を見開いて私を見る。
「クラウディア様!やめて下さいっ!」
「そうですよ!王女様っ!」
リーシャとトマスが必死になって私を止める。
「ええ、本気よ!だって、アンデッドは普通の武器では倒せないわっ!」
「何だって?!そ、そうなのか?!」
スヴェンの驚く様子を見る限り、やはり知らなかったようだ。
「ええそうよ。でも私はアンデッドの弱点を知っているの!だから連れて行って!」
けれどスヴェンは首を振った。
「いや!それでも駄目だっ!危険すぎるっ!俺は…絶対に姫さんを危険な目に遭わせたくないんだ!」
「スヴェン…」
スヴェンは真剣な目で私を見ている。
彼は…本気で私の命を心配しているのだ。
「分かったわ…。スヴェン。それなら…これを使って」
私はメッセンジャーバッグから【聖水】の原液がはいった瓶を取り出すと、スヴェンに差し出した―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます