第1章 65 毒蛇事件 後編
全員の毒は消したものの、まだ誰も目を覚ますものはいない。
そこで私とスヴェンは、彼らが目を覚ますまでこの場で待つことにした。
「どうやら、ここは毒蛇の巣窟だったみたいだな」
スヴェンが前方に無数に転がっている蛇の死骸を見ながらポツリと言った。
「ええ、そうね…ここに人が現れたから蛇たちは縄張りを守る為にライを襲ったのでしょうね。それで様子を見に来たヤコブ達を次々に襲ったに違いないわ」
「それにしても姫さんはすごいな。あっという間に解毒してしまうんだから。あれも【エリクサー】なのか?」
「いいえ、違うわ。【聖水】なの」
「聖…水?」
スヴェンが首を傾げる。
「ええ。そうよ」
「【エリクサー】とは違うのか?」
「ええ、あれは怪我を治す為の薬だけど、【聖水】は解毒する水なの」
「それも城から持ってきたものなんだろう?」
スヴェンは笑顔で尋ねて来た。
「スヴェン…」
スヴェンは私が『錬金術師』であることに気付いているはずなのに、あえて触れないでいてくれているのだ。
彼の気遣いがヒシヒシと伝わり…その気持ちがとても嬉しかった。
だから、少しだけ話したくなった。
まだ、次の村のことを何も知らないスヴェンに…。
「あのね…スヴェン。この【聖水】は、絶対に次の村で必要なものなのよ。だから…用意したの」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ。何故ならあの村は…」
そこまで話した時…。
「う~ん…」
一番最後に毒蛇に噛まれたと思われるユダがうなり声をあげた。
「ユダッ!目覚めたんだな?!」
スヴェンが声を掛けると、ユダは目を開けた。
「あ…俺は…一体…」
「良かった。ユダ…目が覚めたのね?」
「クラウディア様?!何故ここに?!」
ユダが驚いた様子で私を見た。
「ユダ、お前毒蛇に噛まれただろう?」
スヴェンがユダを覗きこむように尋ねた。
「あ、ああ…噛まれた。1匹切り捨てた時…別の毒蛇に噛まれたんだ」
「姫さんが毒蛇に噛まれたお前を助けたんだぜ?解毒剤を持っていたからな」
スヴェンはあえて【聖水】と言う言葉を使わずにユダに説明した。
「そ、そうだったのか…?ありがとうございます。クラウディア様」
ユダは頭を下げてきた。
「いいのよ、でも…良かったわ。無事で」
「クラウディア様…」
すると、そこへスヴェンが割って入って来た。
「ほら、他の連中も意識を取り戻したみたいだぞ?」
スヴェンの言葉通り、いつの間にかあちこちで意識を失っていたエデルの使者たちが目を覚まして驚いている。
「あれ…?助かったのか?」
「毒蛇に噛まれたはずなのに…」
「何故身体がすっきりしてるんだ?」
「あの毒蛇に噛まれて生き残れるなんて…」
最後に目を覚ましたライもどこか呆然としている。
全員が目覚めたことを確認すると、ユダが立ち上がった。
「皆、聞いてくれ。俺たちは全員毒蛇に噛まれてしまった。死にかけていた俺たちを救ってくれたのは他でも無い、クラウディア様だ。クラウディア様が蛇の毒によく効く解毒剤を持っていてくれたから我らは全員助かったのだ。クラウディア様は…我らの命の恩人だ!」
その言葉の後に、彼らは次々と私にお礼の言葉を述べ始めた。
「ありがとうございます!」
「クラウディア様は命の恩人ですっ!」
「おかげさまで命拾いしました」
私は彼らの感謝の言葉を笑顔で受け止めながら思った。
この毒蛇の事件が…仕組まれたものではありませんように―と。
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