第1章 57 聞こえてきた会話

「ユダが…仲間の人達と次の村のことについて…話していたの?」


心の動揺を押し隠しながらスヴェンに聞き返した。


「そうだよ。俺は耳には自身があるからな」


「そうなのね?それは頼もしいわ」


スヴェンの言葉に相槌を打ちながらもユダのことが頭から離れなかった。


あの時…本当に私のことを心配しているように見えたけれども、信用させる為に演技を…していただけなのだろうか…?


疑い続ければきりがない。

だけど、私は…ユダを信じてみたかった。


「どうした?姫さん。気分でも悪いのか?」


不意にスヴェンが尋ねてきた。


「え?そんなことないわよ」


「そっか…。なら、いいけどさ…。少し元気が無い用に見えたから。何しろ、その…姫さんは俺たちにとって希望だからさ」


スヴェンは照れ屋なのだろうか?再び顔を真っ赤に染めている。


「希望…ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」


笑みを浮かべてスヴェンを見た。


何しろ回帰前は訪れた場所全てで『悪女』呼ばわりされてきたのだから、当然領民と信頼関係など築けるはずも無かった。


「姫さん…。俺、何があっても、絶対に姫さんを守って無事に『エデル』まで送り届けてやるからな?」


「ええ、ありがとう。スヴェン。それじゃ、もう貴方は休んで?私が起きてるから」


「でも…本当にいいのか?俺が休んでも…」


「もちろんよ。何かあったら貴方を起こせばいいんでしょう?」


「ああ。すぐに起こしてくれ。俺、寝起きはいいからさ」


そしてスヴェンは腰から剣を抜き取ると抱きかかえるようにしてソファに寝転がった。


「スヴェン、もしかして剣を抱えたまま寝るの?」


「ああ、万一の為だ。それじゃ姫さん。悪いけど少し休ませてもらうよ」


「ええ。休んで頂戴」


「悪いな…」




 どのくらい、沈黙が続いただろうか…。

やがて、向かい側に横たわったスヴェンから微かな寝息が聞こえてきた。


スヴェン…余程眠かったのかも知れない。


音を立てないようにソファから立ち上がると、テーブルの上に置いたメッセンジャーバッグを取りに行った。

やはり手元に【賢者の石】と【聖水】を置いておかないと不安だったからだ。


メッセンジャーバッグを肩から掛け、再びソファに戻ろうとした時に話し声がこちらに近付いてくるのに気付いた。


もしかして…ユダ達だろうか?


私は扉付近の壁に耳を近づけ、会話を聞き取ろうと試みた。


すると、彼らの会話が聞こえ始めた。




「…あいつ…俺たちを裏切っていたのか…?」


「いや、もしかしたら単に【エリクサー】が欲しかっただけかもしれないぞ?」


「確かにあいつ…野心家だったからな…」


ユダの声が聞こえない…。


あいつって、一体誰の事?

野心家って…。


その時…


「お前たち…静かにしろ。これ以上余計なことをしゃべるな」


仲間たちを咎めるようなユダの声が聞こえた。


会話をやめさせた…?ユダ…まさか…?!


私はたまらず、ノブを回して扉を開けた。



ガチャッ!


扉を開けて、部屋の外に出ると月明かりに照らされた廊下にユダを含む4人のエデルの兵士たちが驚いた様子で立ち止まった。

兵士の中にはユダが信用できる仲間と言っていたヤコブの姿もあった。


「クラウディア様、起きてらしたのですか?」


ユダの顔に一瞬驚きの表情が浮かんだ。


「ええ…少しも眠くなかったからスヴェンの代わりに寝ずの番をしようと思ったの」


「え?クラウディア様がですか?」


ヤコブが困惑した顔で私を見た。


「ええ…そうよ。それでユダ。少し…貴方と話がしたいのだけど…」


「…分かりました。皆は先に部屋に戻っていてくれ」


ユダは頷くと、仲間たちを見渡した。



「ああ、分かった。皆、行こう」


ヤコブが返事をし、他の兵士たちは黙って頷くとそのまま去っていった。



廊下に私達だけが取り残されるとユダが話しかけてきた。


「クラウディア様、この部屋の隣は空き部屋です。そこで話をしませんか?」


「ええ、分かったわ」


そして私とユダは隣の部屋へと入っていった。


ユダの背中を見ながら私は思った。


彼の本心を少しでも聞き出さなければ…と―。


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