第1章 51 町の再建についての提案
『クリーク』の町の人達による食事のおもてなしが終わったのは午後3時を少し過ぎた頃だ。
何しろ、町の人々がひっきりなしに私の元へやってきてはお礼を述べていくものだから、中々お開きにすることが出来なかったのだ―。
****
「申し訳ございませんでした。王女様」
最後の町民の挨拶が終わると、町長さんが謝罪をしてきた。
「え?何がですか?」
「いえ…お付きの方々はとっくにお部屋に戻られたのに、王女様だけ部屋に戻ることが出来ずに町民たちの話に付き合わせてしまいました。本当に申し訳ございません」
「あ…その事ですか?」
リーシャは後半、かなり疲れた様子を見せていたのでスヴェンと一緒に先に部屋に戻ってもらっているし、ユダをはじめとした『エデル』の使者たちは私達とは違うテーブル席に着席していたので、とっくに食堂からいなくなっている。
つまり、私1人が『クリーク』の人達と最後まで一緒に食堂に居残っていたのだ。
「はい、町民たちがどうしても王女様とお話がしたいと言ってきかなかったものですから…」
そこで私は申し訳なさそうにしている町長さんに笑いかけた。
「そんなこと、気にしないで下さい。『クリーク』の町の人々は全員、大切な領民です。戦争によって、この町は今後『エデル』の領地となりますが、私はこれからその国に嫁ぎます。なので今も、この先もこの町の人達は私にとって大切な領民達に変わりはありません。皆さんの話を聞くのは当然です。いいえ、むしろこのような席を設けて頂き、感謝しております」
「王女様…何て嬉しいお言葉を…」
その時、トマスがルカを連れて私の元へやってきた。
「王女様。ルカがどうしても王女様と話がしたいとのことで連れて来たのですが…宜しいでしょうか?」
その背後でルカは私と視線が合うと、深々と頭を下げてきた。
「ええ、大丈夫よ」
すると町長さんが2人に諭した。
「良いか?ルカ。王女様はお疲れなのだ。用件は手短にするのだぞ?」
「ええ、分かっております」
「なら良いが…では王女様。私はまだ片付けが残っておりますのでこれで失礼致します」
「ええ、ありがとう。町長さん」
恐らく、町長さんは気を利かせて席を外してくれたのだろう。
テーブルに3人だけが残されると、ルカは早速口を開いた。
「王女様、あの薬の原液は私がトマスから確かに受け取りました。このことは他の者達には決して明かさず、誰にも見られないように隠し…ありがたく町の為に使わせて頂きます」
「ええ、そうね。それがいいわ。あ、一つ肝心なことを言い忘れていたけど、あの薬は傷を治すだけではなく、痛みも取ってくれるのよ。そこで私の案があるのだけど…聞いてくれるかしら?今後はこの町の復興にも関わってくる話になると思うの」
「どのような話ですか?」
トマスが尋ねて来た。
「ええ、この町にはいくつか源泉があるでしょう?」
「はい、そうですね。戦争によって、いくつか温泉施設は壊れてしまいましたが…」
「そこで、今後はこの町を温泉の町として復興させていければと考えているのよ」
「温泉の町…としてですか?」
トマスが首を傾げた。
「ええ、そうよ。湧き出ている温泉に、あの原液をほんの少しだけ混ぜてあげるのよ。それだけで、原液が溶け込んだ温泉に入った人々は体の痛みなど消えるはずよ。温泉に入って体の不調が治せるなんて、素敵だと思わない?」
私の中では、すでにこの町は日本の『湯治』をイメージしたものが出来上がっていた。
「なるほど…それは素晴らしい考えですね!」
ルカが目をキラキラさせながら興奮している。
「この町の温泉につかれば、体の不調が整う…と宣伝すればきっと多くの人々がこの町を訪れ…復興につなげていけると思うの」
「そうですね。きっと話題になるはずですっ!ではあの薬の事は伏せて置いて、町長にすぐに相談に行ってきます!王女様、本当にありがとうございました!」
ルカは立ち上がると頭を下げ、急ぎ足で町長の元へと去って行った。
「王女様、本当にありがとうございます。この町の人々を助けてくれただけでなく、今度は復興支援まで考えて下さるなんて…」
トマスが頭を下げてきたその時―。
「クラウディア様」
背後から声を掛けられた。振り向くとそこに立っていたのはユダだった。
「ユダ…」
「クラウディア様。皆と話し合った結果、今夜一晩この宿に泊まります。そして明朝この町を発ちます」
「分かったわ」
「分かりました」
私とトマスは頷いた。
ユダの話はまだ続く。
「ちなみに…次に立ち寄るのは『シセラ』という村です。この村がエデル領地の最後の村になるのは…ご存知ですよね?」
「ええ、知ってるわ」
「そうですか…あの村では覚悟をして置いて下さい」
じっと私を見つめてくるユダ。
「!」
やはり…回帰前と同じ状況に、今あの村は置かれているのだ。
「ええ…分かったわ」
私はユダの言葉に頷くのだった―。
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