第1章 44 驚きの言葉
「それでは話は終わりましたので、我々はもう行きます。あまりクラウディア様の部屋にいると色々な者達に怪しまれてしまうかもしれませんからね。特に…リーシャには」
ユダはリーシャの名前を遭えて口にした。
「そ、そうね…。そろそろここで話は終わりにした方がいいかもしれないわね?」
「ええ、そうです。今はまだ誰が敵か味方か分からない状態ですから、それにクラウディア様はかなりお疲れのようですので。それでは行こう、トマス」
「はい、そうですね」
ユダに声を掛けられたトマスは立ち上がった。
「クラウディア様、もし温泉に行かれるのでしたら俺が誰もこちらの部屋に近づけないように見張っておりますが…いかがなさいますか?」
「温泉…」
あまり長い間この部屋にとどまっていてもリーシャに怪しまれるかもしれない…。
けれども私は心のどこかでリーシャを信じたい気持ちがある。
それにまだ『エデル』までの道のりは遠く…旅は続く。
無事に辿りつくまでは用心に越したことは無いのかもしれない。
「そうね、温泉に行ってくるわ。それではユダ。疲れているところ悪いけど…私が不在の間、部屋の見張りをお願い出来る?」
「はい、大丈夫です。俺は兵士ですから多少の疲れ位平気です」
「では外で待機しておりますので準備をどうぞ」
「分かったわ」
すると今まで黙って私たちの会話を聞いていたトマスが声を掛けてきた。
「王女様、温泉の場所まで僕が案内しますのでユダさんと外で待っていますね?」
「ええ。ありがとう」
そしてユダとトマスが部屋から出ていくと、私は温泉に行く準備を始めた―。
10分後―
カチャ…
扉を開けて部屋の外へ出ると、ユダとトマスがこちらを振り向いた。
「王女様、準備は出来ましたか?」
「ええ、大丈夫よ」
「それでは参りましょうか」
トマスに促され、ユダに声を掛けた。
「ユダ。よろしくね?」
「はい、承知致しました。ところでクラウディア様…」
「何?」
「くれぐれもリーシャに怪しまれないようにして下さい」
「…ええ。分かっているわ」
「では行ってらっしゃいませ」
「行ってくるわ」
ユダが頭を下げてきたので、軽く手を振るとトマスに連れられて温泉へ向かった。
**
「ユダさんて、不愛想ですけどいい人ですよね?」
宿屋の廊下を歩き始めると、すぐにトマスがにこやかに声を掛けてきた。
「そう?本人が聞いたらきっと喜ぶわ」
確かに目つきは良くないし、『アムル』の村まではユダの態度は決して良い物とは思えなかった。
彼のあの態度は、私に不信感を持っていたから?
それで私を試していたのだろうか…?
随分リーシャを疑っていたけれども、他に何かユダにとって疑うべき要素があったのだろうか…?
「王女様?どうかされましたか?やはりお疲れなのでしょうか?」
不意に心配そうにトマスが声を掛けてきた。
「大丈夫よ?どうかしたの?」
「いえ…何だか難しそうなお顔をされていたので…あ、すみません!こんな言い方、王女様に失礼ですよね?」
トマスは顔を赤らめて謝って来た。
「そんなこと気にしなくても大丈夫よ。それを言ったら、スヴェンなんて…」
ふとスヴェンの事を思い出し、彼の名前を口に出した時。
「あれ?姫さんじゃないか?」
偶然にもスヴェンが向かい側からやってきた。
「あら、スヴェン」
「姫さん。何処へ行くんだい?」
スヴェンは駆け寄ってきた。
「ええ。トマスに温泉に案内してもらっているところなの」
「僕から案内を申し出ました」
「え?そうだったのか?なんだ~すまなかった…姫さん」
突然スヴェンが頭を下げてきた。
「え?何を謝るの?」
「いや…俺もたった今、温泉から戻ってきたところなんだよ。姫さんが行くの分かっていたら、一緒に誘って連れて行ってやることが出来たのにと思ってさ」
スヴェンが申し訳なさげに頭をかいた。
「いいのよ、そんな事気にしなくても。今まで少し部屋でユダとトマスと話をしていたから」
私の言葉にスヴェンが眉をしかめた。
「ユダか…。姫さん、いつに間にアイツと親しくなったんだ?アイツ目つきは悪いし、態度はふてぶてしいし…本当に信用していいのか?」
あろうことかスヴェンはトマスの前でユダの悪口を言い始めた。
「落ち着いて、ユダはもともと目つきの悪さを気にしているのよ。それにふてぶてしいわけじゃないわ。兵士だから用心深いのよ。きっと周囲から誤解されやすいタイプかもしれないわね」
何としてもトマスの前ではユダに対する不信感を見せないように、私は必死に弁明した。
「ふ~ん…。でもまぁ、俺は姫さんの言うことは何でも信じることにしてるから別に構わないけどな。それにしても姫さんといい、リーシャといい…2人ともいつの間にか『エデル』の兵士と仲良くなってるんだものな。。驚いたよ」
「「え?」」
スヴェンの言葉に私とトマスが同時に声を上げたのは…言うまでも無かった―。
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