第1章 37 疑う者
ひとしきり泣いたリーシャはようやく落ち着いたのか、私に尋ねてきた。
「クラウディア様があの兵士に抱きかかえられて戻ってきたのを見た時はとても驚きました。一体今迄何処で何をされていたのですか?」
「え?それは…」
いくらリーシャにでも、私が錬金術を使えることを話すわけにはいかなかった。私の秘密を知れば、リーシャも危険に晒されるかも知れない…。
「クラウディア様?どうかしましたか?私にも話せない何かがあるのですか?」
その時―。
「少し宜しいですか?」
開け放たれていた扉から声を掛けてきたのはユダだった。
「ユダ、ええ。どうぞ」
「失礼致します」
声を掛けると、ユダが部屋の中に入ってきてチラリとリーシャを見た。
「…」
すると何故か私から少し離れるリーシャ。
「悪いが、クラウディア様と2人きりで話がしたいので席を外してくれるか?」
ユダはリーシャに声を掛けた。
「え…ですが、私はクラウディア様に…」
「町の人達にクラウディア様が目覚めたことを伝えて来て欲しいのだ。…スヴェンもクラウディア様のことを酷く心配していたからな」
「クラウディ様…」
リーシャが私を見る。何故かその目はここを離れたくないと訴えているようにも見えた。
けれどもひょっとするとユダは今から誰にも聞かれたくない話を私と2人だけでしたいのかもしれない。
それにユダには私が何故気を失ってしまったのか…少しは事情を説明するべきではないかと思ったからだ。
そこで私はリーシャに声を掛けた。
「そうね。いきなり気を失った状態で皆の前で現れてしまったようだから、さぞかし私の事を心配しているかも知れないわね。それではリーシャ。悪いけど皆に伝えて来てくれるかしら?私が、目を覚ましたと」
「はい、分かりました。では行って参りますね」
私にお願いされて、観念したのか、リーシャは立ち上がると部屋を出て行った。
パタパタパタ…
リーシャの足音が遠ざかっていくと、ユダが声を掛けてきた。
「目が覚められて良かったです。クラウディア様。本当に…心配致しました」
「え…?」
ユダの態度に驚きを隠せなかった。あれほど冷たい態度をずっと取り続けていたのに、本当は私の心配を今までもしていたのだろうか?
「…どうかしましたか?」
「い、いえ。何でも無いわ。それで話というのは?」
「ええ。ですが…その前に、あのメイドはクラウディア様の忠実なメイドなのでしょうか?」
「え?それは勿論そうよ。だってリーシャとはもう7年近くずっと一緒にいたのだもの。彼女はとても良いメイドよ?友達みたいなものだもの」
尤も、本当にずっと一緒にいたのかと問われれば答えに詰まってしまう。何しろ実際は46年ぶりに再会したようなものなのだから。
「そうですか…」
しかし、ユダは何故かいつも以上に眉間にシワを寄せる。その態度が何か引っかかった。
「ユダ。はっきり言って。誰か人が来る前に」
「そうですね。やはり貴女は思い切りの良い方だ。ではお伺い致します。あのメイドは…本当にクラウディア様が信頼するに当たる人物なのでしょうか?」
「え…?」
ユダの話に、私は背筋が凍りそうになった―。
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