第1章 35 ユダ

「クラウディア様が彼と一緒に野戦病院を出て行ったので後をついてきました。これでも『エデル』から派遣された護衛騎士ですから」


そしてユダは次にトマスを見た。


「野戦病院で町長がお前を探していた。早く行ったほうがいい」


「あ…分かりました。では貴方も一緒に…」


トマスはこれから錬金術を使おうとしている私の為にユダを遠ざけようとしてくれていた。


「駄目だ。俺は国王の命令でクラウディア様の護衛を言い遣っているからここを去るわけにはいかない」


ユダは首を振って拒否する。


「ですが…」


トマスは困り果てた顔で、まるで助けを求めるかのように私を見た。


「いいわ、ユダのことは大丈夫だから…トマスはもう病院に戻って?」


私は笑みを浮かべてトマスを見た。


「…はい、では失礼致します」


申し訳無さげにトマスが戸口から出ていき…部屋の中には私とユダの2人だけになってしまった。


「あの…ね…ユダ…」


どうしよう。

これから錬金術を使って【エリクサー】を作らなくてはならないのに、ユダがいてはそれが出来ない。


「外で見張っています」


不意にユダが口を開いた。


「え?一体それは…」


「部屋の中の様子も見られないように窓の木の扉も閉めておいたほうがいいでしょう」


「ユダ…」


するとユダが小声で素早く言った。


「…クラウディア様は監視されています」


「え…?」


その言葉に一瞬背筋が寒くなった。


「か、監視されている…?だ、誰に…?」


「それは俺にもまだ良く分かりません。でも恐らく複数人はいるはずです」


「その監視をしているとされる人達は…当然…?」


「ええ、勿論クラウディア様の旅の同行者です」


「でも何の為に…?」


するとユダは一度目を伏せると私の持っている鞄に目を留めた。


「この話の続きはクラウディア様の用が済んだら致しましょう。あまり長い間不在にしていると怪しまれてしまいます。どのくらい時間が掛かりそうですか?」


「そうね…1時間から1時間半くらいはかかるかも…」


「分かりました。ではそれまで外で見張っています」


「あの…それでは私の用事が終わるまでは…絶対に家の中に入って来ないと約束してくれる?」


「ええ、分かりました。約束しましょう。ところで…クラウディア様は俺の話を信じるのですか?」


ユダが突然質問してきた。

そこで私は正直に自分の気持ちを打ち明けることにした。


「…初めはユダのこと…信用していなかったわ。だけど、この町に来て分かったの。私はどうやら貴方の事を誤解していたようだって。だから…信じるわ。貴方のこと」


すると少しだけユダは口元に笑みを浮かべた。


「…ありがとうございます。では外で見張ってきます」


ユダは戸口から外へ出て、扉を閉める時に背を向けたまま私に言った。


「クラウディア様」


「何?」


「あの時…『アムル』の村では…本当に馬車を焼こうとしたわけではありません。馬車の近くで怪しい人影が動くのを見たので…唯一信用できる仲間と2人で様子を見に行っただけです」


「!」


「それでは失礼します」


そして扉は閉められた。




バタン…


「ユダ…」


扉が閉じられた後も少しの間呆然としていたが、すぐに我に返った。


「こんなことしていられないわ」


急いで窓の木の扉を閉めてまわると、テーブルの上に錬金術を行う為の道具を並べた。



テーブルの上にキャンドルを灯すと、一度深呼吸する。


「さて…そろそろ始めようかしら」


自分で作り出した赤く光り輝く【賢者の石】をバッグの中から取り出し、私は魔法の万能薬【エリクサー】を作る為の錬金術を開始した―。



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