第1章 21 旅の同行者として

 翌朝―


 教会で村人達から朝食としてオートミール粥を頂くと、私達は『エデル』へ向けて出発することになった。




**




「はぁっ?!何だってっ!お前まで俺たちと一緒について来るって言うのかっ?!」


村の入り口で、お馴染み目つきの悪い兵士が旅立ちの支度をして現れたスヴェンを見て露骨に嫌そうな表情を向けてきた。


既に馬にまたがった他の『エデル』の同行者達も一様に同じ視線を向けてくる。


「ああ、そうだ。俺は一度『エデル』の国へ行ってみたいと思っていたんだ。何しろ今度の領主様は『エデル』の国王様になるんだろう?」


スヴェンは腕組みしながら兵士を見た。


「フンッ!田舎者風情の平民が…。貴様のような者が国王に会えると思っているのか?」


兵士は明らかにスヴェンを馬鹿にした態度を取る。勿論周辺にいた使者達も同様だった。


「な、なんて…失礼な人達なのかしら…」


リーシャは小声で文句を言い、怒りで体を震わせている。


確かにリーシャの言い分も尤もだ。彼はあまりにもスヴェンを…と言うか、私を含めて『アムル』の村人たちを馬鹿にしている。


そこで私は激しく睨み合う2人の前に出てきた。


「ねぇ、兵士さん。話を聞いてくれる?」


すると兵士はジロリと私を見た。


「クラウディア様。俺のことを『兵士さん』と呼ぶのはやめてもらえませんか?俺には『ユダ』という名前があるのですから」



ユダ…。


なんて覚えやすい名前なのだろう。


確か聖書でユダと言う人物はイエス・キリストの弟子でありながら、裏切り…十字架に磔の刑にさせた人物。


その者と同じ名前だなんて…。


「何ですか?人の顔をじっと見て…」


ユダは不満そうに口を尖らせた。


「いいえ、良い名前だと思っただけよ。それでユダ。彼…スヴェンはただ私達の旅についてくるだけなのよ?馬だって食料だって自分で用意すると言っているのだから…ほら、『旅は道連れ』って言うでしょう?人が大勢いたほうが賑やかでいいんじゃないかしら?第一…」


私はスヴェンをチラリと見た。


「彼は、列の一番最後尾をついて歩くのだから。そうよね?スヴェン」


「あ、ああ。そうだ、姫様の言う通りだ」


「…」


少しの間、ユダは考え込むようにスヴェンを見ていたけれども背後にいる他の仲間たちを振り返った。


「お前たちはどう思う?」


すると、昨晩見逃してあげた使者が遠慮がちに口を開いた。


「…最後尾をただついて歩く位なら…別にいいんじゃないか?どうだ?皆は?」


そして彼は仲間達を見渡した。


「う〜ん…そうだな」

「最後尾ならいいんじゃないか?」

「勝手についてくるだけなんだしな…」


要は、彼等は余所者のスヴェンが列に加わってついてくるのが目障りなのだ。けれどスヴェンが最後尾を歩けば、目に入ることも殆ど無い。


「…よし、ならいいだろう。特別についてくる許可を与えてやる。ただし、貴様がついてくるのは最後尾だ。くれぐれも目障りな行動を取るなよ」


ユダは腕組みするとスヴェンに命じた。


「ああ、分かってるよ」


素直に返事をするスヴェン。


…本来なら、そういう台詞を言うのはこの中で一番身分の高い私が言うべきなのに…完全に見下されている私は発言権も無いようだ。


回帰前の私なら…ここで文句を言っていたかも知れないが、過去の経験が私を大人に変えた。

ここで揉め事を起こすのは得策ではない。

なので、黙って兵士とスヴェンのやり取りを見守っていた。


「よし、話はまとまったな。それでは…」


ユダの言葉を遮るように私は口を開いた。


「それでは村人たちにお世話になったお礼を言わないといけないわね?」


「え?え、ええ…そうですね」


不意をつかれたかのように返事をするユダ。


「よし、それじゃ俺も皆に挨拶をしてこないとな。行こうぜ?姫様」


スヴェンが笑顔を向けてくる。


「ええ、そうね」

「私もご一緒させて下さい」


私が返事をするとリーシャも前に出てきた。



「…俺たちは挨拶には行きませんよ」


ブスッとした表情でユダが私に声を掛けてきた。


「ええ、いいわよ。挨拶は私達でしてくるから。それじゃ、2人とも…行きましょう?」


リーシャとスヴェンに声を掛けた。


「はい!」

「ああ、行こう」



そして私達は、別れの挨拶を告げるために村人たちが集まっている教会へ向った―。

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