第1章 15 スヴェンとドーラ

 スヴェンが『エデル』国へ着くまでの間、護衛を…。


それはとてもありがたい申し出だった。何しろ今のこの状況が回帰する前と同だとすれば、この後立ち寄る町と村で私は再び苦境に立たされることになるからだ。


その状況を回避する為の重要な代物が残りの馬車に乗せられているのだが…。


私はチラリと『エデル』の使者たちを見た。


彼等は村人たちから離れた場所に座り、無言で食事を続けている。けれども時々村人たちと、加えて私に鋭い視線を投げかけている様子が伺えた。


恐らく自分たちのシナリオ通りに事が進まなかったことに対して苛立ちを感じているのだろう。


私の予想外の行動にかなり焦っているはずだ。


彼等は私が運ばせている荷物は全て私のドレスやアクセサリーだと頭から信じ切っていた。

ところが、いざ中身を開けてみると出てきたのは『アムル』の村人たちがずっと待ち望んでいた食料だったのだ。


村人たちは私に感謝し、私の好感度は一気に上がった。

これか彼等に取ってはかなりの痛手だったことだろう。


 一度回帰してきた私にはアルベルトの考えが分かっていた。


彼は私が『エデル』に向かう旅の途中で、私が悪女だということを広めたかったのだ。

それなのに、逆に人々から尊敬や信頼されるような人物になられては困るのだ。


という事は、スヴェンが心配する通り…この先、彼等が別の手段に訴えてくる可能性もあるはずだ。


けれど…。




「どうしたんだ?姫様。さっきからずっと黙りこくっているけど。…ひょっとして俺が護衛に着くのは迷惑か?」


スヴェンが困惑した表情で尋ねてきた。


「クラウディア様、私はスヴェンさんに護衛を頼むのはとても良い考えだと思いますよ?とにかく『エデル』の使者たちは誰一人、信頼できませんから!」


リーシャはどうしてもスヴェンについてきてもらいたい様子だった。


「ええ。でも…スヴェンはこの村の自警団の団長なのでしょう?この旅は10日程続くのよ?しかも往復の日程を考えれば、20日間は『アムル』の村を離れることになるし…。その間の村の警備はどうするの?大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ。この村にはまだ腕利きの自警団に所属する若者たちがいますから。どうか、孫を連れて行って下さい。必ず姫様の役に立つはずですよ。私からもお願いします」


ドーラさんが頭を下げてきた。


「ほら。ばあちゃんもああ言ってるし、リーシャだって俺に護衛をしてもらいたいと言ってるんだ。お願いだ、俺は姫様たちが心配なんだよ。彼奴等から2人を護衛させてくれよ」


スヴェンは必死になって訴えてくる。


「スヴェン…」


考えてみればおかしな話だ。

本来であれば、私を護衛するために迎えに来た『エデル』の使者と兵士たち。

しかし、実際は彼等は私の敵…いわゆるアルベルトのスパイのようなもの。


そんな彼等から私とリーシャを守ってくれると願い出てくれるなんて…。


「姫様、俺は受けた恩は返さないと気が済まないんだ。それに、この村を出た後の姫様たちが無事に旅を続けられるのかどうか心配なんだよ」


真剣な瞳でじっと私を見つめてくるスヴェン。


うん…彼なら…信頼出来る。


「では、スヴェン。私と…リーシャの護衛をお願いできる?」


「ああ、勿論任せてくれよっ!何があっても…必ず姫様とリーシャを守って、無事に『エデル』の国へ送り届けてやるからな!」


スヴェルは太陽のように明るい笑顔で笑った―。

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