2-13 セレンの魔力
「ギンジ先生、さん付けは不要ですわ」
セレンさんに魔法を教えるため今はセレンさんの部屋に来ている。報酬を貰っているわけではないが無償で泊めてもらってる身なので魔法の講習はしっかりやろうと思いシルフは自分の部屋(といっても借りている部屋だが)で待ってもらっている。さすがに二人きりというわけでなく部屋の出入り口のところにはチルさんが控えている。
採集から帰って少し遅めの昼食を頂いた後、両親に初めて自分でお金を稼いだ報告を終えたセレンさんは戻って来ると席について昼食を取りだした。俺たちはどうしようかと思っているとカーティラさんも食堂にやって来た。
「まさか魔法だけじゃなく植物採集の講習までしてもらえるとはな」
「それは僕ではなくシルフが。僕はそっちの知識はさっぱりで」
「そうらしいな。シルフ、ありがとう」
そう言ってカーティラさんはシルフに頭を下げる。
「そ、そんな!!頭を上げてください!私も一人でやるより楽しかったので」
いつも一人でやらせてごめんよ・・・
「シルフさんは本当に色んなことを知っていてすごいですわ!」
「セレンさんだって教えたことをドンドン覚えて。もう一人でも採集できると思います」
「本当ですか!?ですが一緒にやった方が楽しいですわ。またぜひご一緒したいですわ」
「はい。また一緒に行きましょう!」
仲が良いのは良いことだね。
「それで、魔法の方も今日からいけそうか?」
「はい。よろしければ食事の後にでも」
「本当ですか!?急いで食べますわね!」
「いえ、ゆっくり食べてください」
カーティラさんに聞かれたのでこの後にでもさっそく講習を始めることを伝えるとセレンさんが急いでご飯を食べようとしたので止める。別に俺は逃げない。
「じゃあそれで頼む。場所はどうする?庭とかを使うか?」
「とりあえずは室内でも大丈夫ですが」
「それでしたら
「そうだな。それで構わないか?」
「はい。わかりました」
女の子の部屋か。日本にいたころでも入った記憶は全然ないぞ。しかも領主の娘さんだ。少し緊張するな。
シルフは別の部屋にいることを告げるとセレンさんは少し寂しそうにしてシルフを誘ったが「魔法が使えるようになったら一緒に練習しましょう」とシルフに言われて渋々引きさがった。
というわけでセレンさんの食事が終わって少し休憩したあと、俺はセレンさんのお部屋にお邪魔した。
案内された部屋は机と椅子、それに本棚があるくらいでシンプルなものだった。ベッドもない。あ、寝室と衣裳部屋は別?そりゃそうか。なんか緊張して損したな。
とりあえず今日のところは魔法共有を試してみるが、セレンさんはプレートにも魔法が流せないんだよな。
「とりあえずしばらくは魔力共有というか魔力を流してそれを感じれるようになってもらおうと思っています。セレンさんは魔力のな
「セレン」
「え!?」
「ギンジ先生、さん付けは不要ですわ」
先生と生徒だからさん付けはいらない。そもそも年下だし主従関係があるわけでもないのにさん付けはおかしいと言われてしまった。一応こちらからすると領主の娘さんで立場的には上のような感じなんだけど、本人が強く言うのでその通りにするか。
「わかった。話は戻るけどセレンは魔力を流すことができないね?」
「はい。魔道具はもちろんプレートさえまともに使えません」
「わかった。じゃあちょっと試してみようか。手を出してもらっていい?」
「はい」
机を挟んで向かい合って座っているセレンが机の上に右手を出す。俺はその手のひらに左手を乗せて魔力共有をする。いや、しようとしたが上手くできなかった。セレンの魔力の流れが微弱すぎるし反応も全然ない。
「正直に答えてほしいんだけど、何か感じるかな?」
「・・・いいえ。私の手にギンジ先生の手が乗っているのは分かるのですがそれ以外は」
「今まで他の人に魔法を教わった時も同じかな?」
「はい。公認魔法教師の方もですしお母さまや他の方にもこんな風に何かをしてもらったのですが、
「なるほどね」
魔法教師がお手上げだったのも仕方ないな。魔力の流れが見えない人からしたら全く魔力が流れてないと思われても仕方ない。
「やっぱり
俺が少し考え込んでいるとセレンが不安そうに聞いてきた。
「いや、大丈夫だよ。何とかする」
「何とかできるんですか!?」
「できると思う。もちろんやってみないと分からないけど。セレンさんは他の人より
「セレンですわ」
「ゴホン、セレンは他の人より魔力の流れが弱い。だから他の人と同じような教え方で習得するのは難しいかもしれないけど、無理ってことは無いと思うよ」
「本当ですか?
年を取って魔法が使えなくなると魔力が枯渇したとか枯れたと言われるらしい。生まれつきに魔法が使えない、魔力が全く無いと思われると砂男・砂女と揶揄されたりするそうだ。ひどい話だ。その人には見えないだけでちゃんと魔力は流れているのに。
「それはひどい話だね。でも大丈夫。セレンにもちゃんの魔力は流れてるよ」
「本当ですか?どうしてお分かりになるのですか?」
「申し訳ないけどそれは言えない。だから俺を信じて欲しいとしか言えないけど」
「少しよろしいですか」
入口のところにいたチルさんが声をあげる。何かやらかしたかな?
「はい、なんでしょうか?」
「もし今の発言がお嬢様を気遣っての虚言であるなら取り消してもらえますか?」
「チル!!なんて失礼なことを!!」
「お嬢様、この方はお優しい方です。もし無理だと思っていても講習の初日にいきなり『魔法を覚えるのは無理』なんて言えないでしょう。ですがもしそうであるなら下手な希望を抱かせるのはお嬢様の為になりません」
「それはそうかもしれませんが・・・」
「お嬢様の魔法習得は悲願です。それはお嬢様自身もですしご当主様、奥様、それに私だって同じ気持ちです。藁にも縋る気持ちではありますがそんな私たちに気を遣わせてこの優しい方に嘘をつかせてはいけないのです」
「あの、嘘じゃないんですけど」
「「えっ!?」」
なんか使用人とお嬢様の絆を感じるいい話みたいになっていたが根本がズレているので訂正させてもらう。
「チルさんの心配ももちろんだと思います。どこの誰か分からない俺みたいな若造の言葉ですがとりあえず信じてくださいとしか言えませんが、セレンにはちゃんと魔力が流れていますよ」
さすがに魔力の流れが見えます。なんて言えないのであやふやな言葉になるが今はこれで納得してもらうしかない。
「それではお嬢様は魔法が使えるようになるんでしょうか?」
「俺ができることはやります。俺も今のところシルフに魔法を教えたことがあるだけなので効率よくできるかは分かりませんが」
「わかりました。よろしくお願いします」
チルさんはそう言って深々とお辞儀をした。そうするとセレンも立ち上がって
「使用人が大変失礼な発言をいたしました。申し訳ありません」
「お、お嬢様!」
普段よりもしっかりした声で謝罪をして頭を下げた。
「二人とも気にしないでください。とりあえずセレンに魔力は流れています。何の保証にもなりませんが俺が保証します。ですのでゆっくりやっていきましょう」
「「はい!!」」
さぁ、レッスンを始めていこう。
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