2-11 お泊りと報酬
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ~。生き返る~」
この世界に来て初めて入る風呂は最高だった。石鹸のようなものは無かったが久々に湯船につかって疲れを取った。お湯を張るために水を出す魔道具とそれを温める魔道具が設置してあってお湯を足すのも追い炊きするのも魔道具で行う。使い方は入る前にチルさんに説明してもらった。
風呂に入る順番で少し揉めたが俺が一番風呂を頂いた。こういうのは家主が1番に入るべきでは?と思ったが「俺たちはその、、、抜け毛がな」と言っていた。なるほど。獣人の人は全身に毛があるので半獣人や只人がいる場合は最後に風呂に入るらしい。なんか申し訳ないと思ったが普段もカーティラさんは最後に入ると言っていたので遠慮なく一番を頂いた。俺が入った後はシルフとセレンさんが一緒に入るらしい。ふむ。
風呂上がりに果物を絞ったジュースを頂いた。さっぱりしつつも自然の甘さが合って体に染みるようだ。そういえばこっちの世界に来てからこういった嗜好品は食べたり飲んだりしてこなかった。酒も飲まないしな。この世界ではかなりの贅沢品かと思ったが果物は取れるところではたくさん取れるのでそうでもないみたい。ただ砂糖を使った菓子などはそれなりに貴重で領主のような人でも食べるのは何か特別な時だけみたい。
夕食を頂いた食堂でカーティラさんと雑談をしていると風呂上りのシルフとセレンさんがやってきた。風呂上がりの美少女二人は眩しいな。薄手のシンプルなワンピースのような寝間着を着ている。シルフは風呂に入ったのは初めてのようで少しのぼせたのか普段よりもふわふわした足取りで席についた。出されたジュースをググっと飲み干すと「お風呂ってすごいですねぇ」と呟いていた。
隣に座ったシルフからふわっといい香りがしたので聞いてみると風呂上がりに髪に油を塗ってもらったとのこと。確かに普段よりも髪がつやつやしてる気がする。髪がきれいになったことを褒めると喜んでいるので今度髪油を買ってあげよう。ここでお世話になるうちはいいけど、その先のお風呂のことも考えないと。大衆浴場みたいなのってあるのかな。
少し雑談した後、今日泊まる部屋に案内してもらう。俺は客用の部屋を用意してもらった。シルフはセレンさんと同じ部屋で寝るみたいでセレンさんに引っ張って連れていかれた。
部屋はベッドと机とクローゼットのような洋服入れが設置してあるシンプルな部屋だったがどれも一級品といった感じで整った部屋だった。なによりベッドがふかふかだった。久々に風呂に入ったせいもあってかベッドに入るとあっというまに眠りに落ちてしまった。
コンコン!とノックの音がして目が覚める。チルさんが起こしに来てくれた。泊まった部屋はカーテンもしっかりしていたので朝日で起きることが無かったので本当に久しぶりにぐっすりと眠った気がする。そろそろ朝食なので準備をして食堂に来てくれとのことだ。
俺も昨日は寝間着として肌触りのいい服を借りていたのでとりあえず服を着替えて風呂場のところにある洗面所に行って顔を洗う。昨日はチルさんしかいなかったが今日は他の給仕の人も見かけた。
食堂に行くとすでにシルフとセレンさんが席について食事をしていた。「おはよう」と声をかけると「「おはようございます」」と二人が声をそろえる。
「お先に頂いてますわ!」
「ええ、お気になさらないでください」
セレンさんは朝から元気がいいな。席につくと俺の席にも朝食が運ばれてくる。パンと目玉焼きとサラダと飲み物はミルクだった。牛かな?この街は畜産とかも活発なのかな?市場とかがあればのぞいてみたいと思う。
朝食をしながら女子二人の会話を聞いているとかなり仲良くなったようだ。シルフも昨日のような固さがなく話している。俺はもう食べ終わったので二人の会話に耳を傾けていると
「ギンジ様、カーティラ様がお呼びです」
と獣耳のおじさんに声をかけられた。使用人の人だろうか?昨日はいなかった人だ。俺が立ち上がると「領主の秘書をしております。ジャンと申します」と自己紹介してくれた。
「俺だけでいいんですか?」
そう聞くと一人で来てほしいそうだ。ジャンさんの後ろをついて行くと昨日案内された部屋に通される。昨日と同じように席につくとすぐにカーティラさんが部屋に来て席についた。
「朝から悪いな。昨日はちゃんと眠れたか?」
「はい。それはもうぐっすり眠れました。お風呂も最高でしたがベッドもふかふかで」
「そうだろうそうだろう。布や羽毛なんかもこの街の名産だからな」
「朝食の卵やミルクもおいしかったんですが畜産なんかも盛んなんですか?」
「そうだな。その辺は俺たち獣人の得意なところだからな」
なんと獣人は動物の気持ちがなんとなくだけどわかるらしい。人によっては会話するのと変わらないくらい意思疎通できるとか。なので動物を飼ったり育てたりするのは得意なのでそれ関係の産業も強いとのことだ。
気持ちが分かるならと殺したりするのをためらってしまいそうだけどそんなこともないみたいだ。
「弱肉強食ってわけじゃないけど食べたり食べられたりするのは生きていく上で自然なことだ。その分思いっきり愛情を込めて育てるし食べるときは感謝を忘れない。生きるってのはそういうことだ」
その通りだな。地球でだって畜産家の人は大切に育てて、その上で出荷しているのだ。うん。
「それで話というのは?」
「ああ、そうだったな。魔法教師の件だがとりあえずうちで寝泊まりしてもらう。風呂にも毎日入れるしこれはギンジも問題ないな?」
「はい。お世話になります」
「まぁ自分の家だと思ってくれ。昨日泊まってもらった部屋と食堂の辺りは自由に使ってもらって構わない。風呂や食事の時はその辺にいる使用人に言ってもらえればいい。逆にこの応接間の近くは用が無い時は近づかないようにしてくれ」
「わかりました」
「それで報酬の件だが、とりあえずギンジが不要と言っていたので無しにしておく。ただセレンが魔法を使えるようになった場合、成功報酬として何か用意する。その時になって欲しい物やしてほしいことがあれば言ってくれ」
「受け取らないっていうのはダメですか?」
「成功報酬だ。セレンが魔法を使えるようになった時に考えろ」
「わかりました」
「ただ報酬を受け取りたくないから手を抜かれるのは困る。どうしても受け取りたくない時はギンジの気持ちを尊重するから安心してくれ」
手を抜くつもりはなかったが向こうからすると頑なに報酬を拒否する変人相手だから不安にもなるか。
「もちろん手を抜くつもりはありません。もちろんセレンさんが魔法を使えるようになるかはやってみなければ分かりませんができる限り頑張らせて頂きます」
「そう言ってもらえると助かる。それでいつから始める?」
「日中は普段通りシルフと森に採集に行こうと思ってます。日が暮れる前には戻りますのでその後にでもセレンさんの都合のいい時間でと思ってますがどうでしょう?」
「そんな短い時間でいいのか?」
「他の魔法教師を知りませんがそんなに長時間やるものなんですか?」
「拘束期間ずっと金がかかるからな。1日中魔法の訓練ってのも珍しくないが、家族に教える場合とかはゆっくりやることもあるし確かに無報酬なら急ぐ必要もないのか」
「一応そんな感じで少しずつやりながら進展したり逆に変化が無いようでしたらカーティラさんに報告をしていくという感じでどうでしょうか」
「わかった。それで頼む。じゃあ今日も今から森に出掛けるのか?」
「そのつもりです」
「じゃあそれで頼む。採集の時に怪我したりするなよ?」
「気を付けます」
話がまとまったのでシルフに声をかけて採集に向かおう。カーティラさんは朝食がまだだったようなので一緒に食堂に向かう。
「
シルフにとりあえずいつも通り採集に向かうと伝えるとセレンさんは立ち上がってシルフを引っ張って食堂を出ていった。チルさんもついて行く。チルさんはセレンさんの付き人のようだ。
「あの、連れていっても大丈夫なんでしょうか?」
話をする間もなく食堂を出ていってしまったのでカーティラさんに確認をする。
「チルもついて行くから大丈夫だと思うが、護衛対象が増えても大丈夫か?」
「大丈夫だと思います」
カーティラさんも止める気はないようなので、セレンさんも一緒に森に行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます