いつかまたあの湖で

カネミー

プロローグ,アネモネとマリーゴールド

その日はとても天気がよくバルコニーからの景色がよく映えていた。

だが私の心は土砂降りの大嵐だ。

なんでかって?

「アネモネ!!いい加減彼に会ってよ!!私ももう20を超えた大人なのよ!!」

目の前でそんな事を言いながら頬を膨らますのは可愛い妹であるマリーゴールド…普段は愛称のマリーと呼んでいるのでマリーと呼ぼう。

今は私達はバルコニーで優雅にブランチをしていた、していたはずだった。

「その話は食事の後「そうやっていつも逃げて話を聞いてくれないじゃない!」…」

マリーの怒っている原因は彼女の婚約者に会おうとしない私にあるのは明白だ。

緩くカールのかかった金髪を揺らしながら席を立って目の前のアネモネを怒った顔で見ている。

マリーの容姿を昔は羨んだものだ。

金髪に整った顔立ちに海のように青い瞳…

私とマリーは母が違うため違って当然なのだが私にはストレートな黒い髪と黒い瞳と女にしては大きな身長…小柄なマリーの事が子供の頃からほんの少しだけ羨ましかった…

今はそんなことを考えている場合ではない。

問題はマリーの婚約者の事だ…

別に嫌っているから会わないのではない。

会えない事情という物があるのだ。

「あのねマリー、私も別に嫌だから彼に会いたくない訳じゃないのよ?分かってるでしょ?その…色々と事情があるのよ…ね?」


「アネモネの事情も分かってるよ!でも今回ばかりはちゃんと会って彼の事を…アレックの事を知ってほしいの!!私にとって最愛の…そう…命の半分をあげても良いぐらいの存在なのよ」

そう目を輝かせながらうっとりするマリーを眺めて深いため息を零すアネモネ。

(普通の姉妹なら喜んで会ったさ…普通の姉妹なら…ね…)

アネモネにはマリーにも言えない事情が沢山ある。

代々アネモネとマリーの家系は複雑なのだ。

普通に育てられた(多少乙女チック過ぎるが)マリーとは違い、アネモネはこの家を守る当主として教育されてきたのだ。

古くから貴族として、騎士の家系として数百年と栄えたオルドー家…アネモネが背負う当主としての責務や古いしきたり…家族にすらいえない家の繁栄を今も尚支えるアネモネの仕事などマリーは知らない。

いや、知らなくて良いのだ。

きっと家の事が忙しいからぐらいの認識しかないのだ。

そう仕向けてきたから。

「また時間を作って会うから今は食事をしてしまいましょ?」

どうにか宥めてこの場を凌ごうとするもぶすくれてしまったマリーは返事をしなかった。

(やれやれ…腹を括るしかないのか…)

頭が痛いが一度は確かに会わなくてはならないのだ。

幼い時から大切に育てた妹を任せられる人間なのかも確かめなくてはいけない。

アネモネは「来週でいいのなら少しだけ時間を作るから…」と降参のポーズを取りながら言った。

マリーはその言葉を聞くとニマニマと笑顔を浮かべ「約束のだからね?約束したからね?来週連絡するから絶対よ!!」と念を押してきた。

はあっと本日2度目の深いため息を零すも、可愛い妹の喜ぶ顔が見れたのでアネモネ苦笑いをした。

…思えばこんな姉妹の会話をしたのはこの日が最後だった。

アレックとマリーは完璧な夫婦になり、誰もが羨む生活を送るはずだった。

その完璧な夫婦に一つだけ黒いシミのように取れない欠点ができたのだ。

それは…

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