第51話 「青い宝石」
「如月先輩、渚咲先輩。 こんばんは〜♪」
目の前で笑顔で言う桃井に、俺と柊は目を見開いていた。
「も、桃井…?」
「はいっ! 桃井小鳥ですよ〜」
「な、なんでお前がここに…」
「それはこっちの台詞なんですが…まぁいいです。 私は今日友達とここにショッピングしに来たんですよ〜」
「そ、そうなのか。 じ、じゃあ俺達はここで…」
桃井に背を向けようとすると、桃井に手を強く握られた。
「逃がすと思います〜?」
桃井に笑顔で言われ、俺は震え上がった。
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「さて、お2人共リラックスして下さい」
俺達3人は現在、デパート前の広場に置いてあるテーブルを囲んで座っている。
柊に至っては緊張で目が泳ぎ、冷や汗をかいている。
まずいな…なんとかごまかさないと…
「まず、お2人はなんで今日デパートに居たんですか? やっぱりデート?」
「いや、そもそもお前の勘違いだ」
「…勘違い?」
「あぁ。 俺達は今日2人でデパートに来たんじゃない。 春樹と七海と4人でデパートに来たんだ」
春樹と七海ならもし桃井に後で聞かれても察して話を合わせてくれるだろう。
うんうん、あの2人なら大丈夫だ。
「ほ〜そうですかそうですか。 なら私は仲間外れにされたって訳ですかね?」
「うっ…」
痛い所突いてくるなコイツ…
「べ、別に仲間外れにした訳じゃない。 ほら、2年生同士でしか話せない事ってあるだろ?」
「例えば〜?」
桃井は足と腕を組んで首を傾げる。
「ら、来年の受験の事とか…林間学校とか修学旅行とか色々だ」
「ふーん…? わざわざデパートにまで来て話す事ですかねぇ。 ちなみに、誘ったのは誰ですか?」
「春樹だ。 春樹と七海は用事があるって先に帰ったんだよ。
なんなら確認してもいいぞ」
春樹なら絶対に話を合わせてくれるだろう。
桃井はニヤっと笑うと、春樹にではなく七海に通話をかけた。
『もしもし小鳥?どうしたの?』
「あ!七海先輩! もう海堂先輩のお部屋の掃除終わりました〜?」
…そ、掃除…!?
『うん。終わったよ。 昼間は話聞けなくてごめんね。 ハルは放っとくとすぐ部屋が埃まみれになるからさ…』
「海堂先輩ってしっかりしてそうだったので意外でした!」
『外面だけはね。 …で、私が使ってる化粧品の話だっけ?』
「いえ!その話はまた今度で! ね?如月先輩?」
桃井はニコッと笑顔でこっちを見る。
『…え、陽太…?』
「聞いて下さいよ七海先輩〜! 今日友達と一緒にデパートに来てたんですけど、そしたら如月先輩と渚咲先輩が2人っきりでショッピングしてて!」
通話ごしから七海の溜め息が聞こえ、俺は非常に申し訳ない気持ちになる。
金曜日に散々注意されたのに、まさかすぐにバレるとは…
『…小鳥、陽太達の事って他の人にバレた?』
「いいえ!如月先輩達の姿が見えた瞬間に友達とは解散してこっそり尾行してたので、バレてませんよ!
バレたらまずいんでしょう?」
『…まぁ…その2人はかなり特殊な関係だからね。
…で、そこのバカ2人』
「「はい…」」
『もうここまで見られたら言い逃れ出来ないから、全部正直に話しちゃいな。 ハルには私から言っておくから、それじゃ』
七海はそう言って通話を切った。
「…桃井、どこから後をつけてたんだ?」
「柊先輩が如月先輩の服を選んでいる時ですね。 本当に大変だったんですよ? 友達がお2人の方を見ないように誘導するの!」
「も、桃井さん…黙っていてごめんなさい…」
「別に怒ってませんよ。 お2人が何かしら関係を持っている事は確信してましたし」
「…やっぱり、怪しかったですか?」
「怪しいなんてもんじゃないですよ!
お2人はもうちょっと周りからどう見られてるか考えた方がいいと思います!」
「うっ…はい…」
「七海からも似たような事言われたな…」
「…で?結局お2人はどんな関係なんですか? ナチュラルに今日の献立の話をしてましたが、家が隣同士とかですか?
今更何を言われても驚かないし、誰にも言わないので教えて下さい」
「「…一緒に住んでます」」
「…は?」
桃井が目を見開いた。
「い、一緒に…って…え? ど、同棲とかいう…あの…?」
俺と柊は頷く。
そして、柊は何故俺達が一緒に住むようになったかを全て話した。
全て話し終えると、桃井は頭を抱えた。
「ちょーっと待って下さいね…? 色々混乱しちゃって…
まず、お2人は付き合ってるんですか?」
俺と柊は首を横に振り否定する。
「…海堂先輩と七海先輩みたいな幼馴染とかでもないと?」
俺と柊は首を縦に振る。
「…なるほど…これは確かにバレる訳にはいきませんね」
「あぁ…だから話せなかった。 別に信用してなかった訳じゃないんだ。 ただ…」
「大丈夫ですよ。 別に隠されていた事には怒ってません。 ちょっとモヤッとはしますけどね!
言いふらしたりはしないので安心して下さい!」
「…助かる」
「ありがとうございます…」
俺と柊は揃って頭を下げる。
「ただーし! 1つだけ条件があります!」
「「…条件…?」」
「はい! 今度渚咲先輩のお家に遊びに行かせて下さい! そしてお料理を教えて下さいっ」
「良かった…そのくらいならいつでも大丈夫ですよ」
「やったぁ! それにしても、如月先輩は贅沢な男ですねぇ〜。 こんな美少女と毎日一緒だなんて、学校の男子にバレたら恨まれますよ!」
「怖い事言うなよ…」
俺が言うと、桃井は笑い、椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、私はこれで失礼します! また明日!」
桃井は俺達にお辞儀すると、家の方に歩いて行った。
「………」
「………」
「……帰るか」
「…ですね」
俺達は命拾いした事にホッと胸を撫で下ろし、帰宅するために歩き出した。
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夕食を食べ、風呂にも入った俺達は、ソファに座ってゆっくりしていた。
もう夏だと言う事で柊はパジャマとしてショートパンツを履いているのだが、中々に目のやり場に困る格好だ。
「バレちゃいましたね」
柊の言葉に俺は頷く。
「まさか桃井と会うとはな…」
「でも、やっぱり良い人で良かったです」
「だな。 まぁ、バレはしたけど気は楽になったな」
「ですね。 …あ、そういえば如月君。 桃井さんに話しかけられる前に、私に渡したい物があるって言ってませんでしたっけ」
「…あ、忘れてた」
桃井の事が衝撃すぎてすっかり頭からネックレスの事が抜け落ちていた。
「ちょっと待っててくれ」
「はーい」
柊をリビングに待たせ、俺は自室に戻ってバッグを開ける。
そして中から綺麗にラッピングされたネックレスが入った箱を手に取り、リビングに戻る。
「ほら」
リビングに戻ってソファに座り、俺は柊に青色の袋で綺麗にラッピングされた細長い箱を渡す。
「…え…」
柊は渡された物を見て目を見開いている。
「柊が試着してる間にオススメされたから買ってみた。 いらなかったら捨ててくれ」
「…あ、開けても良いですか…?」
「あぁ」
柊は丁寧にラッピングを解く。
すると藍色の高級感がある細長い箱が見える。
柊は深呼吸をした後、ゆっくり箱を開ける。
箱の中には、俺がオススメされた青い宝石がついたネックレスが入っていた。
「…え、これ…」
「今日お前が試着してた服に合いそうらしい」
「あ…え…」
柊はネックレスと俺を交互に見てあたふたしている。
まだ状況が飲み込めていないのだろう。
ちょっと面白いな。
「正直、アクセサリーをプレゼントするなんて辞めた方が良いと思っ…」
俺が言い終わる前に、柊は何度も首を横に振った。
「とても…とても嬉しいです…!」
そう言った柊の目は、少しだけ潤んでいた。
「…ごめんなさい…! こういう物は貰った事がないので…っ」
柊は涙を拭いながら言う。
「ありがとうございます…如月くん…っ」
「…おう。 喜んでもらえたんなら良かった」
「はいっ! 夏休みに如月君の実家に行く時は絶対に今日買った服とこのネックレスをつけていきます…! 」
「…そうか」
そんな柊の言葉に、俺は笑う。
そして柊は箱からネックレスを取り出し、ネックレスを見る。
「綺麗…」
「そうだな」
「…あ、如月くん如月くん」
「なんだ?」
「あの…ネックレスつけてもらっても良いですか…? 私アクセサリーとかつけた事がないのでよく分からなくて…」
「…了解」
俺が言うと、柊は嬉しそうに後ろを向いた。
ネックレス受け取り、つけようと近づくと、風呂上がりという事もあり柊のいい匂いが鼻に入ってきた。
「えーっと…?」
邪念を打ち払うようにネックレスをつける事だけを考え、なるべく早くつけるように意識を集中させる。
「…よし、出来たぞ」
「ありがとうございますっ! …どうですか?」
柊は俺の方を振り向く。
パジャマ姿とはいえ、青い宝石は柊の青い瞳と金色の髪とよくあっていた。
「…似合ってる」
「ふふ…ありがとうございます! 1人でもつけられるように練習しないといけませんね!」
「だな…心臓に悪いからもうやりたくない」
「心臓に…?」
柊は何のことだかわからないようで首を傾げる。
「いや…忘れてくれ」
その日の夜は、柊は何度も鏡で自分のネックレスを確認してその度に嬉しそうに笑っていた。
柊に出会ったのが去年の10月で、今は6月。
俺がこの家に住んでからかなりの期間が経ったな…
柊、春樹、七海、桃井。この4人は俺にとってとても大事な人達になった。
これからもずっと仲良く楽しく過ごせたら良いなと思いながら、柊に「明日は学校だから早く寝るぞ」と言って部屋に戻った。
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二章
新学期、新たな出会い編
完
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