第50話 「エンカウント」
「おー…いっぱい服がありますね〜」
「そーだな」
柊は男物の服を見て目を輝かせる。
「如月君はどういう服が好きなんですか?」
「こういう奴」
そう言って俺はブカブカのパーカーを手に取った。
柊ははぁ…と溜め息を吐く。
「あのですね如月くん。 パーカーを悪いとは言いませんが、流石に如月君はパーカーを着すぎです」
「んな事言われてもなぁ…何が似合うかとかわかんねぇし」
俺は春樹や八神みたいにオシャレなわけじゃないしなぁ…
「如月くんは意外と背が高いですし、細いので似合う服は多いと思うんですよね」
確かに俺の身長は175cmで平均より少し上だが、春樹は178cmだし八神に至っては180cm超えてるし、あんまり自分が大きいって言う自覚はない。
俺の前では柊がいろんな服を手に取り悩んでいる。
「如月君はジャケットとかカーディガンとか似合いそうなんですよね」
柊は黒のジャケットと濃いグレーのロングカーディガンを手に取る。
どちらも七部丈なので夏でも暑くなさそうだ。
「パンツは黒が合いそうなので、あとはこれに白いインナーを合わせれば…」
柊がジャケットとロングカーディガンに合いそうなインナーを選ぶ。
「あまり派手な色だと違和感が出ちゃうので、如月くんなら大人っぽい服の方が似合うと思います! どうでしょう?」
柊は俺に服を見せてくる。
確かにどちらも俺が着ない服だ。
「分かった。 んじゃ買ってくる」
「え…!? し、試着は…!?」
「いつもしてないから良いかなって」
「さ、流石に初めて買う系統の服は試着した方がいいと思いますよ…?」
「そうか? じゃあ試着してくるか」
俺が言うと、柊は嬉しそうに頷いた。
「はい!じゃあまずはこっちから着てみてくださいっ」
柊は白いインナーと濃いグレーのロングカーディガンを渡してくる。
2枚の服を受け取り、カーテンを閉める。
試着室の中って意外と狭いんだな…
そう思いながら着替える。
上着だけだからそんなに時間はかからず、着替え終えて鏡を見ると、そこには知らない人間が映っていた。
顔も髪型も俺なのに、服だけがオシャレになるってへんな感じだな…と思いながらカーテンを開けると、目の前で柊が目を見開いた。
「良いじゃないですか!似合ってます!」
「そうか?」
柊は何度も頷く。
「如月君じゃないみたいです!」
「それはなんか複雑だな…」
「褒め言葉ですよ! はいっ!じゃあ次はこっちです! 白いインナーは同じ物を2枚買うので、ジャケットだけを着て下さい」
「はいよ」
柊はそう言って黒のジャケットを渡してくる。
カーテンを閉めて着替えると、ジャケットという事でカーディガンとは違い、やはり動きやすさは激減した。
だが、鏡に映る俺はパーカーを着ている俺とはまるで別人だった。
服ってすげぇなぁ…と思いながらカーテンを開ける。
「おぉ…」
柊は俺の姿を見て固まっていた。
「…似合わなかったか?」
俺が言うと、柊は何度も首を横に振って否定する。
「あまりに似合いすぎてるので…ちょっとびっくりしちゃって」
「やっぱりそんなに違うのか」
「はい…! とてもカッコいいです!」
「…ありがとな」
柊に面と向かって言われ、流石に照れてしまう。
逃げるようにカーテンを閉め、元の服に着替えると、柊は俺からジャケットとインナーを奪い取った。
「では、お会計してきますね?」
「…は!? いやいや、俺が…」
「日頃のお礼ですっ」
柊はそう言って俺を置いてレジに行ってしまった。
いや…今日お前への感謝のつもりで来たんだけどな…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いい買い物が出来ましたね〜」
「…なぁ、やっぱり金払わせてくれ」
「言ったでしょう? 日頃のお礼ですって」
「俺がお前に感謝する事はあっても、お前が俺に感謝するような事はないだろ」
「何を言ってるんですか。 良いから素直に受け取って下さい」
「はぁ…訳わかんねぇ」
そう言うと、柊は笑顔になった。
「さて、もう17時ですし帰りましょうか」
「食材は買わなくていいのか?」
「はい。 金曜日に土日の分も買ったので」
「了解。 今日夕飯何?」
「肉野菜炒めにします」
「お〜いいな」
「ふふ…最初の方は肉野菜炒めと聞くと一瞬顔を顰めていたのに、如月くんも成長しましたねぇ」
「まぁ美味いからな」
「如月君好みの味付けを見つけられて良かったです」
そう言って俺達デパートを出る。 17時でもう暗くなり始めていたが、流石は夏という事で全然寒くなった。
「さて、遅くなる前に帰りましょうか」
「だな。 …っと、その前に…柊」
「はい?」
俺はデパートを出て少し歩いた所で柊に声をかける。
流石にデパートで渡すのは目立つし、かと言って家で渡すのも恥ずかしい。
だったら帰り途中に渡してしまった方が都合が良い。
「渡したい物がある」
「渡したい物…?」
俺は頷き、バッグを開く。
そして、ラッピングされたネックレスの箱を取り出そうとした時…
「やーっぱり、何かあると思ってたんですよねぇ〜」
俺と柊の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。
その瞬間、俺と柊は一瞬で固まった。
ゆっくり後ろを振り向くと、そこには白いブラウスに灰色の短いチェック柄のスカートを履いた桃井が立っていた。
「如月先輩、渚咲先輩。 こんばんは〜♪」
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