第28話 「女神の逆鱗」
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あれから毎日少しずつ学校でも柊と話し続け、1週間が経っていた。
相変わらず一言二言話すだけで、メインで話すのは七海だ。
だが、1週間経った今でも、俺への陰口は消えない。
それに対して、段々と柊がイライラしてきているが、その度に夜に皆で宥めている。
七海が柊を宥めるためだけに4人のチャットグループを作り始める程に、柊のイライラは募っている。
そして今日もまた、昼休みに七海が柊を連れてきた。
「おはようございます。如月さん、海堂さん」
「おはよう柊さん」
「…おう」
春樹は笑顔で返し、俺はいつも通り目線を逸らして返事をする。
「先程七海さんとお話してたんですが、今日のお昼、私もご一緒してもよろしいですか?」
柊の言葉に、俺はバッと七海を見る。
七海は無言で頷いた。
どうやらもう次の段階へ進む気らしい。
「僕は別に構わないよ。 陽太は?」
「良いんじゃないか」
俺と春樹が言うと、柊は笑顔になった。
笑顔になる柊とは裏腹に、クラスの男子達は顔を顰めている。
そりゃそうだろう。
あの柊が男がいるグループで一緒に昼食を取ると言ったんだからな。
「あ、如月さん。 さっきの授業で分からない箇所があったので、お昼食べた後に質問してもいいですか?」
「俺に分かる範囲なら」
「ありがとうございますっ」
柊はこう言っているが、建前だ。
柊は常に先まで予習しているから、授業で分からない箇所が出るわけがない。
俺個人と話す為の口実だろう。
「ひ、柊さん」
そんな所に、急にとある男子が会話に入ってきた。
こいつは、いつも柊に話しかけている男子のうちの1人だ。
名前は忘れたが。
「なんでしょう?」
柊は、変わらず女神のような笑みを返す。
「そ、そんな陰キャと話すよりさ、俺達と話そうよ。 そいつと話してもつまらないでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、柊の眉がピクリと動いた。
見れば、七海と春樹も真顔になっていた。
「ちょっとあんたさ…」
「つまらない…とは、どういう事でしょうか?」
七海が言い終わる前に、柊が口を開いた。
その声色は、いつもとは明らかに違っていた。
「だってそいつ、勉強しか出来ないじゃん。 絶対話もつまらないよ。 ほら、俺達ならゲームとか他の話題も出せるし!
あと、そいつ陰キャでなんか気持ち悪いしさ」
陰口悪口は出るとは思っていたが、まさかここまで直球が来るとは思わなかったな。
周りの男子達は、この男子の意見に賛成な奴が多いのか、笑みを浮かべていたり、首を縦に振っている者もいた。
まぁ、それだけ柊が俺と話す事が気に食わない奴らが多いと言う事なんだろうな。
「つまらないかどうかは私が決める事だと思うのですが。 私は自分の意思で関わる人を決めてはいけないのですか?」
あぁ…これはまずい。
柊の奴、完全にキレてるな…
七海が明らかに動揺してるし、春樹は顔が引き攣っている。
柊も今まで我慢していた分、一気に切れたのだろう。
「貴方は如月さんとお話した事があるんですか?」
「い、いや…ないけど…」
「なら、何故話がつまらないと言いきれるのでしょうか?」
「え、えっと…」
うわ…この男子完全に押されてるな…
「あと、いつも陰口を言っている人達にも言いますね。 同じ教室内に居るので内容は全部聞こえてましたが、何故直接言ってこないのですか? 」
ずっと陰口を言っていた男子達が静かになる。
「この際なので、ハッキリと言っておきましょう。
私は、人の悪口を言ったり、人を貶して笑いを取ったり、人を容姿だけで判断する人達が大嫌いです」
柊は目の前の男子と、周りの男子達を見て言った。
周りの男子達はもちろん、目の前の男子は明らかに動揺していた。
それはそうだろう。いつも自分の話に笑ってくれていた女神様が、急に真顔で嫌いと言って来たんだからな。
「私は上位成績者の名前は全て把握しています。 如月さんは、去年の10月に初めて20位に入りました。 余程努力したんでしょう。
その努力を見ようとせず、ただ容姿だけを見て馬鹿にするような人とは、私は関わりたいとは思えません」
捲し立てる柊に、目の前の男子は目を泳がせる。
「…あんたさ。 随分と好き勝手言ってくれたけど、私の友達を馬鹿にするの、辞めてくれない? 普通に不愉快なんだけど」
七海が追い討ちをかけると、目の前の男子は泣きそうになる。
そして、春樹も笑みを浮かべて立ち上がり、目の前の男子の肩を掴む。
「君、陽太の容姿を馬鹿にしたけどさ、人の容姿を馬鹿にする前に、まずは自分の容姿を見直したらどうだい? 後ろに寝癖がついてるけど、これは君なりのオシャレかな?」
春樹は目の前の男子と、周りにいた男子達にも笑みを向ける。
春樹のように整った容姿の奴に言われたら、かなりのダメージだろう。
「それじゃあ私達、学食行くから。 反省しといてね。 行こ、柊さん。 あんた達も行くよ」
七海は男子にそう言うと、柊と共に歩き出した。
俺と春樹も、七海の後を追い、学食へと向かった。
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「本当にごめんなさい…」
学食で各々ご飯を買い、周りに聞かれないように端の方の席に4人で座ると、柊が頭を下げてきた。
「いやいや、渚咲が謝る事ないでしょ。 渚咲が言わなかったら私が言うつもりだったし」
「そうだね。 流石に今回の彼の言動は目に余るからね」
七海と春樹が言うと、柊は安心した表情になる。
「…でも、良かったのか? あんな事言ったら、お前のイメージ下がるんじゃないか?」
俺がそう言うと、向かい側に座っている七海と柊から睨まれた。
え、何怖っ…
「イメージとかどうでもいいんですよ」
「そうだよ陽太。 あんたは渚咲が自分のイメージを気にして何も言い返さないような子だと思うの?」
「い、いや…」
思った以上に言い返されてしまった。
「まぁ、さっき渚咲が言い返してくれたお陰で、これからは心置きなくクラスで話せるようになったね」
「そうだね。 もうクラスで僕達に突っかかってくる度胸がある子は居ないだろうしね」
確かに、あんなに言い返された後だからな。
あいつらも大人しくなるだろう。
「…それにしても、あの言動は許せません。思い出しただけでもイライラしてきました」
「まぁまぁ渚咲。気持ちは分かるけど…」
「…如月くんはつまらなくないのに」
拗ねたように言う柊に、七海が苦笑いする。
そして、七海が俺にアイコンタクトで、助けてと送ってきた。
俺はため息を吐いた後、小さな声で話す。
「…まぁ…あれだな」
「…なんですか」
「…お前らが言い返してくれたのはまぁ…普通に嬉しかった。 ありがとな」
そう言うと、柊は何故か顔が赤くなり、七海と春樹に関しては、バッと顔を背けた。
「べ、別に…当然ですし…」
「き、急に感謝とかやめてよ」
「…陽太は急に恥ずかしくなるような事を言うよねぇ…」
柊、七海、春樹が言い、俺は首を傾げた。
こいつらが恥ずかしがる意味が分からないのだが…
まぁ、皆笑顔になったから良いのか…?
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「ひ、柊さん…!さ、さっきはごめん…!」
教室に帰ると、先程いろいろ言ってきた男子が、柊に頭を下げた。
その行動に対して、柊はまた怖い笑顔を見せる。
「…謝るのは私にじゃなくて、如月さんにだと思いますが」
そう言うと、男子はビクッと震え、俺に向かって頭を下げてきた。
「き、如月…! さっきはごめん…」
「いや別に気にしてない」
興味がないのでサラッと言うと、男子は居心地が悪そうな顔をして自分の席に帰っていった。
柊はいつも通りの笑顔になり、俺達3人の席の近くに来た。
もうお構いなしに話しかけてくる事にしたらしい。
「皆さんは席が近いので羨ましいです」
「俺達は皆苗字があいうえお順で近いからな」
青葉、如月、海堂。皆奇跡的に近いから驚きだ。
「私もそういう苗字が良かったです」
「私は柊っていい苗字だと思うけどね」
「そんなに席が近くなりたいなら、次の席替えの時にお祈りするしかないね」
春樹の言葉に、柊は笑顔で頷いた。
「ですね!」
「そう言えば一年の時さ、2回目の席替えで陽太だけ離れた席になって、陽太絶望してたよね」
「その話はやめろ本当に」
七海の言葉に柊は笑う。
あれは思い出したくもない記憶だ。
2回目の席替えの時、七海と春樹は席が近かったのに、俺だけ真反対の場所だったのだ。
休み時間に春樹と七海が話しかけに来てくれたから良かったが、なかなかにしんどかった。
そのあとの3回目の席替えでは近くの席になれたけどな。
「そんな事があったんですね」
笑いながら言う柊に、恨みを込めた視線を送る。
「…だいたい、七海と春樹がおかしいんだ。 毎回毎回クラス一緒だし席近いだろ。 なんか細工でもしてんのかってレベルだぞ」
七海と春樹は小学生の頃からずっとクラスが一緒で席も近いらしい。
もう本当に怪しんでしまう。
「それは私だってびっくりだよ」
「僕もだね」
そんな会話を続けていると、昼休み終わりのチャイムがなる。
柊が名残惜しそうな顔をすると、七海が優しく柊を撫でた。
「また話そうね」
「はいっ」
柊は笑顔で帰っていった。
七海が良いやつで良かったと心から思った瞬間だった。
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「やけにご機嫌だな柊」
自宅に帰ると、この前とは打って変わって、鼻歌を歌いながら柊がご飯を作っていた。
「はいっ! 今日からはもう我慢しなくて良くなりますし!」
そう言って柊は鍋をかき混ぜる。
どうやら今日はシチューらしい。
「まぁでもあの人は本当に許せませんけどね」
「…お前って結構根に持つタイプだよな」
「ですね。 嫌いになった人は一生嫌いです」
「ご愁傷様だな」
脳内で名も分からぬあの男子を憐れむ。
まぁ自業自得だけどな。
柊の逆鱗に触れてしまったアイツが悪い。
「ここ数年で1番怒ったかもしれません」
「俺もまさか柊があんなにキレるとは思わなかったからびっくりだ」
「気がついたらああなってました」
「…お前を怒らせないようにしなきゃな」
柊にキレられたらビビり散らかす未来しか見えないので、マジで気をつけようと心に誓った。
「余程の事がなければ怒りませんよ」
「…例えば?」
「んー…如月くんだったら…勝手に私の寝室に入って服が入ってる棚を物色してたら流石に怒りますね」
「なら安心だ。 俺がお前に怒られる事はない」
まず寝室に入らないしな。
ここまで仲良くなったのに信頼を裏切るような事はしたくない。
「私も如月くんの事は信頼しきってるので、最近は部屋に鍵かけてませんしね。 最初はかけてましたけど」
俺と柊の部屋は内側から鍵が掛けられるようになっているのだが、今の柊の発言に俺は目をパチクリさせた。
「いや、流石にかけろよ鍵」
「いちいち鍵かけて開けるの面倒なんですよね…だからどうせ入ってこないから良いかなって」
「不用心すぎやしないか…?」
「だって如月くんも鍵かけてないですし」
「まぁ確かに…」
「それだけ信頼してるって事ですよ」
柊は笑顔で言った。
それは純粋に嬉しいが、俺達は付き合っていない男女の関係だ。
流石に危ないだろう。
ここは少し注意しておくか。
「…なら、今度間違えたフリでもして入ってみるか」
そう言うと、柊は一瞬ビックリした顔になったあと、ニヤニヤした笑みを浮かべた。
「なんなら、この後私の部屋入ってみます? 別に入るだけなら良いですよ?」
「…い、いや…いい」
一瞬迷ったが、流石に不味いので首を横に振った。
すると、柊はクスクスと笑った。
「ほらやっぱり。 だから如月くんは信頼出来るんです」
「…完敗だ」
もう何をしても柊には勝てない気がしてきた。
いや、勝てないんだろうな…
そう思いながら、俺はソファに座り、シチューが出来るのを待った。
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