第9話 「怒りの女神様」
「これは一体どう言う事でしょうか」
「…ごめんなさい」
俺は今、腰に手を当てて立つ柊の前で正座をしていた。
場所は俺の寝室。
…正確に言えば、物が散乱した俺の寝室だ。
「最近はちゃんと朝起きてきますし、あまりプライベートの空間に入るのも駄目かなと思って入るのをやめていましたが、何故こうなるのでしょうか」
今日は土曜日だ。
流石に何度も起こしてもらうのは悪いので、自分で起きようと平日はアラームをかけ、早く起きるようにしていたのだが、土曜日という事で癖でアラームをかけるのを忘れてしまった。
そして起きてこない俺を起こしに柊が部屋に入ってきたという流れだ。
「服は畳んで棚にしまうかハンガーにかける。 漫画は読まないなら本棚にしまう」
「はい…」
「まさかアパートに住んでいる時もこんな生活を…?」
「……はい」
俺が言うと、柊は大きなため息をつく。
「…家の中に汚い部屋があるのは耐えられません。 掃除をします」
「いや、そこまでしてもらう訳には…!俺がやるから」
「1人で掃除が出来る人ならばこんな部屋にはならないと思いますが」
「返す言葉もございません」
「掃除道具を持ってきます」
そう言うと、柊は部屋を出て行った。
そして、水バケツと雑巾、そして掃除機を持って帰ってきた。
「まずは服からですね」
そう言って下に落ちていたTシャツを拾い上げる。
乱雑に床に置かれていたからか、シワだらけだ。
「はぁ…床に落ちてる服は全て洗濯して干して、アイロンをかけます。 そしたらちゃんと棚にしまうように」
「はい」
「では、服を集めて下さい」
俺達は、一緒に服を集める。
この1週間でまた服を買いに行ったので、少し増えた事もあり、結構な数になった。
洗濯カゴに服を入れ、柊は洗面所に行き、洗濯機に服を入れ、洗濯機を回す。
「さて、次は本ですね。…一応聞きますが、いかがわしい本などは落ちていないでしょうね」
「大丈夫です」
そう言うと、漫画本を拾い上げ、タイトル毎に綺麗に入れていく。
この漫画達は、全て実家にあったものなのだが、母さんが、暇だろうという事で送ってくれたのだ。
その際に母さんにここの住所を教える事になったのだが、柊は別に大丈夫と言ってくれた。
その漫画が昨日ようやく届き、本棚に入れるついでに読んでいたら夢中になり、寝落ちしてしまったのだ。
「…少年漫画、好きなんですね」
「ん?あぁ、頭空っぽにして読めるからな」
「漫画…私読んだ事ないです」
「柊は漫画より小説を読むイメージあるもんな」
大人気少年漫画の表紙を見ながら、柊は言う。
「そんなに気になるなら、読んでいいぞ」
「えっ」
「読んでみたいんだろ?」
「……では、掃除が終わったら借ります」
「おう」
柊は、笑顔になりながら本棚に本を戻した。
そして、布団を取り、シーツを剥がした。
「布団カバーを外して下さい。それも洗います」
言われた通りにカバーを外し、柊は洗面所に持って行った。
「後は窓枠を掃除したり、本棚の埃を払ったり、床を拭いたりしましょう」
「了解」
2人で掃除をし続け、15時を回った頃、ようやく全ての掃除が終わった。
柊はかなり厳しく、少しでも埃が残っているとやり直しさせられるので大変だった。
だが、お陰で部屋はピカピカになっていた。
「おぉ…すげぇな」
「部屋が綺麗だと落ち着くでしょう?」
「だな。なんか前はドンヨリした空気だったが、今はそれがない」
「これからは私が言ったことを守って、常に綺麗に過ごしてくださいね」
「はい」
「よろしい。これからは定期的にチェックしにきますからね。 次また汚くなってたら、夕飯の野菜を倍にします」
アイロンかけてきますね。と笑顔で言い、柊は出て行った。
絶対に綺麗にしよう。と、俺は心に誓った。
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その日の夕飯は、肉野菜炒めだった。
野菜炒めじゃないだけありがたいだろう。
手を震わせながら口に運ぶと、やはり野菜は美味しかった。
「美味い。食べれるぞこれ」
「良かったですね」
柊は笑顔で言う。
「もう如月くんは野菜嫌い克服したかもしれませんね」
「…いや、それがな、学食の野菜は駄目だったんだよな」
俺自身野菜を食べれるようになったと思い込み、学食で春樹と七海の前で自慢げに野菜を食べてみたのだが、その瞬間全身に鳥肌が走ったのだ。
いつも野菜は七海に食べてもらっており、「野菜食べれるようになったんだね。凄いじゃん」と言われたのに、その期待を一瞬で裏切ってしまったのだ。
「でも柊の料理に出てくる野菜は美味しく食べられるし、なんでなんだろうなぁ」
「味付けの違いですかね? 私はなるべく野菜の苦味を消せるような味付けをしてるので、多分その違いだと思います」
「なるほどなぁ」
つまり俺は野菜を食べれるようにはなったが、それは柊が作る野菜料理限定。
という事らしい。
「そうだ。 如月くんってどんな料理が好きなんですか?」
ご飯を食べ終え、皿を洗っていると、柊がそんな事を聞いてきた。
「ハンバーグかな。 基本的に肉料理は好きだけど、ハンバーグが1番好きだな」
「ハンバーグ…なるほど。 私が初日に作ったハンバーグはどうでしたか?」
「あれめっちゃ美味かったぞ。 また食べたいくらいだ」
そう言うと、柊はふむふむと考えるようなポーズをとる。
「分かりました。では次の中間テストで良い成績を残せたらハンバーグを作りましょう」
「え、マジ?」
今は10月。来週には中間テストが控えている。
因みに、ウチの学校は学年で上位20人の生徒は点数と共に張り出されるのだが、何と目の前にいる柊渚咲は、1学期中間テスト、1学期期末テスト両方で1位になっている。
因みに俺はどちらも36位で、平均より少し上だが20位には届かないという微妙な立ち位置だ。
「因みに良い成績というのは…?」
「そうですね…20位以内に入れたらにしましょうか」
「マジ…?…ていうか、サラッと20位以内に入ってないって言われたけど、何で知ってんだよ」
「上位20人の名前は全て把握していますので」
なるほど。
だが20位以内か…今の順位から16位も上げなければいけない。
しかも、20位と21位の間には大きな壁がある。
前回20位だった人間は成績を落とさぬよう更に努力を重ねるし…
「…とびっきり美味いハンバーグを頼む」
「任せて下さい。如月くんが今まで食べてきた中で1番美味しいハンバーグを作りましょう」
俄然やる気が湧いてきた。
今までは必要最低限の予習復習だけをしてきたが、今日からは勉強の時間を増やそう。
目指せハンバーグだ。
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