12湯目 免許取得への道

 こうして、翌日には早速、近所にある自動車学校に申し込みをしていた私。先輩たちには、毎日放課後に自動車学校に通うため、平日はあまり出れず、土日もしばらくはあまりツーリングに行けないかもしれない、と話をした。


 もっとも、先輩たちはいずれも喜んでくれていたが。


 だが、いざ通い始めると、それがなかなか大変だということに気づいた。


 まず、最初にやらされるのは、「バイクの引き起こし」だ。

 400ccほどのバイクを、教官が横に倒して、持ち上げる練習をする。


 だが。

「うーん!」

 どんなに力を入れても、バイクは全然起き上がらないし、ビクともしない。


 一体こいつは何100キロあるのかわからない。一般生活で、まずこんな重い物は持たないのだ。


 それは、孤独な戦いだった。女子の一生でこんなに重い物を持ち上げる機会はないし、ここでは誰も助けてくれない。


 一方で、私と一緒に受けていた20代と30代の男性は、難なく起こしていた。


 何度やっても起こせない私を見て、さすがに教官が、

「大田さん。腕の力だけじゃダメだよ」

 と近づいてきた。


「右足をバイク側に思いっきり踏み出して、体をバイクに押し当てるようにして、思いっきり力を入れて、バイクを反対側に持っていくようなイメージで、勢いよく起こすんだ」

 言われた通りにやってみた。


 さすがに最初こそ力がいるが、一度勢いがつくと、何とか引き起こすことは出来るのだった。


(やっと出来たけど。二度とやりたくない)

 それが正直な私の感想。


 その後は、教官に従って、コースをぐるぐる回り、クランクやS字カーブや坂道の練習をする。


 そして、一番の難題がやってくる。


 一本橋だ。

 長さが約15メートル、幅が約30センチ程度の、細長い鉄の板の上を低速走行でバランスを保ちながら安全に走行することが目的らしい。


 が。

(あ、これは無理だ)

 やってみてすぐに気づいた。


 何度やっても最初の方で落ちる。

 私は早くもウンザリしてきていたのだ。


 一応、教官からは、「目線を遠くに」とか「1速で上がって後は勢いよく行く」みたいなコツは教わるものの。


 所詮は、感覚的なものに過ぎない。


 早くも一本橋の試練で、つまずいていた私。


 そんな私を気にかけてくれのか、ある火曜日。先輩たちは、同好会メンバーで構成されるグループLINEで、私のスケジュールを聞いて、私がその日は、教習の予約が取れず、夕方は空いていることを告げると、


-じゃあ。気晴らしにまた温泉行こう-

 と、誘ってくれたのだった。


 早速、放課後に部室に向かった。


「それで、どこに行くんですか?」

石和いさわ温泉だ」

 まどか先輩が嬉々として口に出した、その場所。山梨県民なら、誰でも知っている、古くからある有名な温泉街だ。


 そして、甲州市に住む私からは「近すぎる」くらいに近いところにある。


「めっちゃ近いですね。私に気を遣わなくてもいいんですよ」

 一応、そう言ってみるが、まどか先輩も琴葉先輩も、フィオも優しい言葉をかけてくれるのだった。


「そんなんじゃねえよ。あたしが行きたいんだ」

「わたしも、久しぶりに行きたいわ」

「ワタシは、どこでもいいネ!」

 いずれも私より1歳年上なのに、年上らしさを感じさせない、「明るさ」と「可愛らしさ」と、「親しみやすさ」が彼女たちにはある。


 同い年の部員が誰もいない中、愉快で優しい先輩たちの存在は、私にとっても、「救い」になるのだった。

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