君と見た一夜の物語

雪白水夏

1話

「落ち着いて聞いて欲しい……正直君くらいの年齢の子にこんなことを言うのは非常に心苦しいんだが、君の命はあと3年持てばいいほうだろう」


 ベットの上で医者から私自身の体の状態を聞いても別に驚くことは無かった。


 それどころか『あぁ、やっぱりか』と淡々と現実を受け入れ非常に落ち着いていた。


「君は、驚かないんだね」

「えぇ、あれだけ不健康な生活をしてたんですからこうなって当然だってことは分かっていましたし」


 私はほんの少しだけ笑いながら答えた。


「君は後悔はないのかい?」

「後悔?ですか………私に後悔なんてものは無いですよ。確かに普通の人から見たら私の人生って後悔だらけなんじゃないかって思うかもしれないんですけど、実際その立場の人からすると案外なんとも思わないんですよ。人生を諦めてるって言うかなんというか」


 私の答えを聞き医者が悲痛そうな表情を浮かべていたことが申し訳なかったが、これが偽りの無い本心だったので訂正することはしなかった。


「それに3年って意外と長いと思うんですよ。余命宣告1年未満の人もいるのに私はまだ3年もある。そう考えたら大分マシになりますよ」

「だからと言って、君はまだ14だ。もっと生きたいって思わないのか?」


 医者のその質問で私は考え込んだ。

 確かに今の私はもう誰かに縛られることもないし、幸せに生きることも出来るのだろう。


 でも、もっと生きたいと思ってるかと聞かれると答えはNoだった。


 こんなことを言ったら他の余命宣告された方に失礼だとは思うが私は本心からそう思ってしまっているのだ。


「私は死にたいとは思ってないけど、生きたいとも思ってません。余命3年ならそれが私の運命なんだなぁと受け入れてそれまで生きますよ」




 ――――――――――――――――――――――――




「寒い」


 冬の風の寒さで身体を震わせながら枯れ葉が風に揺られて落ちていくのを見ていた。


「ふざけやがって、あいつらマジで容赦ねぇなぁ」


 そう言いながら昨日のことを思い返し、いつも通り学校に向かう。


「よぉ!今日は一段と寒いな!こんな寒いのに半袖着るとか……冬木ふゆき、お前って馬鹿なのか?」

「誰のせいだ!誰の!お前らが罰ゲームとかぬかして明日は半袖で登校してこいとか言ってきたんだろうが!」


 昨日のゲームの結果を思い出しながら俺がこんな事をしなければ行けなくなった元凶の1人を睨み付けた。


「あはは、ごめんごめん。そんな怒んなって。でも確かに俺が言い出した事だがそれに賛同して乗ってきたのはお前らだろ?そしてお前が負けた。何も文句言われる筋合いはないだろ」

「はぁ、それは分かってるからそこに関しては何も言うつもりねぇよ!でもな、文哉ふみや、お前はさっき完全に俺の事煽ってきてたよな!」


 俺が問い詰めるとこいつは『さぁ?なんの事かなぁ?覚えがないなぁ?』と知らぬ存ぜぬを貫き通そうとしてきたので1度頭をはたいておく。


「お前まじでしばき倒すからな」

「しばいた後に言うなよ!」


 こんな感じでいつも通りふざけ合いながら登校していると気づいたら学校に着いていた。


「んじゃ、俺はここで」

「どこ行くんだ?クラス同じなんだし一緒に行けばいいだろ」

「俺は今日日直なんだよ。だから日誌取りに行かなきゃならん」

「なら俺もついて行くよ」


 そうやって一緒に職員室前にあるboxから学級日誌を取ると目の前の黒板に書いてある今日の予定などを簡単にメモして一緒に階段を上った。


 一階が職員室、二階が3年生、三階が2年生、四階が1年生の教室となっており、俺と文哉は2年なので三階に着くと長い廊下を歩き始めた。


 教室は1組から順に並んでおり俺たちは8組なので1番奥の教室だった。


「はぁ、疲れた」


 教室に入って机に座った途端、文哉が机に突っ伏しながらそんなことを呟いた。


「お前体力無さすぎだろ。もう少し運動しろよ」


 隣の席の俺にはその呟きがはっきりと聞こえていたのでツッコミを入れると文哉は『運動なんか嫌いだー』と愚痴っていた。


「相変わらず文哉ってこういうところ見てるとアホに見えるよな」


 後ろから声をかけられ振り返るとそこにはもう1人の元凶がいた。


「ぼたもち!お前が言うな!というか後ろから急に声かけるな!ビックリすんだよ!この脳筋が!」


 坊主頭でケラケラと笑っている『ぼたもち』こと牡丹元一ぼたんもとかずに抗議したが、こいつは何に対して怒られてるのかわかっていない様子だった。


「ビックリすることの何がダメなんだ?朝は目が覚めていいことなんじゃないか?」

「お前それ本気で言ってるなら1発殴らせろ。後ろから誰かわかってない状態で大声で声かけられたら怖いだろうが!お前の声量考えろ!このくそ脳筋」


 そう、こいつはとにかく声量が大きい。普通に話してるはずなのに俺の3倍くらいはあるんじゃないかと思うほどだ。


「そうなのか?ならすまん」


 こういう素直な所は正直文哉よりも扱いやすいので好感があるが……いや、ダメだな。こいつ結局何も分かってないからまた同じことするわ。


 ぼたもちの表情を見てすぐに評価を覆すと俺は呆れたようにため息をはいた。


「お前ら2人のツッコミはマジで疲れんだから程々にしてくれ」

「ほう!これまで以上にボケて欲しいとな!」

「言ってねぇよ!このクソ文哉!」


 息が整い復活してきた文哉にまたしてもツッコミを入れるとまた今日もこんなのがずっと続くのかと頭が痛くなってきた。


 先生が入ってきて全員席に着くと文哉とぼたもちも前を向いていた。


 俺も前を見てHRの先生の話を聞いていたが不意に肩を叩かれた。しばらくは無視していたがそれがずっと続くので仕方なく振り返った。


「冬木君今日も大変だね」


 小声でそんなことを話しかけてきたのは後ろの席の佐藤鈴さとうすずだった。


「そうだな。でも今は話しかけるのやめて欲しかったな」


 そう。こいつはこいつで俺に対して害をもたらす女子なのだ。現在先生が話していてみんな前を向いている。そんな中で唯一俺が後ろを向いた。目立たないはずがなかった。


「ほぉ、佐倉さくら。今の俺の話聞いてたのか?後ろを向いてたんだし当然今日の予定を聞いてた訳だ。もう1回言えるよな?」


 ほらな!この担任はこういうことを平気でやってくるんだよ!だから後ろを向くのは嫌だったんだよ!

 というか後ろのやつに注意しながら聞くことなんかできるはずないし分かるわけねぇだろ!


 予定は普通、後ろの黒板に日直が書いてるはずなんだが今日の日直は体力切れでそんなことしてる暇などなく、まだ書かれてなかった。


「すみません。聞いてませんでした」

「あー、そうか。なら俺は知らんぞ。後ろ向いてたお前の自業自得なんだし、自分でどうにかしろよ」


 ふっざけんな!くそ理不尽かよ!


 散々だったHRが終わると隣の文哉が話しかけてきた。


「お前何やってんだよ。あの熊谷くまがいが話してる時に後ろ向くとか有り得ねぇだろ」

「んなもん知っとるわ!でもな、ずっと肩を叩かれたら反応しない訳にはいかないだろ」


 そう言って佐藤さんの方に目を向けるがぽかんとしたようの表情を浮かべ『私何かしました?』と言った様子だった。


 いや、声は聞こえてないとは思うけど、なんで見られてるかくらい普通わかるだろ。こいつもぼたもち同様ただのバカか?いや、でもあいつと違って勉強はできるからなぁ。


 朝から暗い気分になりながら授業を受けると体感時間がめちゃくちゃ長く感じられた。


 ようやく昼休みに入ると自分の席で弁当を広げた。


「……で?なんでお前ら俺の席の周りに集まってんの?」

「えっ?俺ら友達だろ?」

「いつも通り文哉と一緒にお前の席に集まっただけだが?」

「わっ、私は、その、文哉くんから私が原因で冬木くんが怒られたって聞いたから……その、申し訳ないしお返しがしたくて」


 三者三様の言い分があるらしいが……うん、ふざけんな。

 昼休みまでお前らのツッコミやらなきゃ行けないって考えるとただの地獄だろ!昼休みくらい俺に休みをくれ!


 まだ文哉はいいわ!こいつはわざとやってるから俺が本気で嫌がってる時はやめてくれるし。でもな!残りの2人は完全に無意識でやってるからいっちゃんタチが悪いんだよ!


 確かにさ、俺はこいつらには色々と助けて貰ったこともあるし友達だと思ってるよ。だからと言ってずっと爆弾を投げつけられたら疲れるだろうが!


 友達でも我慢出来ることとできないことがあるんじゃい!


「なら一緒に食べてくれたらコーヒーとドーナツ2つ奢るぞ」

「……3つならいいぞ」

「よし!交渉成立な」


 すまん。俺は食べ物には弱いんだわ。

 特にドーナツとコーヒーとかいう俺の大好きなものを奢って貰えるとなるとちょっとくらいの爆弾には目を瞑ってやろう。


「んじゃ、席を移動させて食うか!」

「よっしゃ、俺に任せろ!」


 そう言ってぼたもちが勢いよく前の机を俺の机に合わせてきたせいで俺の机の上にあった弁当箱が衝撃で中身をぶちまけながら床に落ちた。


「………」

「あっ、すまん」


 何がすまんじゃ!まじでぶん殴ってやろうか?いや、こいつに喧嘩で勝てるとは思えんけどしばき倒してやりたいんだが?


「だっ、大丈夫だよ!私の弁当半分あげるから!」

「それって、佐藤さんの手作り弁当?」

「うん!そうだよ!私が朝6時に起きて作った弁当!」


 あっ、ダメだ。

 俺は自分に向けられる無数の視線を感じてクラス内での死を覚悟した。

 いやね!佐藤さんは顔はめちゃくちゃ可愛いのよ!勉強ができ、それにその小柄な体型は男子の加護欲を掻き立てるんだろうな。


 簡単に言うとめっちゃモテてんだよ!そんな人の手作り弁当を食うってなるとどんな目で見られるかくらい分かるだろうが!


 これ断ったら断ったでヤバいやつ認定されるし逃げ道がねえじゃねえか!


「こいつには親友の俺が弁当を半分あげるから佐藤さんは自分で食べな」

「俺が落としちまったようなもんだし俺もこいつに半分やるよ」


 おぉ!文哉お前だけが俺の味方だ!ぼたもち!てめぇがこうなった原因なんだから感謝なんか絶対しねぇぞ!


「えっ、男子の2人はちゃんと食べないとダメだよ!それに私が冬木くんに弁当を半分あげたいの!」

「……今なんていった?」

「うん?私が冬木くんに弁当をあげたいって言ったの。私今少しダイエットしたいからちょうど半分あげるくらいがちょうどいいの」


 ふっざけんな!危機を脱したと思ったらお前はなんでまた爆弾を落としてくるんだよ!

 なにか俺に恨みでもあるのか!というかそれならほかの女の子の友達にあげろや!お前女友達も多いだろうが!

 わざわざ俺に渡す意味ねぇだろ!


「あのさ、それなら他の人にあげたらいいんじゃない?女子が男子にあげるのは色々問題ある気が」

「文哉くんが言ったんだよ!私のせいで朝、冬木くんが怒られたんだって!だからそのお返しをしないとダメじゃん!それに私がOKって言ってるんだから何も問題は無くない?」


 問題大ありだよ!それにお返しじゃなくて追加攻撃してきてんじゃねぇか!

 なんだお前?

 俺をオーバーキルでもしたいのか?


「すまん、冬木。俺にはもう佐藤さんを止められない」

「諦めないで!」


 思わず声が裏返ってしまったが文哉の諦めの言葉を聞き俺は絶望していた。


「何か知らんが頑張れよ!」


 お前に言われたくねぇよ!クソぼたもちが!


 そんなこんなで昼休みを終え、残りの5、6時間目の授業も何とか乗り切ると佐藤さんは友達と一緒に帰るからと、ぼたもちは部活があるからという事で別れた。


 俺と文哉は部活をやってないし、家も同じ方向にあるので一緒に帰っていた。


「そういえば冬木のお母さんどうなんだ?」

「まだ目は覚ましてないよ。毎日お見舞いに行ってるけどやっぱり虚しくなるだけだし少しの間行くのは止めようかと思ってる」

「あぁ、お前も少し休まないとだしいいと思うぞ」


 俺の母さんは交通事故で植物人間になって未だ目を覚ましていない。ぼたもちと文哉と俺は一緒にゲーセンで遊んでたんだがその帰り道で偶然母さんの乗ってた車が大型トラックと衝突した瞬間を目撃してしまった。


 その時にたまたま通りを歩いていた佐藤さんも力を貸してくれて4人で何とか母さんを車から救出する事が出来たんだが、その後すぐに救急車が来たけど母さんの意識が戻ることは無かった。


「あぁ、だから今日お見舞いに行ったら1週間くらい通うのはやめるつもり」

「そうした方がいいと思う」


 そう言って俺は病院の方に向かうため文哉と別れた。文哉は『ついて行こうか?』と言ってくれたが断っておいた。


 病院はここから数百メートルの場所にあり数分程度で着いた。


 受付の人の所に行くと顔を覚えていたのか直ぐに通して貰えた。


「母さん。早く目を覚ましてよ」


 もう動くことも無くなり、やせ細った母の手をぎゅっと握りしめた。


「そういえば今日はまたあの3人がさ……」


 いつものように今日の出来事を話終える頃には既に日が傾いていて、赤い空が広がっていた。


「また来るね。多分次は少し期間が空くと思うけど」


 そう言って病室を後にするとエレベーターを使って下に降りるためボタンを押して来るのを待っていた。


 扉が開くと少女が1人乗っていたので降りるのを待ってからエレベーターに乗り込んだ。


「あっ、ちょっと…」


 後ろから声が聞こえたが、扉が閉まりエレベーターが動き出したので気にしないことにした。


 1階の待合室を抜け、外に出ると夕食の材料が何も無かったことを思い出し、家に帰る前に買い物をするため近くにあったコンビニに入った。


「あれ?冬木くん?」


 ………なんで佐藤さんがここにいるんだ?友達と帰るって言ってたよな?家の方角は俺と真逆のはずたじここにいるはずがないと思うんだが?


「えっとね、その、彩花あやかとそこのショッピングモールで買い物してたんだけど、急用が入ったらしくて別れたんだ。それで暇だし何か買って帰ろうかなってコンビニによったんだけど」


 なるほど。確かに大型のショッピングモールはこっち方面にしかないから友達と遊んだり買い物したりするならこっちに来ていてもおかしくない。

 その帰り道にコンビニでお菓子を買ったりするのは普通のことだ。


「そうなのか。気をつけて帰れよ。もう夕方だし、佐藤さんが家に着く頃には真っ暗になってるだろうからな」

「もう!そういう時は送って行くって言うもんだよ!」

「クラスメートが男女で帰ってるなんてことが広まったらどんな噂が立てられるか。悪いけどほかのクラスメートに目をつけられるのはマジでだるいよ」


 少し言い方がキツイかもしれないが、佐藤さんと一緒に帰ったりしてるところを他の奴らに見られたら面倒な事になるのは容易に想像着く。


 だから何とか断る必要があったが濁して断るとしつこく迫ってくる佐藤さんの性格上はっきりと行きたくないと言う必要があった。


「そうかー。残念だなぁ。じゃあまた明日ね!冬木くん!」

「あぁ、またな」


 正直学校内で俺は佐藤さんと関わることが多いし今更な気もするがこれでよかったのだと自分に言い聞かせる。


 正直、今日は料理をする気が起きないしカップ麺で夕飯をすまそうと考え金額的に一番安いヤツに手をかける。


「………はぁー」


 1度ため息を吐くとカップ麺を戻しコンビニを後にして佐藤さんを追いかけた。


「あれ?どうしたの?」

「いや、もしほんとに佐藤さんが一人で帰って行方知れずとかになったら多分後悔すると思うし、母さんの件もあるから送って行くよ」


 俺のその言葉を聞きポカンとしたような表情をしていたがすぐにくすくすと口元を抑えて笑いだした。


「あれ冗談で言ったのに……ふふ、そんなに私の家が知りたいんだ」

「は?よしならお前一人で帰れ」

「待って待って!冗談だから!少しからかっただけだよ!」


 こいつは………いや、やめておこう。こいつはただのアホだアホ。気にしたら負けだ。


「次言ったら容赦なく帰るからな」

「分かったよ。でも冬木くんは優しいね」

「べつに。普通だろ」

「私はそんなことないと思うよ」


 俺は褒められることに慣れておらず気恥ずかしくなって顔を逸らした。


「あっ、恥ずかしがってる!」

「うるさいなぁ」


 あはは、と笑う佐藤さんを見ながら俺は少し笑みを浮かべる。


「本当にありがとうな。あの時」

「あー、でもお母さん目を覚ましてないんでしょ?助けられなかったのにありがとうって言われる筋合いはないよ」

「いや、医者も言ってたけどあの時車から出してなかったら体が押しつぶされて命はなかったかもしれないって。植物状態とはいえまだ生きているんだ。生きてたらまた目を覚ます可能性もある訳だし感謝しない訳にはいかないから」


 何をされても許すという訳では無いがある程度までのことなら素直に許そうと思えるほどに俺は佐藤さんに感謝していた。


 別にマザコンという訳では無いが女手1つで育ててくれた母さんには家族愛を感じていたし、その母さんを助けてくれた訳だからそう思って当然だろう。


「でも感謝するならその後のアフターケアについても感謝して欲しいなぁ。私ってあの事件が起こる前まで冬木くんに迷惑かけたことないでしょ?それなのに突然にあんなに迷惑かけるようになったのなんでだと思う?」


 そう言われて俺は以前までのことを思い出してみる。


 確かに思い返してみると佐藤さんがそれまで俺に対して何か迷惑をかけてきたことは1度も無かった。関わる機会が以前は少なかったとはいえそれでも多少は関わりがあった。それなのに1度もないということはこれほどの頻度で爆弾を投下してくるようなやつなら普通はありえないだろう。


 それに誰が今日俺がされたような先生に怒られる原因を作ってくるような人と友達になりたいと思うだろうか?


 ここまで考えると必然と答えは見えてきた。


「つまり今までの事はわざとやってたと?」

「イグザクトリー」

「よっし、家に帰るか!」

「ちょっと待って待って!せめて説明を聞いて欲しい!」

「なんでわざと俺に嫌がらせしてくるようなやつを家まで送っていかなきゃ行けねぇんだよ!」

「それならこれからは元一くんや文哉くんとも一緒に帰らないの?」


 なんでそこでその2人が出てくる?

 一瞬そう考えたがすぐに理解した。


「まさかお前ら3人は共犯だと?」

「そうだよ!」

「いや、えっ?何でそんなことをするんだ?」

「だって、冬木くんずっと元気なかったじゃん。あの事故を思い出して暗い気分になっていることはわかるし、それならそんな事を考える暇がないくらい忙しい毎日にしてやろうって3人で話し合ったんだ」


 そういう事か。

 よくよく思い返してみるとあの時の俺は少し病んでいたのかもしれない。でも今のこいつらにツッコミを入れている俺からは全然そんなのを感じとれなくなっていた。


「また借りを増やしてたな、俺」

「別に借りだなんて思ってないよ。それに……私も昔冬木くんに助けて貰ったし」

「俺が助けた?」

「あっ、やっぱり覚えてないね!もう!」


 一体なんのことだ昔って言うくらいだし高校に入る前のことであることは間違いないだろう。だが、俺は高校入学前に佐藤さんと顔を合わせた記憶が無い。


「ごめん。いつ会ったか教えてくれないか?」

「うーん。やっぱり内緒!頑張って自分で思い出すんだよ!あっ、家ついた!ありがとね送ってくれて!」


 そう言って手を振って家の中に入っていく佐藤さんを見送ってから俺も自分の家に帰った。


 家に着いてから食べるものが何も無いことに気づき仕方なく、また外に出てコンビニでカップ麺を買ってそれを夕食にした。

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