アレスターズ

水岡修二

第1話 序:雨音

キリンは長い間、ただただ、待ち続けていたらしい。

 待ち合わせの時間に、栗毛色の二頭の馬が引く馬車に乗ってやってくるはずだった、優しい母親と、威厳のある父親を。

 何もかも、盗まれ、奪われてしまったことも知らずに。

 1時間、2時間と過ぎても、キリンは待ち続けた。

 やがて、空が暗くなりはじめ、夏の夕暮れに、急に降り始めた大雨が、屋敷の軒先にたたずむキリンの白いワンピースの裾を濡らしても。

 キリンはただ、待ち続けた。

 それ以外の方法を知らなかったから、と言っていた。

 両親が戻らないことを聞かされた頃には、日がすっかり暮れて、大雨が去った夏の夜空に光る星が、キリンの足下の水たまりに、きらきらと揺れていた。

 きらきらと揺れていたのを、ぼうっと眺めていたのを覚えている、とキリンは言っていた。

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