S級冒険者は死にたくない
星屑
第一章 【念願叶ったら不運な件】
第1話 「今日からS級冒険者」
「おめでとうございます、ファイヤードラゴン討伐…並びに今までの功績を踏まえ、アレン・ダヴィン様はS級冒険者となりました!」
顔馴染みのそばかすがチャームポイントな受け付け嬢、マーロが笑顔で拍手を送ってくれる。それに照れているとゴールドの冒険者証が渡された。
恭しく受け取りつつ今までの過去の思い出を振り返る。
苦節12年…14歳で冒険者デビューを果たし、ただがむしゃらに一人でクエストを受け続け魔物達との命をかけた戦いをし続けた。26歳にしてS級は充分優秀と胸を張りたい。故郷の両親に反対されても飛び出したこと、一度も後悔したことないのは生まれ持った身体の強さのおかげもあるだろう。
両親には本当に頭が上がらない。金も結構溜まっているから一度故郷に帰って親孝行に軽く資産を投じるのも
「くぅーー!かっこいいなぁっ!」
ともあれ、S級のカードを掲げまじまじと色んな角度から見てみる。あぁ、なんて綺麗なんだろうか。パッとしない俺の名前が書いてあるが、それすらなんだか英雄の名前にも見えてくる。
ルンルンの気分で鼻歌まじりに小躍りしそうな俺にマーロは苦笑いを浮かべ一枚の依頼書を差し出して来た。
「え、なにこれ?」
「
「…え?」
「ここから馬で半日の所にある村でドラゴンの死体が発見されました、付近には真新しい別のドラゴンの痕跡があり、調査と見つけ次第討伐の
ポカンと今の俺は随分アホらしい顔をしているだろう。さっきまで笑ってた頬がそのまま固まり、口の端がひくついている。
「…マジで?」
「よろしくお願いしますね!」
「今S級になったばっかりだよ?つか、さっきドラゴン一匹どうにかこうにか殺ってきたばっかなんだよ?」
「さすがアレン様、無傷での
「マーロ?マーロちゃん?え?マーロ様!?ねぇ、聞いてる!?」
「馬もこちらで用意してありますので」
「ねぇってばぁ!?」
良い笑顔のマーロ、気弱そうな見た目に反して強かだ。長く冒険者ギルドで働くにはそんな強かさが必要なのかもしれないけれど、顔馴染みに気遣いぐらいしてくれないだろうか。
半泣きの俺へ向けられていたギルド内の冒険者達から送られる羨望の眼差しが同情の眼差しに変わるのが分かってしまう。
ちらりと周りを見ると美味そうなご飯を食べ、よく冷えたエールで打ち上げしていた数人と目が合う。
…サッと逸らされたが。
「……断ったりは…」
「現地の住人達が今か今かと待っております」
「俺が昇級出来なかったらどうしてたのそれ…」
「出来ると信じておりましたからっ」
誇らしげに胸を張られて…身を切る様な嬉しさからだろう、涙が止まらない。嬉しさじゃなかったらなんの涙なのかなんて考えたくもない。
「…はあ」
「ありがとうございます!」
にこやかなマーロから依頼書を受け取りとぼとぼとギルドを出るとご丁寧に名札がかけられた馬がギルド前に用意されていた。
【S級冒険者 アレン・ダヴィン様】
誇らしく嬉しいはずなのにどうして俺はこんなにも悲しみいっぱいで馬に跨っているんだろう。
無傷でドラゴン倒せたのだって奇跡だった。死にそうな攻撃ばっかりで疲れもした。報酬は美味かったが、文字通り命懸けのクエストだったのだ。
それを帰ってきて早々に…。
よく晴れた空をぼうっと見ていたら孤児らしき子供が花をそっと差し出して来る。優しい。
「これどうぞ」
「…ありがとう」
「料金は銅貨2枚です」
あ、別に気遣ってくれたわけじゃないのか。この子も強かだなと泣く泣く財布から銀貨を1枚取って渡す。
「え?」
「いい物でも食べな…一応商売だとしても嬉しかったよ…」
背中を丸め立派な装備を台無しにして馬の上で悲壮感に溢れる気前のいい客を見送りながら花を押し売りした少女は少し悪いことしなぁとバツが悪そうに頬をかいていたのに俺は気付くことは無かった。
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