第4話 『 男だって泣きたい時くらいあんだろ 』


「おい、てめえら。私のシマで何やってんだ。――そうだ。とっとと失せやがれ。そんでもう一度その汚ねェツラ見せたらぶちのめすからな」


 慌てて去っていく不良たち。それを見届けたあとアマガミさん、ボッチも睨んだ。


「お前も来いっ……なに驚いてんだ。安心しろ。私たちの関係なんてバレやしねえよ。だから、行くぞ」


 手を引かれるまま、ボッチは歩いた。


「さっきの奴ら、お前に何した? まぁ、顔見りゃ分かるが。いっそ病院送りにしてやればよかったな」


 本気で怒っているアマガミさん。怖かった。


「「暴力は止めて欲しい」って、悪いけど聞けねえ相談だな。私の一番大事なもの傷付けられたんだ。次あったら容赦しねえ」


 ちらっ、とアマガミさん振り向く。


「お前がもし、私が他の奴に怪我させられたら怒るだろ?」


 こくりと頷いた。


「そういうことだ。でも、お前は優しいから誰かを怪我させる、なんて暴力はしない。きっとお前なりのやり方で解決すると思う。でもなボッチ、私にだって曲げられねえプライドってもんがあんだ。私は私の力を理解してる。その力で、私はお前を守るって決めてる」


 アマガミさん、すごく真剣な顔と声で言った。


「……「それでも暴力は良くない」か。はは。本当にお前は優しいな。え? 「せっかく綺麗な手なんだから傷付いたら勿体ない」……「それにアマガミさんの顔に消えない傷が残ったら嫌だ」って心配してるのそっちかよ⁉」


 アマガミさん、顔を赤くして怒った。でも、さっきより穏やかな雰囲気だった。


「お前はどんだけ私のことが好きなんだ。そんなに真っ直ぐに見られたら誰だって答えずにはいられないだろ。はいはい、好きな気持ちには嘘をつかないだよな。――ふっ。そういうところに惚れたんぞ私は」


 うまく聞こえなくてもう一度言ってもらおうとすれば、


「今のは聞こえなくていいんだよ。ばーか」


 ***



「ほれ、手当するからジッとしてろ。ん、それでいい」


 リビングから救急箱を持ってきた持ってきたアマガミさん。


「「出来るのか」って? 舐めんなよ。脱脂綿に消毒液浸して傷口に当てる、そんで絆創膏だろ。そんくらい、ガサツな私でもできるっつの。……あれ、でも案外難しいな」


 そう言ってアマガミさん、手古摺りながらも応急処置してくれた。


「傷口、沁みると思うけど我慢しろよ。つか、見事に口切れてんな。痛かったろ」


 うん、と頷けば、アマガミさんから笑顔が消える。


「よし、見つけ次第ぶっ殺してやる。「止めて」って言われたもなぁ。少なくとも半殺しにするのは確定してるぞ」


 アマガミさん、凄く物騒だ。


「よし、消毒はこんくらいでいいだろ。あとは絆創膏張るから、もう少しこのままでいろ」


 アマガミさん、優しい目つきになった。


「これでよしっと。あとは? ……おおう、そこも結構派手にやられたんだな。腹も痣になってんじゃねえか。本当にどうしてこうなったんだ。とりあえずシップ張るぞ」


 服捲って、アマガミさんに湿布を張ってもらう。

 応急処置が終わって、少しだけ緊張の糸がほぐれた。

 救急箱を閉じたアマガミさん、するといきなりぎゅっと抱きしめてきた。


「痛かったよな。我慢しなくていいぞ。うん? 「男なら我慢できるよ」か。お前が見た目に反して強いってのはもう知ってるよ。でも、こういう時は私に甘えろ」


 アマガミさんの優しい声。


「お前の痛みを代わりに引き受けることはできねえけどさ。でも、少しでも痛みを和らげてやることはできる。ま、こんな方法しか思いつかないけどな。なになに? 柔らかくて最高です……このむっつりスケベめ」


 アマガミさん、呆れながらもさらにぎゅっと強く抱き締めてくれた。


「手、ずっと震えてるぞ。無理しなくていい。男だって泣きたい時くらいあんだろ。――そうだ。思いっ切り泣いていい。全部私が受け止めてやるから」


 優しいアマガミさん。ボッチは我慢しきれずに泣いてしまう。


「今日はお前の怖かった記憶が無くなるまで抱きしめててやる。なんなら明日学校サボって一日中一緒に居てやろうか? 「それは良くない」って、ふはっ。やっぱお前は真面目だな」


 アマガミさんがくすくすと笑った。


「よしよーし。お姉さんがこの先もお前をずっと守ってやるからな。――「僕もアマガミさんを守れるくらい強くなる」……ふふ。そうか。なら楽しみに待ってるよ」



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