とあるモブの独り言
幸崎 亮
1人め/ とある王国兵士の独り言
人生は『自分が主人公の物語だ!』って、よく言われるじゃん?
――でもさ、違うんだよね。俺は知ってるんだよ。
『この物語の主人公は俺じゃない』って。
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
何故わかったのか――って? ここが異世界だからだよ!
それも、昔やってたゲームの世界だ!
俺は現実世界で死んで、ここに来た。
いわゆる『転生者』ってヤツなのさ。
死んだ理由? まあ察してくれ。
どうせ言った所で理解もされないし、他人の人生なんて興味無いだろ?
そう、現実だろうが異世界だろうが、それは結局変わらなかったんだ。
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
――で、だ。
さっきから、兵士の俺にしつこく話しかけて来てる金髪のガキ!
こいつこそが『主人公』なんだよな。世界を救う救世主だよ。
まあ、俗に言う『勇者』って奴だ。
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
つか、何で俺にばっか嬉しそうに話しかけて
城門の反対側にもう一人立ってるだろうが!
――大体、『おわします』って何だよ!
俺もそこそこ社会人やったが、そんな言葉一回も使った事ねえよ!
それなのに、もう今だけで三回だぞ!
異世界転生する前にさ、
あれがマズかった。
『もし本当に異世界に行けるならそれだけで良い。凄いスキルとかいらないから平穏に生きたい』ってさ。
――その結果が
確かに平穏だよ。
通勤なんて、そこの城に入って兵舎に帰るだけだしさ。
立ってるだけでノルマなんてモンも無い。
しかも、この城は序盤の町なんだよな。
だから戦闘に巻き込まれる事も無い。
――ああ、まさに平穏だよ!
望みどおりさ!
サンクスゴッド!
ファアーッ!
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
つか、いい加減に王様んトコ行けよ!
俺もゲーマーとして、本編前に寄り道したい気持ちはわかるよ!
――でもよ、俺に話しかけても何も起きねぇんだよな。
こっちは
同じ
あと『おわします』ってどういう意味なんだよ。
調べようにも検索出来るようなアイテムも
言葉が通じてるのは、元がゲームの世界だからってのはわかるけどさ。
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
いい加減キレちまいそうだが、俺は残念ながらキレるような
今なら『戦士とか傭兵になりたい』って願えば良かったと思うが、当時のズタボロメンタルじゃ、戦いだの争いだの――もう厄介事なんてまっぴらだったんだよ。
もう何回目のやり取りだか忘れたが、やっと勇者様はトテトテと階段を上がって行きやがった。
さっさと世界を救いに行ってくれよ主人公。
二度と戻って来んな。
あと、どうでもいいことなんだが――
さっきから隣の
普段は人形みたいに真正面を向いてんのに、その時だけ意志を感じんだよ。
もしかして、アイツも俺と同じだったりすんのか……?
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
話を
俺に許されてるのは
まさに『おわしますマシーン』だよ!
二階から戻って来た勇者の背中では、ピッカピカの剣が輝いてやがる。
あれは確か、聖剣バル――ナントカってアイテムだよな。
何でいきなり伝説の武器貰ってやがるんだよ!
俺ん時なんてザコい棒切れと
『さあ、魔王を倒してまいれ』だったぞ!
勇者は
……ああ、やっと俺の仕事は終わりだ。
もう転生なんてコリゴリだ。安らかに成仏したい気分だぜ。
隣の兵士が哀れむような目で俺を見やがる。
やっぱ、アイツも同じなのか……。
「ねぇ!」
「ようこそ。王様は二階におわします」
だァ――!
さっさと世界を救ってこい! このクソ勇者ァ――!
二度と戻って来んな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます