ウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーン・フォール・アウト・アット・トゥナイト

モリアミ

本日のSUN・SUN・JAPANは一部内容を変更してお送りします。

「えっ?」

 僕は思わずニュースに向かって聞き返してしまった。僕の困惑が画面の向こうの専門家に届くはずなんて無い。


『下田さん、もう一度お願いします。』


 専門家じゃなくてアナウンサーへと僕の願いは届けられた。


『ウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンです。』


「はっ?」

 こんな新手の早口言葉を、一度や二度聞いたくらいで覚えられる訳がない。


『下田さん、そのウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンとは、どのような現象なんでしょうか。』


「嘘だろ?」

 きっと台本に書いてあるんだ、僕の物覚えが悪い訳じゃない。


『スーパー・ムーンというのは皆さんご存知ですね? 月が地球に最も近づいた時に満月、或いは新月となる現象です。これは正式な科学の用語ではないんですが、メディアなんかで近年よく取り扱って来ているのでご存知の方も多いでしょう。その上で、地球と月との距離が最接近する近点に位置する、前後1時間以内に満月、或いは新月となる現象をエクストリーム・スーパー・ムーンと言います。』


「どゆこと?」

イマイチよく分かんないような、分かるような。


『下田さん、月が最接近した前後1時間に満月になるとは具体的にどういうこと何でしょう?』


『つまりですね、目視で観測する分には違いは分かり辛いとは思いますが、月齢というのは時間単位で増減しているということです。なのでそのタイミングがぴったり合う特別なスーパー・ムーンがエクストリーム・スーパー・ムーンなのです。』


『下田さん、エクストリーム・スーパー・ムーンについては分かりました。それで、ウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンとはどんな現象なんですか?』


「物分り良すぎだろ。」

 アナウンサーというのは番組を進行させるのが仕事なんだ、そう思って諦めよう。


『今までは地球と月の距離に焦点を当てて話してきましたが、今度は太陽との距離が問題になってきます。』


「太陽との距離?」


『太陽との距離ですか?』


 僕と彼とは以心伝心、二人の距離つなぐテレパシーってこと?


『スーパー・ムーンはもちろん通常より月の明るさは明るくなります。月と地球の距離が最も遠い時と比べて30%ほど明るくなります。その上でですね、太陽との距離が近い時には月の受ける光量も多くなりますので、そういった場合のエクストリーム・スーパー・ムーンのことをエクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンと、我々の界隈ではそう呼んでおります。』


「その界隈、どこだよ?」

 どこに有ってどうすれば出会えるんだ、その界隈の人に?


『ということは下田さん、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンというのは正式な名称では無いといことですか?』


「気になるのそこ?」

 どうでも良い部分でしょ、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンが正式名称かどうかなんて。それより、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンって覚えてる僕、凄くない?


『これはですね、近年になって研究や議論が活発になって来た分野でして、我々専門家の間でも呼び方なんかは統一されて無い訳です。しかしですね、現象自体の認識に付いてはどの専門家の間でも共通の理解が有ると言えます。エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンの場合、概ね50%ほど明るくなります。』


「へー。」

 こんなの、へーとしか言いようがない。


『下田さん、50%というのは、地球と月が最も離れたときの満月と比べて50%ということでしょうか?』


『概ねそう言った理解で問題ありません。』


「つまり、明るいってことでしょ。」

 僕の横に下田さんが居ればこう言うだろう、概ねそう言った理解で問題ありません、と。


『下田さん、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンについては分かりました。それで、ウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンとはどんな現象なんでしょうか?』


『そうですね、実は私はウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンについては専門ではないので正確な説明は出来ないのですが、大まかにどういう現象か解説します。』


「そうなの?」

 ここまできて、それはないよ、下田さん。


『お願いします、下田さん。」


『近年、環境破壊やCO2の排出量の増加で地球温暖化が進行していることは、皆さんご承知のことと思います。その地球の温暖化によって様々な災害が起こっていることも同じくご承知のことではないでしょうか。実は、温暖化の影響というのは天体規模でも甚大な影響を及ぼしています。端的に言うとですね、地球の重力に大きな乱れを生じさせているんです。様々な要因が複雑に重なり合っているんですが、温暖化による地球の体積の増加、熱エネルギーの増大、地軸のずれなど多くの問題が有ります。重要なのはですね、それらの問題によって地球の重力圏が大幅に広がってしまったということです。本来、月という天体は少しずつ地球から離れて行ってる訳で、今までこれは問題視されて来ませんでした。ただ、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・スーパー・ムーンで月の熱エネルギーが増大し月の重力圏が少し増大した結果、月と地球の間の重力が飽和状態となるエクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンという現象が発生することになったのです。』


「つまり、どういうこと?」

 グラビティがサチュレイテッドだとどうなるって、下田さん、教えてくれよ。


『下田さん、つまり、どういうことが起こるんでしょう?』


『つまり、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンが発生すると、月が地球に落ちて来ます。』


「マジ?」

 人間ってのは、極限状態になるとあんまり気の利いたことってのは思い浮かばないもんだな。


『下田さん、月が地球に落ちるとどうなるでしょう?』


『地球は滅亡でしょうね。』


「でしょうね。」

 ていうか、ウルトラはどこ行ったの?


『下田さん、ウルトラにはどういった意味があるのでしょうか?』


『ノリですね、特に意味はありません。』


「ノリかよ。」

 国民の何割が同じツッコミをしたことだろう、視聴率100%なら10割だったろうけども。


『まぁ最初で最期の現象ですから、問題ありません。』


『今日は番組の一部内容を変更して、国立先端天文先進技術研究所の主任研究員の下田さんとウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンについてお送りしました。下田さん、ありがとうございます。尚、ウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンがご覧になれるのは、今夜10時過ぎ頃からです。それでは次は、休日のニャンコのコーナーです。』


「はぁ。」

 もう、溜め息しか出てこない。今夜世界が終わるってのに、朝の貴重な時間をごっそり持ってかれた気分だ。いや、気分だけじゃ無くて、実際持ってかれてるだろ、絶対。それもこれも、エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンをノリでウルトラ・エクストリーム・マキシマム・シャイニング・グラビティ・サチュレイテッド・スーパー・ムーンにした奴が悪い。誰なんだ、下田さんか? こんなのは簡潔簡略に伝えれば良いんだ。例えば……


「今宵、月が、落ちる。」

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