第7話 ルカ

 見合いの失敗から、婚活恐怖症になりかけていたアオイさんだったが、あえてユイは、間をおかずに、次の相手を紹介した。何かと派手な印象を受ける副島さんとは対照的に、地味で平凡な男性であったが、かえって今のアオイさんにとっては良かったのだろう。33歳という年齢の割には落ち着いていて、見合いの席では、もっぱらアオイさんの話の聞き役に徹していた。見合い後、アオイさんからの報告で、その大人を感じさせる態度に、好印象を持った、と語っていた。相手の男性からも、交際したい、との連絡が入り、見合いは成功した。

 その後、三度目のデートで、男性からプロポーズ。トントン拍子で話がすすみ、順調な交際が続いていた。

 アオイさんの近況を語るユイの顔つきには、喜びはもちろんだが、それ以上に、安堵感がにじみ出ているように、ルカには感じられた。


 一方で、副島さんは、と言えば・・・現状維持。その後、一度、ユイの紹介で見合いの席を設けたが、やはり相手の女性から断りの連絡が入った。結婚相談所を介しての見合いとは別に、婚活アプリを使って、出会いを探しているようだったが、いい結果は出ていなかった。

 あんなイケメンでモテそうな人なのに・・・

 ルカには謎だった。自分大好き、自己チューなマウント男とは言え、あれほどの見た目だ。ひっかかる女性の一人や二人はいそうなものなのに、と思うのだが、いざ本気で結婚となると、見た目だけではうまくいかないらしい。

 ユイも副島さんの話になると、苦笑いを浮かべるばかりだったが、それほど気にもしていない感じだった。

 「40歳目前で、自分に気付けないようでは難しいかもね。アドバイスはしているんだけど、恵まれすぎた環境の中で、身につけてしまったものは、なかなか治せないものよ」と、ちょっと冷たいんじゃない? と思えるような口ぶりで言い放つことも稀ではなかった。

 アオイさんや副島さんの顔を思い浮かべながら、ルカは事務所の掃除をする手を止め、窓から覗くのぞく空を眺めた。午前中は快晴だったのに、今はいつ雨が降り出してもおかしくない、どんよりとした曇り空だった。

 (結婚相談所の上空の天気は変わりやすいのかしら? )

 ルカは、心の中で呟いた。

 所長のユイさんは全天候型だ。猫の目のように変化する天気を読んで、対応し、今も奔走している。誰もが望んでいる快晴の空を探して・・・。

 (でも、そんな日々を送っているユイさんの心の中の天気は、どうなのだろう? 晴れ間がみえてるかな? ) 

 そんなことをとめどなく考えていたときに、突然、事務所の電話が鳴った。ユイからだった。予定よりも遅くなりそうだから、適当な時間で帰っていい、との連絡だった。ルカの心に、雨を降らせそうな黒雲が湧いた。

 (きっとこみいった事情のある依頼者なのだろう・・・)

 と、ルカは想像した。気持ちが塞がりそうになった瞬間、

 プツッ!

 という短い音が、ルカの鼓膜を打った。何が起きたのかは分からない。でも、これまでの経験から、何か異音が聞こえたときには、棚を見ることにしていた。

 すると、先ほどの音の正体が、すぐに知れた。棚に置かれていた、アンティークのガラス製のランプ。三方に糸が伸びて、固定されていたのだが、その一本が切れたのだ。

 そのとき、ランプフードの一つが、ボンヤリと青い光を放ったように見えた。電源は入っていない。発光することなどありえない。不思議に思い、目をこすってから、もう一度見直したのだが、光は点っていなかった。

 (予兆? )

 ルカは暫くの間、そのランプの前から離れられなくなった。

 

 

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