美味しいと思えた

崎谷さんが、ご飯を作って欲しいと言われた。


久しぶりに、カロリーもダイエットも気にしないで買い物をする楽しくて堪らなかった。


料理を作るのも楽しくて堪らなかった。


美陸みろくさんの話を聞いて私は思い出した。


そうだ。痩せるのが無理ならば、美味しいと思えるものを食べたいと思ったのだ。


三人で、囲む食卓は久しぶりに美味しかった。


水で流し込む食事ではなかった。


噛んで、味わって、喜びが広がった。


そして、また料理を作らせてくれると言った。


私は、久しぶりに人も好きになれた。


崎谷さんは、気にしないで私ともどったけれど何か言われていないだろうか?


「葉月さん」


更衣室に戻って、お弁当をしまった時にスーパー側の人に声をかけられた。


「はい」


「私、森ノ宮って言います。」


「はい」


「あんたさ、そんな体型で崎谷さんに近づかないでくれない?」


「えっと」


「デカイのに声小さすぎて聞こえないんだけど。マジで、崎谷さんに迷惑かけんのやめてくれない。あんたみたいな見た目も仕事も底辺な人間に、崎谷さんと一緒にいる権利ないから。わかるよね?」


「はい」


「わかったなら、早く仕事に行けよ。豚のドブス」


そう言われて、更衣室を後にした。


森ノ宮さん、細くて可愛かった。


口は、悪いけど…。


私なんかより、100倍崎谷さんにあっている。


ってか、そもそも太ってんのなんてわかってんだよ!!


自分でわかってるけど、直せないんだよ。


掃除の仕事まで、馬鹿にされるのは許せなかった。


私の事は、いいけど。


仕事に罪は、ないのだ。


夕方にあがって、家に帰った。


ベッドに寝転がった。


泣いてしまった。


キツいな。キツい。


一人だった時より辛いのは、崎谷さんと美陸さんが優しくていい人だったからだ。


ブー、ブー


「はい」


『ごめんね。七時すぎちゃって、終わったよ。下で待ってるね』


「行けません。」


『体調悪い?部屋番号教えて、何か買っていってもってくよ。』


「体調は、悪くありません。」


『じゃあ、何で?』


「かずさんに、迷惑をかけます。」


『りーちゃん、泣いてる?降りてきなよ。抱き締めるぐらいなら俺だって、出来るよ。迷惑なんていくらでもかけてよ。自分を責めないでよ。』


「何で、そんな優しくしてくれるんですか?」


『それは、幸せになって欲しいって思ってるからだよ。俺や美陸には、出来なくて申し訳ないけど…。りーちゃんが、笑っていられるなら俺と美陸が傍にいるから』


「そんな風に、優しくされたら甘えてしまいます。」


『甘えてよ。行こう。』


「おりますね」


電話を切って降りると、車にもたれて崎谷さんが立っていた。


「泣いてたの?」


「いえ」


「一人で泣かないでよ」


崎谷さんは、私を抱き締めてくれた。


「すみません、手が回らないですよね」


「いや、俺の好きなゲームに似てて」


「ゲーム?」


「うん。プニプニするゲーム。まあ、行こうか」


「はい」


車に、乗り越んだ。


崎谷さんは、スーパーに連れていってくれた。


人が、ジロジロ見てる。


何か、言われてるのはわかってる


崎谷さんは、私の手を繋いでくれた。


「これぐらいなら、俺だって出来るよ。重いから、かごもつよ」


女の子みたいに扱ってくれる。


何か、嬉しい。


レタス、しいたけ、きゅうり、しょうが、トマト、さば、春雨買おうかな


「楽しみだな。」


崎谷さんは、ニコニコしている。


「ありがとうございます。」


「何で?」


「かずさんのお陰で、また食べる事を楽しめるようになりました。感謝してます。」


「昨日話してた事?あれ、今もだったんだね。」


「はい、ずっとです。」


「美味しいものたくさん食べようよ。俺と美陸とさ」


「はい」


私は、笑った。



お会計を済ませて、崎谷さんは袋を持ってくれた。


(ヤバくない?)(何、あの体型?)


(見てみて)(ハハハ、ないよな)


人の声がする。


崎谷さんは、私の手を強く握ってくれた。




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