友情の印

Bastardバスタード Chandlerチャンドラー Model モデルXⅢサーティン、コードネームButterバター Knifeナイフ。そうして開発されたのがこの剣って訳なのさ」

「そんなことがあったんですか。私の考えていた話とはちょっと違いましたけど、なんて言うか、男同士の熱い友情の印って感じですよね!」

「そう、こいつは俺とジェームズの友情の印なんだ。さて話はこれで終わりってことで、そろそろ――」

「何を良い話で終わろうとしているのです。この話のオチをまだ話していないではありませんか」

「えっ、オチ?」

「なぁシャロ、この話は終わりで良いだろ。その先を話すなんて、そいつは野暮ってもんだぜ」

「何が野暮なものですか。剣の制作に三ヵ月も付き合っておきながら、恰好を付けて一切の金銭を受け取らず、報酬は現物支給で済ませたくせに」

「現物支給って、それは、つまり……」

「えぇ。三ヵ月もチャンドラー氏に付き合っておきながら、仕事の報酬はこの剣一本だけです」

「あぁ、そうだったんだ。……だけど、剣がタダで貰えたんだから、その、良かったんじゃないですか? ね、バレルさん?」

「…………」


 私の問いにバレルさんは何も言わず、相も変わらず憮然とした表情をしたままだった。するとシャロが、捕捉をするように――。


「この剣の市場価格は四十五万パックス。私たちの一ヵ月分の給料とそう変わらない金額の剣を渡されて帰って来たのですから、どう考えても赤字ですわ」


 と言う。武器の相場は分からないけれど、私が前にWEフォースで使っていたアサルトライフルの値段が十二万パックスくらいだった筈だから、四十五万パックスというのは決して安い金額だとは思えない。ただ二人の様子から察するに、どうやら私とは感覚が違っているらしい。リベレーターの武器って、一体幾らくらいするものなのだろう。


「……で、でもほら、その剣ってバレルさんが開発に関わった訳じゃないですか? 

それって考えようによっては、バレルさん専用の剣と言っても過言じゃありません

よ! 値段じゃないですよ!」

「ねぇ雫、バレルがこの剣のことをなんて呼んでいるか、知っていますか?」

「えっと確か、コードネームがバターナイフなんですよね? ならそう呼んでいるか、他に愛称があるってことですか?」

鉄屑てつくず、ですわ」

「えっ? て、鉄屑?」

「そう、鉄屑」

「あの、それって、どういう……?」

「考えてみれば当たり前のことですが、私たちはリベレーターではあって、アクセルギアの構造に詳しい訳ではありません。よって素人がアドバイスできることなんてたかが知れている訳ですから、バレルの助言なんて殆ど意味を成さないのです。つまりこの剣は、アクセルギアの素人と、当時垢抜あかぬけなかった技術者とが手を取り合って完成した、性能はパッとせず使い勝手の悪い、ただデカイだけの剣ということになりますわ」

「……えぇ……?」

「しかもその後、金が無いからといって知り合いの武器屋に片っ端からその剣を紹介して、CWMから仲介料を取ろうとしたのですが、それも見事に失敗した上に借金まで背負う羽目になったのですから」

「失敗、借金って……な、何があったの?」

「バレルの口利きで幾つかの武器屋でその剣を取り扱ってくれることにはなったのですが、見ての通り、重くて場所を取る上、性能も今一つな訳ですから、紹介した武器屋全てからクレームが殺到したのです。それも、うちの事務所にね」

「うーん……でも、それがどうしてストーンヒルの借金に繋がるの? 確かに、武器屋の人は困ったかもしれないけど」

「武器屋はCWMにその剣を返品するつもりだったようなのですが、それではチャンドラー氏に悪いからと言って、全部うちの事務所で買い取ることになったのですわ」

「ぜ、全部⁉ それって、一体何本に……?」

「全部で六本。今うちのガレージにはそこに立てかけてあるのと同じ剣がまだ五本・・眠っています。本来剣とは消耗品ですが、何せ頑丈なのだけが取り柄の剣ですから、あれが無くなる日は来ないでしょうね。本当、邪魔くさいことこの上ないですわ」

「……良いだろ、別に……。使う剣には一生困らないんだから……」

「そうですね。使う剣には困らない代わりに、あれから暫くは食べる物にも困っていたことなど、どうと言うこともありませんでしたわ。ねぇ、バレル?」


 シャロの畳みかける言葉を前に、バレルさんは完全に沈黙してしまった。四十五万パックスの剣を六本買い取るということは……二百七十万⁉ 確かに、それはシャロが怒るのも仕方が無いかもしれない。だけど、私がバレルさんと同じ立場だとしたら、きっと同じことをしていただろうし。


 ………………。


 いけない。とりあえず、どうにかして話題を変えなくちゃ。


「えっと、そのー……。そ、そうだ! その後、チャンドラーさんはどうしたの? その剣って、あまり売れなかったんだよね?」

「彼も最初の内は色々と迷走していたようですが、今では個性的なアクセルギアを幾つも開発するようになって、結構な数のファンもいて繁盛しているようですわ。なんでも、本気で一万人のファン獲得を目指しているのだとか」

「へぇ、それじゃあチャンドラーさんは成功したんだね。ほらバレルさん、良かったじゃないですか。それは間違いなくバレルさんのお蔭ですよ」

「……ちっとも良くない。俺はあれ以降どんなに良い剣を見つけても、ガレージの剣のことを思い出してしまって、おいそれと手を出すこともできなくなっちまったんだぞ……。ジェームズのやつばかり上手くいきやがって……。クソ、泣けるぜ……」

「自業自得ですわ。さて、もう日も暮れてきたようですし、そろそろネイトの店へと向かいましょうか」


 そう言われて上を見上げると、プレートの底面に取り付けられた人工太陽光灯が茜色に変わっていて、辺りは夕食時の慌ただしい雰囲気になりつつあった。


「そう言えば、結局ネイトさんって、一体何をしている人なんですか? 今日の流れからして、武器屋だとは思うんですけど」

「あぁ、それは……いや、待てよ……。なぁシャロ、さっきの勝負は腑に落ちない結果だったから、賭けの内容を変更して再戦しないか?」

「変更する内容は?」

あの場所・・・・で、雫の剣が見つかるかどうかって内容にさ」

「そんなの賭けになりませんわ。それとも、バレルが分の悪い方に賭けてくれるのですか?」

「……いや、そいつは御免だな」

「なら、その賭けは不成立ですわ」

「仕方ないか。なら、さっさと雫の武器を決めちまおう。ちなみに雫、これから行く場所は武器屋じゃなく、仕立て屋テーラーだ」

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