少女雫と、仙楽おじさん
――十四年前 日本
諸事情あって、常日頃から父に親戚の集まりへ連れられていた私は、どこへ出掛けて行こうとも居心地の悪さを意識しない日は無かった。
私の三つ年上の姉、“
どこへ行っても姉さん、姉さん、姉さん。私には、それがたまらなく苦痛だった。別に姉さんのことが嫌いだった訳じゃない。むしろ、当時から姉妹仲は良かったと私は思っている。少なくとも私は姉さんのことが好きだったし、姉さんも別に、私のことを嫌っている風では無かった、と思う。
ただ私を苦しめていたのは、子供ならではの承認欲求が満たされないストレスに加え、私では絶対に姉さんのようにはなれないという、絶対に覆りようのない劣等感を感じていたからだ。しかも周囲の大人たちは、私には姉さんのような才能が無いことを分かっているにも関わらず、そういうことを社交辞令で言っているのを子供心ながらに理解できていたものだから、私は姉さんと一緒にそんな集まりに連れて行かれることが、たまらなく嫌で嫌で仕方がなかった。
そんなある日のこと。その日はいつもよりも多く親戚が集まっていて、とうとう私は、そんないつもの空気に耐えられなくなってしまい、部屋を抜け出して庭をブラブラと歩いていたのだった。すると――。
「いよぅ、そこの可愛いお嬢ちゃん。もしかして暇してない? 暇なら儂と一緒にお喋りでもしようぜ」
なんて、そんな風に私に声をかけてきたのは、庭に置かれた大きな岩の上に寝転んで手招きしている、見るからに怪しいお爺さんだった。そのときの私は、この胡散臭い大人を前に警戒心を全開にしていたのを覚えている。
普段から周囲の大人はと言えば、私のことを雨衣咲家の次女として他人行儀に扱っていたし、私もまた、そんな大人に対して表面上は
「あ、あの……おじさん、誰、ですか……?」
「おぉ、儂? 儂は仙楽と言う。名前を呼ぶときは仙楽おじさんで良いぞ」
「仙楽、さん……? あの、私は――」
「知っとるよ。雨衣咲の雫ちゃんであろう? いや話には聞いておったが、実物はずっと美人だのぅ。おじさん、
「えっ、美人って……私が、ですか……?」
「そうそう。なぁなぁ、どうせ退屈しとったんじゃろ? だったらおじさんと一緒にお喋りしようぜ」
「……あの、でも私……父から知らない人に話しかけてはいけないと、言われているので……」
「えぇ〜? 駄目~? ほら、その辺から
「お、菓子……? いや、で、でも……」
「あー、おじさん今、美人の娘っ子と一緒にお茶したい気分だな~。もしも雫ちゃんがお茶に付き合ってくれたら、おじさん超すっげぇ嬉しいんだけどな~」
「……そ、そうなんですか? へ、えへへへへ……じゃあその、ちょっとだけ……」
こうして私は、あっという間に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます