[全4話][本格幻想ホラー] 孤島の魔王の祭壇にて――或いは<地獄>は何処から生じるのか
朝倉 慶喜
第1話 不安との出発
魔術による空間圧縮
少々間を置き、出てきた男に「リューダ初等調査官だな?」と尋ねる。
「はいッ! リューダ・ガーシュタインと申します!」
声に張りがあり、瞳には魔力が満ちている。
「ご苦労――ガイ・マルコー中等調査官だ。急な任務への参加、感謝する」
形式的な挨拶を終えゴホン、と咳ばらいをすると早々に任務の話に入る。
「早速で悪いが、リューダ捜査官。今回の任務についてどこまで知らされている?」
「実は、詳しいことは、あまり・・・。三日ほど前、この島を不法占領している魔王の討伐に勇者
「――そうだ」と短く答えると、私は空を見上げる。晴れ渡った青空には
「妙なのは、魔王側からも反応がないことだ。勇者
「・・・」
「今回の我々の任務は、音信不通になった勇者殿御一行の探索と島の現状調査にある。もし、彼等が
「
先程まで精悍だったリューダの顔に動揺が広がる。それも無理はない。<流星の勇者>は、今や下町の裏路地に巣食う
勇者、戦士、
昨年、王国で実施された投票でも、
そんな彼等が、こんな辺鄙な孤島を根城にする名も力も皆無といって良い田舎魔王に
「可能性を述べただけだ、リューダ捜査官。余計な先入観を持つな。それを確かめるのが我々の任務だ」
「りょ、了解しました!」
リューダは一瞬頭をよぎった不安を打ち消し、再び、任務を背負った男の顔に戻る。
それでいい――、と心の中で呟く。
私とリューダが所属している<フレア協会>――通称、協会は勇者達の格付けを行う機関である。
設立の発端になったのは増えすぎた自称・勇者達の存在だ。奴等は好き勝手にでっち上げた己の武勇を語り、我が物顔で王国を闊歩した。
この事態を重く見た王国は、その解決策として教会を設立したのだ。当初、協会は
行方不明になった勇者の捜索など、誰がやるべきか分からないからこそ、協会にお鉢が回ってきたのであろう。いつものこととは言え、王国の圧力に屈し、盲目的に仕事を受ける協会の姿勢には疑問を感じざるを得ない。
それに加え昨今、協会は深刻な人材不足に悩まされていた。
私もリューダもスキルや適性を見込まれ本件に投入された訳ではないだろう。単純に、『一番近くにいたから』選ばれたに決まっている。
基準に照らし合わせれば、今回の捜査は間違いなくB+ランク以上の危険を伴う任務である。それにも関わらず、たった二名、しかも上等捜査官を寄越さないのは正気の沙汰とは思えない。裏を返せばそれができない程、協会の人手不足は深刻なのだ。
とはいえ、そんな愚痴は言っていられない。士気が下がるだけだし、そもそも目の前にいるのは、仕事に就いて日が浅い初等捜査官である。私が彼を
「リューダ捜査官、時間が惜しい。詳細な情報共有は歩きながらにしよう。あれが見えるか?」
私は島の中心の小高い山の上にある建物を指す。
「はい、あそこが目的の魔王城ですね」
「そうだ。今我々はこの島の入り口である入江にいる。君が転移して来る前に計算しておいたのだが、ここからあの城まで歩いて丸一日はかかる」
「えッ!そんなにかかるのですか!?」
「ああ――もう正午を過ぎているから今日中に着くのは難しいだろう。途中、人が住む村があるから今夜はそこに泊まる。城への突入は明日の午後になるだろう」
<突入>という言葉を聞いた途端、リューダの緊張感が一気に高まるのを感じた。
「大丈夫なのでしょうか・・・その・・・我々だけで・・・」
「神のご加護を祈るばかりだな。先ずは城に到着することだけに集中しろ。道中、
「・・・はい」
魔術を主体とした戦闘訓練を受けているとはいえ、私も彼も戦いの
「では、行くぞ」
虚勢を張り、先頭を歩き始めはしたが、私の足取りは鉛の様に重かった。
今回は何かが違う。何かが――、何かが変だ。
言葉にならない不安が、雨でぬれた衣服の様にべったりと背中に張り付いてくる。まるで、
捜査官としての長年の経験と第六感が、頭の中でけたたましく
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