待ち伏せ①
一旦教室に戻り、途中だった帰り支度を済ませて図書室に向かった。
いつも蓮が座っている席は空いていなかったので、できるだけ端の方の席に座った。
さてと・・・・・・鞄から課題の問題集を取り出し広げる。
だけど集中できない。
それなら本でも読もうと棚から適当に一冊手にとってみる。
文を眼で追ってみても、内容がいまいち頭に入ってこない。
諦めて本を置いて、机に突っ伏した。
脳裏に万華さんの顔が浮かぶ。
・・・・・・素敵だったな。
スタイルも良くて頭も良くて、美人で気後れしちゃう。もしあの人が本当にライバルなら言うまでもなく強敵だ。
蓮を想う気持ちだけなら、誰にも負ける気はしないけど。
『相応しくないのよ』
山口さんに言われた言葉。もし蓮の相手が万華さんなら、きっとファンクラブの人達だって何も言えないだろう。
誰の眼からみても美男美女でお似合いだ。文句のつけようがない。
木漏れ日がちらちらと遊ぶ大きな木の下で、蓮と万華さんが見つめ合うように立っている。風がふわりと彼女の髪を巻き上げ、それを右手でおさえる。
彼女は意を決したように右足を一歩前に出し、蓮を見上げた。
あの小鹿のような大きな潤んだ瞳で。
そしてそっと口を開き、言った。
「蓮が好き」
蓮は身じろぎひとつせずに、立ちすくむ。
おもむろに、両手を伸ばし華奢な万華さんの身体をそっと抱きしめる。
誰もいないのに、彼女の耳元で囁く。
まるで彼女以外の誰にも聞かせたくないかのように。
大切なたったひとつの言葉を──。
「万華が好きだ」
蓮は彼女の顎に手をやり、顔を上に向かせた。
そしてゆっくりと自分の唇を近づけていき・・・・・・
わたしはガバッと勢いよく頭を上げダメ~っと思わず叫びそうになる。
自分の妄想に恐ろしくなって、両手で頭を掴んだ。
二つ席をあけて座っている男子生徒がぎょっとしたようにわたしを見た。
気まずくて、慌てて下を向いた。
わたし、何てこと想像してるんだろう。
時間を確認すると図書室に来てから、二時間以上は経っていた。
下校時間まではもう少しあるけれど、万華さんはいつ終わるか分からないと言ってたし、それでなくてもさっきの変な行動を見られた男子生徒が、ちらちらと視線を向けてくる。
今日はもう帰ろう。
全くと言っていいほど進まなかった問題集とノートを鞄にしまい図書室を出た。
外に出ると、もう暗くなっていた。
帰りのバスの中でスマホの画面が光る。蓮からのメッセージ。
『もしかして今日は部活なかった?』
『なかったよ。蓮を図書室で待ってたんだけど、先に帰っちゃった。ごめんね』
『じゃ、すれ違いだったね。用事が終わった後、すぐに向かったんだけど。今どこ?』
『バスの中だよ。もうすぐバス停に着く』
『そっか。冬桜と一緒に帰れなくて残念。家まで気をつけて帰って。じゃ、明日』
『うん、明日ね』
やり取りはすぐに終わった。
今日は会えなかったんだから、もう少し長く話したかったのに。わたしは不満げにぶつくさ呟く。蓮はスマホが好きじゃないのか、普通の高校生のカップルみたいに長電話をしたり、頻繁にLINEをしたりしない。たまにメッセージをくれたとしても、短めの要件だけだ。
わたしは蓮の顔を一日でも見ないと、禁断症状が出ちゃうのに。
明日、厳重に抗議しよう。
キィーという音をたてながらバスが止まった。
ありがとうございます、と言って前の扉から降りる。
付き合ってからはほとんど毎日蓮が送ってくれるので、この道をひとりで帰るのは久しぶりだ。
だから余計に淋しく感じる。下を向きながらとぼとぼと歩く。
薄暗い道ばたの端に人の気配がして顔をあげると、蓮が微笑みながら立っていた。
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