ファンクラブ②

息を呑んで、三人とも固まる。示し合わせたみたいに全く同じリアクション。

よほどショックだったのか、怒りで久家さんの頬はうっすらと紅潮していた。

暫くして、彼女は口を開いた。


「そんなこと信じられない。私達は認めないから。だって、そうでしょ。あなたは自分が蓮さまと釣り合うと本気で思ってるわけじゃないでしょうね。どうなの?」


咎めるような三人の厳しい目つきに、何も言えなかった。

蓮はあなた達ファンクラブのものではないし、わたしが誰と付き合おうが文句を言われる筋合いはないです、・・・・・・って言いたかった。

わたしにそれだけの強さと勇気があったなら、どんなに良かっただろう。


だけど彼女はクラスメイトだし、わたしは臆病者でやっぱり言えない。

それに釣り合ってないっていうのは、正直わたしだって認めるところだ。


「そんなことわたしだって思ってな・・・・・・」


「じゃ、別れたら」かぶせるように、山口さんは言い放った。


こんなバカげたやり取りにはこれ以上付き合っていられない。


「話が終わったのなら行くね」

なんとか言葉を絞りだし、立ち去ろうとした。


「相応しくないのよ。はっきり言って、あなたみたいな人に隣を歩かれる蓮さまが不憫で見ていられない」


山口さんに何か言い返したいのに、頭が真っ白になって何も浮かんでこない。ぐっと唇を引き結んだ。

 

「その様子じゃ、私達がどう言っても身を引くつもりはないってことね」

久家さんは足を一歩前に踏み出す。


「それなら私達ファンクラブを全面的に敵に回すことになるわよ。その覚悟はできてる?」教室では聞いたことのないような冷たい声だった。


「後悔することにならないといいけど」


久家さんが鋭く言い放つと、くるりと踵を返し校舎の方へ戻っていく。ふたりもその後に続いた。


長い長いため息をひとつついた。

これから一体、どうなっちゃうんだろう。


たった今、彼女の言う通り、わたしはファンクラブを敵に回したってことになる。この森徳にどれくらいの人数がいるのかは知らないけれど、各学年にいるはずだから相当の人数になるはずだ。


掃除の時間が終わり、もやもやとした気持ちのまま教室に戻った。あの二人は何事もなかったように、他の友達と談笑していた。


クラスメイトからあからさまな敵意を向けられて、その上別れたらって言われたことに、怒りよりも、悲しみや動揺の方が遙かに大きかった。


暗い気持ちで席につくと、近くにいたはづきが冬ちゃん、とにこにこしながら声をかけてきた。


「ね、この前のデートした時に、偶然パンケーキの美味しいお店を発見したんだ。こんど三人で一緒に行かない?」


「行ってみたい」


凄く落ち込んではいたけど、わたしにはこの二人がいてくれたことを思い出した。それだけでも本当に心強かった。



放課後に、さっきの出来事を二人に話した。

美咲は交際してることをきちんと伝えたことを褒めてくれたけど、はづきはこれからのことを心配していた感じ。


ファンクラブを含め、わたしのことを良く思ってない人が校内にどれだけいるんだろう。これからのことを考えると気が滅入った。


言うまでもなく、それから二人はわたしへの態度をがらりと変えた。

吹部でもこれまで仲良くしてきたのに、明らかにわたしと距離をおくようになった子も数人はいた。

残念ながら、高校生を無難に穏やかに過ごすっていう目標は、早くも暗雲に乗り上げた。

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