ファンクラブ①
わたしが蓮の彼女になってから、いろんなことが変化したのは確かだ。
眼に見えるものも、見えないものも。
最高に幸せなのは言うまでもないけど、残念ながら周囲は騒がしくなる一方だった。
──あの高下蓮の彼女。
美咲いわく、森徳でわたしのことを知らない人はいないほど、有名になってしまったらしい。
確かに校内のどこを歩いても、ちらちらと視線を感じた。
ある程度予想はしていたことだし、こんなことなら我慢できる。
辛かったのは明らかに一部の女子からの風当たりが強くなったことだ。
わたしを見て、友達同士で耳打ちするくらいならまだましだ。
廊下ですれ違う時に『嘘でしょ、あんな娘が?』とか『あり得ない』とわざと大声で言ってくるような露骨な子も数人いた。
蓮のファンクラブと公言して憚らない同じクラスの久家さんと山口さんも、それまで気にも留めなかった地味な転校生に急に関心を持ち始めたようだった。
わたしへ向ける視線を隠そうともせず、かといってわたしに話しかけるでもなく、ひそひそと話してるだけ。
授業終わりのチャイムが鳴ると、美咲がわたしの席に来た。
「なんかさ、感じ悪くない?」
美咲がふん、と鼻をならす。
「誰が?」
「あのふたりだよ。ファンクラブの久家春香と山口栞。あんなふうにこそこそとしていないで、聞きたいことがあるなら聞けばいいのに」
「・・・・・・やっぱりファンクラブの人達はわたしに良い感情は持ってないよね、きっと」ため息をついた。
「そりゃあね。憧れの人を冬桜にとられちゃったって思ってるでしょうよ」
「ファンクラブの人達、わたしに何か言ってくるかな」
「うん。その可能性はあると思う。実際過去にもあったし。もし何か酷いこと言われたりされたりしたら私に言うんだからね。・・・・・・あ、それとも高下にチクるっていうのはどう? 言ってとっちめて貰えばいいじゃん。鶴の一声だよ」
美咲は腕を組んだ。
わたしは眉をひそめた。
「それはそうかもしれないけど、そんなことしたらますます風当たりが強くなりそう。それに、わたしがそんなことされたと知ったら、蓮はきっと責任を感じるだろうし。それじゃなくても、打ち上げの日に迎えにきたこと、軽率なことしたって謝られたんだから」
「あの高下が誰かに頭を下げるなんてねぇ・・・・・・想像できないわ、ほんと」
「付き合ってからまだそんなに経ってないけど、噂とは全然違うんだよ」
「・・・・・・はいはい。ごちそうさま」
美咲は笑って言った。
*
校舎脇の掃き掃除をしていた時に、久家さんにねぇ、と話かけられた。山口さんと、他にもうひとり。顔は見たことないから、多分他のクラスの子だ。
久家さんに話しかけられる用事と言えば、きっとあの事に決まってる。
ほうきの手を止めて、思わず身構えた。
「吉野さんに訊きたいことがあるんだけど、ちょっといい?」
表面上は友好的な笑みを浮かべ、下手に出る感じだ。
わたしが答える前に、彼女は口を開いて話を続ける。
「私達が蓮さまのファンクラブってことは知ってる?」
ファンクラブの会員は蓮のことをさまをつけて呼んでるっていうのは聞いていたけど、実際に聞いたのは初めてだった。
「うん、知ってる」わたしは頷いた。
「そう。私はファンクラブの副会長をしているの。校内で今、吉野さんて凄い噂になってるよね。で、これは確認なんだけど・・・・・・まさかあの噂は本当じゃないわよね?」
久家さんは顎をつんと上に上げて訊いた。
ほら、きた。
「あの噂って、どんな噂?」とぼけてみる。
言葉にするのさえ嫌なのか、少し躊躇ってから久家さんは答えた。
「二人が付き合ってるって噂」
「蓮とわたしがね・・・・・・」
蓮、と呼び捨てにしたことにすぐに反応して、お互い目配せしあっている。
「そんなわけないわよね。蓮さまはみんなのものだから、誰かが独り占めするなんて許されることじゃないし」
久家さんの口調はだんだん鋭くなっていく。
「仮に・・・・・・」
隣にいた山口さんが口を開いた。
「彼女ができたとしても私達が認める人じゃないとね」牽制する。
要はわたしは認めないと言いたいのだ。
「どうなの? 噂は本当なの?」久家さんが語気を強めた。
わたしはしっかりと彼女の眼を見て、深く頷いた。
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