蓮の家族

そう感じてしまうのは、現実離れした美しい容姿のせいなのかもしれない。

それとも、どこか寂しげな琥珀色の瞳のせい?

わたしとは釣り合ってなくて、いつか誰かに奪われてしまいそうで?


あの大きな手とわたしの手を繋げば、この不安は消えてなくなるのだろうか。

もっと彼に近づきたいと思うのは、わたしが欲張りなのだろうか。


「何か考えごと?」わたしの顔を覗き込む。


「ううん」わたしは首を振った。


急いだつもりはないけど、もうマンションの近くまで来ていた。

何をしているわけでもないのに、蓮と一緒にいるだけで嬉しくて、時間があっという間に過ぎていく。


「わざわざ家まで送ってくれなくてもよかったのに。遠回りでしょ?」


「方向は同じだよ」


「ここから蓮の家までどれくらいかかる?」


少し間があってから蓮は答える。


「一時間半くらい」


「そんなにかかるの?」驚いた。


わたしの家から学校までバスで四十分くらいかかるから、ここから一時間半だと蓮の家はかなり遠いことになる。


「だから学校までは、バスと電車を乗り継いで二時間くらいかな」

澄ました顔で言った。


「じゃ、かなり早起きなんだね」

朝が苦手なわたしは、学校まで二時間なんてとても無理だ。


「遠くても登下校は苦じゃないんだ。早起きもね」


蓮の家の話がでたついでに、家族のことも訊くチャンスかも。

前に二人が言ってたっけ。高下蓮は謎めいていて、大金持ちとかどこかの国の王子様とか言われてるって。


「蓮は何人家族なの?」

さりげなく訊いてみたけど、唐突だったかな、とちょっと心配になる。


蓮は特に身構えるふうもなく言った。


「四人家族だよ。もう家を出てしまったけど兄がいるんだ。父親は海外に住んでいるから、今は母親と二人で住んでる」


蓮の口ぶりだと普通の家庭。やっぱり単なる噂だったのか・・・・・・ほっとした。わたしが平民で、彼が大金持ちとか王子様なんてシャレにならない。これがドラマの中の話なら、間違いなく前途多難な恋だ。


「わたしは両親と三人家族で、うちも父親が海外に単身赴任中なの」


「そっか。オレは男だから平気だけど、冬桜はお母さんと二人で夜とか心細くない?」


「マンションの五階だし大丈夫だよ。ここは日本だし」


「この前みたいなこともないとは言えない。それに、この国は冬桜が思ってるより意外と安全とは言えないかもしれないよ」諭すような口調で言う。


「なにそれ? ここらへんは危険なことでもあるの?」


「そんなことはないけど、気をつけて。何かあったら、いつでも連絡してくれればすぐに駆けつけるよ」


真剣な表情で言われ、わたしは恥ずかしくなってうつむいた。

「ありがとう」


もうマンションの駐車場に来ていた。


「じゃ、また明日」


彼が切なげな表情で言った。

胸がきゅっと鳴る。


「うん、またね」

そうは言ったけど、明日まで彼と会えずにいられるだろうか。


蓮はいつまでも背を向けずに立っているから、仕方なくわたしは小さく手を振ってエントランスに向かった。

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