告白
彼は静かに続ける。
「昼休みとか教室移動の時とか、気が付くと無意識に君のことを探してしまう。で、見つけたら、君から眼が離せなくなる。自分でもどうしようもないくらいに。あの日もそうだったんだ。グラウンドで君を見かけた。それからなんとなく眼で追ってたんだ。君はひとりでいろんな模擬店を回って、その後、人けのない野球場の方に向かって行った。で、その後を少し離れて三人の男がついていったのを見たんだ。なんだか気になって後を追いかけた。その後のことは君が知っての通りだよね」
すっと眼を細めてわたしを見る。
途端に心臓が駆け出した。耳が熱くなる。
琥珀色に輝く瞳に見つめられ、息が止まりそうになって、慌てて眼をそらした。
「数日前にあんな暴言を吐いておきながら、こんなこと急に言われて戸惑うのは当然の反応だ」自嘲気味に笑った。
本当は彼の笑顔に見惚れていただけなのだけれど、困惑してるのも事実だ。
落ち着かなくなって、小学生みたいに地面に足でぐるぐると小さくマルを描きながら言った。
「凄く怒ってたし、気に障るって言ってたから、わたしは嫌われているんだと思ってた」
「それは誤解だ。怒りにまかせて酷いことを口走ってしまったんだ。あの時のオレをいつもの姿だと思わないでくれるといいんだけど。普段はもう少しまともなんだ」
彼はばつが悪そうに言った。
「じゃ、わたし・・・・・・嫌われてないのね」独り言のように呟いた。
「もちろん」
きれいに並んだ白い歯を見せながら、笑った。
この世のものとは思えない笑顔にくらくらした。
木陰にいるのに、太陽の直射日光を長時間浴びたような軽い疲労感に包まれる。美しいものから人はパワーを得る。だけど美しすぎるものは人からパワーを奪うらしい。
わたしの体中の血液が、これ以上ないほどの速さでドクドクと全身を駆け巡ってる。
どれだけ深呼吸をしても、酸素の供給不足だ。
学校のグラウンドから富士山の五合目にいきなり瞬間移動したみたい。
「吉野さんはオレのことどう思ってるのか、聞いてもいいかな?」
どこか切なげに彼の瞳が揺れた。
わっ。
いきなり駆け引きなしのストレートな質問。どきまぎして口ごもる。
嫌いなはずない。というか、むしろ大好きなわけで。でもあまりの緊張のせいで、喉がぎゅっと締め付けられ上手く言葉が出てこない。
胃がひっくり返って吐きそうになったわたしは、唇をぐっと引き結んだ。
この状況で吐いたら、一生立ち直れない。
わたしのしかめっ面を見て、いい返事じゃないと思ったのか彼は表情を曇らせた。
「君にあんなことをしたんだから、その反応は当然だ」声のトーンが下がる。
違う、違うってば。心の中で必死に否定した。
彼は俯いたまま黙りこんだ。何か言わなくちゃ。
「時間をとらせたね。じゃ、嫌われ者は行くよ」
そう言って、彼は立ち上がろうとした。
違うってば。嫌いなんかなじゃないの。大好きなの。
ダメ、行かないで!
このまま行ったら、わたしが嫌ってるって誤解されたままになっちゃう。
焦ったわたしは、立ち上がりかけた彼のワイシャツをガシッと右手で掴んで、大声で叫んだ。嫌いじゃないのって言おうとしたのに、思い余って口から出てきたのは違う言葉。
「だ、大好きですっ!」
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