25歳で4歳の公爵令嬢に転生しましたが、前世以上に楽じゃないってどういうことでしょうか?~王子の婚約者として普通のことをしているはずなのに、なぜか悪役令嬢っぽくなるのですが?編~
@k1nokinoko
第1話 すれ違う魂~魂違いですってば!~
何杯目なのかも、もうわからない。大して好きでもない洋酒をあおると、そのままカウンターに突っ伏した。
「お嬢さん、そろそろやめた方がいいよ?」
苦笑まじりに、マスターが声をかけてくる。外見通りの渋い声がささくれだった心に優しい。
「んー、わかってまーす!」
呂律の回らない、酔っ払いそのものの声は、自分の口から発せられている。ここまでひどいのは、初めてだ。でも、今日くらいは飲ませて欲しい。酔わなければ、やってられない。
大口の契約だった。派遣社員歴5年目にして、やっと名の通った大会社に潜り込めた。なんとか実績を出して、正社員登用を狙いたいと、必死の営業をかけた。毎日、出ない残業代など苦にせず、商品を勉強し、プレゼンの資料を考え、相手の会社の状況を調べ、担当者の人柄から、使えそうな口説き文句を考え、諦めずに何度も足を運び、やっと、契約に漕ぎ着けた。所属していた課内は沸いた。久しぶりの大口契約。会社の業績に貢献すること間違いなし。私も、達成感と高揚感に包まれ、本契約の日に備えて契約書やら、商品説明の最終資料やらを用意した。だが、当日契約に赴いたのは、課長と、正社員の女の子。私から当然のように書類を受け取り、去って行った。唖然となったが、我慢した。大切な契約に、上司や正社員が赴くのは当然だと自分に言い聞かせて。それでも、私の努力はきっとわかってもらっていると信じていた。しかし、それはあまりに楽観的な観測だった。それから約半年後の今日、私は正社員登用どころか、契約更新すらされなかったのだ。思わず私は人事部に聞いた。
「なぜですか!?課内きっての大口とってきたのは、私です!実績は出してるはずなのに、なぜ?」
「え?初耳だな。本当?課長からは、そんな報告ないよ?特に成果もないし、次年度に入る正社員の新人も来るから、特別いてもらう必要性ないって」
「え?」
ショックだった。私の努力は、なかったことにされていた。もちろん、私はこれで終わらせなかった。課長に抗議した。
「あの契約を取ってきたのは、私じゃないですか!?なのに、成果なしで契約更新すらないって、どういうことですか!?」
「馬鹿言っちゃいけない」
課長は鼻で笑って言った。
「営業は確かに個人の努力もあるが、バックアップしてくれる課内全員のチームプレーの結果だろう?それを自分一人の手柄のように言うのは、どうかね?」
「だって…」
思わず私は怯んだ。確かに、チームあっての成果だと言われれば、それを否定することなど出来ない。しかし、担当者として一番頑張ったのは、私のはずだ。
「そういう独りよがりなところが、例え表面的には担当者として成果を出したように見えても、評価に繋がらなかった。そうは思わないかね?」
そうは思えない。思えるはずがない。
「あんまりです!毎日遅くまで残って、用意もして、何度も足も運んで…」
私は食い下がった。到底納得できなかったからだ。しかし、
「もう、結構だ!」
突然、課長は豹変した。威圧的な口調で、私を怒鳴りつけたのだ。
「とにかく、君はうちの課に必要な人材とは見なせない。それだけだ。ご苦労さん。これ以上説明する気はない。残り数日だが、よろしくね」
私は、言い返そうと口を開き、そして、そのまま閉じた。何を言っても無駄な気がした。黙って私は頭を下げ、その後定時を待って、逃げるように会社を後にした。後は、ご覧の通りだ。
「もう、店も閉めるよ?タクシー呼ぼうか?」
マスターの困ったような声に、なけなしの理性が応えた。
「大丈夫~。マスターお勘定~」
「はいよ」
金を払い、千鳥足で私は店を出た。歩くことに集中しないと歩けないので、余計なことを考えなくてすむ。これは、いい。
「うふふ」
お酒っていいなぁ、しみじみと実感していたら、突然目の前が明るくなり、体が吹っ飛んだ。後は、なんか痛い気がしたが、ひどく眠くて、そのまま寝てしまった。
───もう、いい…
声が聞こえる。
───あんな思い、したくない…
女の子?それも、まだ、幼い?
───来ないで…
「誰?」
ハッと目が覚め、私は聞いた。辺りは、真っ暗だ。
───絶対、帰らない。
何も見えない闇の中、ただ、私の傍を駆け抜ける小さな気配だけを感じた。次の瞬間、
「キャッ!」
私の手首が誰かに掴まれ、そのまま凄い力で何処かへ引きずられた。
「やめ!」
最後まで言葉にならないまま、私はまた、強い衝撃と共に、意識を失った。
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