第2話 没入
―というわけでゲームを始めた俺だったが、なにか、おかしい。いや、おかしいというか、俺はなんで学生服を着ているんだ? 目の前にどこか懐かしい木製パイプの机がある。ザワザワとした中休みの音が聞こえる。あれ、俺、寝てたっけ?
「よっ! ねぼすけ。」
不意に誰かの声が聞こえ、肩を強めにパンっと叩かれた。どこかで聞いたような、懐かしい声。寝ぼけ眼で横を見ると、濃緑のブレザーが見えた。金色のボタンが3つ付いているが、開け放たれたカーテンの隙間から毛玉のついたセーターが見える。顔を上に向けると、どこかで見たような顔がそこにはあった。
「なに? なんか顔についてる?」女はその細く小さい手で自分の顔を訝しげに触っていた。俺はその女も、その仕草も初めて見るのに、なぜかそれを知っている気がした。
「まぁいいや。早くご飯たべようよ。」
「あ、あぅん。え、ご飯?」俺はどうにも事態が飲み込めていなかった。と同時に喉が渇いていた。
「なに? 今日ないの?」女は軽く心配している様子だった。そこにはからかいの気持ちはなさそうだった。「あぁ、いや、ある、のかな。」机の横に引っ掛けてあった薄汚いカバンを漁ると、薄布で包んだ弁当らしきものがあった。
「なんだ、あるじゃん。早く食べよ。」女はそう言って自分の席へと戻っていった。
あれ、俺なにしてるんだっけ。俺は、あいつといつもご飯を食ってたんだっけ。あれ、っていうか、”俺”って、誰だ?
ザワザワとした教室には、それでも数人の生徒しか残っていなかった。落ち着きと焦燥感の入り混じった空気が、この建物の中を右往左往しているような気がした。
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