砂金

津嶋朋靖

第1話

 川の水は冷たかった。そんな冷たい水に長時間浸かりながら、僕はパンニング皿の上で川砂を回し続けている。


 背後を振り返ると会社の上司、涌井わくい課長とその奥さんと小学四年生になる課長の娘も、僕と同じようにパンニング皿を回して砂金を採集していた。

 

「課長。そろそろ引き上げませんか? もう入場料分は稼げたでしょ?」

「まだだ。まだ車一台には足りない」


 僕は大きくため息をついた。


 課長は先日、事故を起こしてしまった。幸い死傷者はいなかったが、買ったばかりの新車はオシャカ。


 ローンだけが残った。


 そして、昨日の昼休み、課長から『良い金儲けを思いついた。明日の休みつき合ってくれないか』と言われた。ようは車が無いので、僕の車に乗せていってくれという事なのだ。


 僕も忘年会の日に課長には迷惑をかけてしまったから断れなかったのだが……車を出して着いたところが、まさか砂金採り場とは……


 昔は砂金採り師という職業の人もいたが、今時の砂金取りは観光レジャーに過ぎない。これで、一攫千金などあり得ないのに、どうも課長は本気で金が儲かると思っていたようだ。


 それどころか、現地に着くまで入場料を取られる事も知らなかったらしい。

 現地に着いてから現実を知ったが、今更やめられなくてヤケクソになってパンニング皿を回し続けている。

 現在までに、芥子粒ほどの砂金がいくつか採れたが……


「課長……もう十分でしょ……」

「まだだ。俺はさっき料金を払った時に聞いたんだよ。先日降った大雨の影響で、上流の方の鉱脈が露出したらしく、砂金の量が増えているそうだ。運が良ければ大粒の砂金が採れるらしい」


 ばかばかしい。入場料を取られると知った課長が『帰る』なんて言い出したから、職員が慌ててそんなデマを言っただけ。大粒の砂金なんて、本当に採れるわけが……………あった。


 僕のパンニング皿の底で、パチンコ玉ほどの塊が山吹色に輝いていた。  


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