@12

 ソファがある、実家のソファだ。僕が生まれる前からあった。そして僕の両親がそこに座っている。

「みて! 100てんだよ!」

 ぼくはテストの点数表を両親に見せびらかした。

 父親は微笑み、母親は頷いた。

「みて! Aプラスを5つももらちゃった!」

 成績表をぼくは自慢する。

 父親はどこか遠くを見ていた。母親は頷くだけだった。

「みて! これ…」

 ぼくが賞状を見せようとすると父さんが立ち上がり、どこかに歩き去っていった。

「どこにいくの?」

 父さんは答えずに去っていく。追いかけても追いつけなかったので、ぼくは母さんの方へと戻った。

「とおさんはどこへいくの?」

「知らない」

 母さんはぼくの方すら見なくなっていた。ただ俯いたまま。

 ぼくは賞状を小さく折りたたみ、ポケットに入れた。

 僕はいつの間にか自分の身体が大きくなっていることに気がついた。

「母さん、僕も成長したよ」

 母さんは答えない。

 僕はソファに背を向けて勉強机に向かい、引き出しの中に賞状を入れた。

「それで充分だ。母さんは最低限の親の役割は果たしてくれた」

 僕は幽霊が傍らにいるのに気づいた。幽霊は勝手に引き出しを開けて賞状を取り出して広げた。

「お兄ちゃん、すごいや!」

 白い幽霊が笑顔で言う。僕は嬉しくなったが、やはり何か足りなかった。

「…その言葉は母さんから聞きたかったよ」

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