乙女ゲーのヒロインですが攻略対象達の雰囲気が最悪です

エコデレ

リアルでイケメン攻略し放題! 目指せ逆ハーレム!

 王立学園への入学をいよいよ今朝に控えたこの瞬間、私は記憶を取り戻した。


 そう、記憶。私が元々は日本人であることと、この世界が乙女ゲームの世界であること。

『聖女☆クライシス ~聖女わたしとカレは世界を救う~』っていう、割とベタな名前のゲームなんだけど、絵師さんと声優さんが大好物な組み合わせだったから見事にハマって。それなりにやり込んだのよね。

 具体的には、全員攻略を十周くらいかな。コアなファン達が平気で三桁周回している中をたったの十周しかしていないんだから、「それなり」の範疇でしょ?


 聖☆クラは、名前だけじゃなくてキャッチコピーもベタだった。「聖女となって世界の危機を救え! でも一人じゃ無理だから、魅力的なイケメン達を攻略しちゃえ! 二人の愛の力を合わせるのよ! 二人なら無敵なんだから!」っていう、どういう層をターゲットにしていたのかが今ひとつ不明なんだけど、そこがまた悪くない。

 んー、違うわね。絵師さんスチル声優さんボイスが全てなゲームだったから、その辺はどうでも良かったんだわ。人気もそれなりに高くて、私が生きてた頃は追加コンテンツが準備中だったはず。


 記憶を取り戻した今は、追加コンテンツやりたかったなぁっていう思いもあるんだけど。

 それよりも喜びの方が遥かに大きかった。

 何故なら、今の私は聖女様。このゲームにおける唯一のヒロインなのだ。つまり、イケメン選り取り見取り。攻略法もばっちり頭に入ってる。

 それどころか、ゲームでは未実装だった逆ハーレムだって夢じゃないわ。

 これはもう、私の時代、来ちゃったわね。よっしゃやるぞー!


 というわけで、私は意気揚々と入学式会場に向かった。

 もちろん、イベントはぜんぶ頭に入っている。ここではまず、第二王子であるオーズィ殿下の好感度上げが出来るはず。

 その為には、悪役令嬢であるアクゥーヤさまに絡まれないといけない。そこで口論になって突き飛ばされてヒロインが転倒、偶然通り掛かって助け起こすのがイケメン王子ことオーズィ殿下だ。


 キョロキョロと悪役令嬢アクゥーヤさまの姿を探す。居た、会場の手前で取り巻きの令嬢たちと歓談している。

 よーし、目の前をうろちょろして因縁をつけてもらわないと。聖女わたしはここよ、さあ気付いて。


 そう思って悪役令嬢アクゥーヤさまの近くを意味もなくふらふらと歩く私だけど。

 おかしい。イベントが起きない。悪役令嬢が突っかかって来ない。

 なんだろう、さっきまで歓談してたはずのアクゥーヤさまが、惚けたような表情でこっちを見てる。見てるはずなんだけど、私のことが意識に上っているのか微妙な感じだ。


 うーん、ゲームだとその場に居るだけでフラグが立つんだけどな。今は現実リアルになってしまったから、ひょっとしてフラグがもっと細かい動作に割り振られちゃってるのかもしれないわね。どうすればフラグが立つのかしら。

 そんなことを思いながら、無駄にうろうろしていたんだけど。


「きゃん!」


 何もないところで躓いて、転んでしまった。

 悪役令嬢アクゥーヤさまやらフラグやらに意識が向いていたから、受け身も取れなかった。見事に顔面強打だ。何やってるのよ私のバカバカバカ。

 なんて、痛いやら恥ずかしいやらで、転んだままの姿勢でプルプルしていたら。


「大丈夫かい?」


 そんなセリフと共に、手が差し伸べられた。


 顔を見るまでもない。第二王子、オーズィ殿下の声と手だ。

 きゃーっ、スチルの通りだわ。声もあの声優さんと瓜二つ。やばい、耳が、耳が孕んじゃうー。


 思わずにやけそうになる顔を懸命に引き締めながら、オーズィ殿下の手をお借りして立ち上がる私。

 殿下はハンカチを取り出すと、私に貸してくれた。顔面強打したせいで、顔に土でも付いているんだと思う。ハンカチこれはゲームに無かったわね。

 せっかくなのでお借りして、顔を軽く払うようにする。その間に、オーズィ殿下は立て膝をつくと、私の膝の辺りを自らの手で優しく払ってくれた。わーお、流石はゲーム中随一の性格イケメンだわ。


「あ、あの、ありがとうございます」

「どういたしまして。それより、君が噂の聖女様、だよね?」

「い、いえ……あの、そう呼ばれています」


 ハンカチを返しながらお礼を言う私に、オーズィ殿下がゲーム通りのセリフを投げ掛けてきた。

 私も、ゲームの通りに答えてみせる。聖女なんていう大それた存在だなんてのは否定したいんだけど、呼ばれていることは事実だから素直にそう答える。奥ゆかしさを前面に押し出すヒロインの頭脳プレイね。ふふっ、これでオーズィ殿下の好感度がアップよ。

 あ、いけない。ハンカチは洗ってからお返しするべきだったわ。浮かれて失敗しちゃったかも。


 そんな私の内心にはお構いなしに、イベントを進行させるべくオーズィ殿下が私に話し掛けてくる。


「聖女よ。私と婚約してくれないか」


 驚いたことに、そのセリフは、ゲームとは全く異なっていた。


 えっ、婚約?

 ちょっと待って、展開が早すぎない? ここは聖女の可愛らしさと奥ゆかしさを褒めるシーンでしょ?

 ああ、でも、婚約かぁ。ちょっと頷いちゃおうかしら。だって王子様だし、ゲームでも一番人気を誇る性格イケメンだもの。

 なーんて思った私だけど。


「いや、婚約なんて生ぬるい。すぐにでも結婚しよう」


 次のセリフは流石に耳を疑った。


「は? 何言ってんの?」


 つい素に戻ってしまい、慌てて口を噤む私。やばい、今のは確実にやばい。

 って焦ったんだけど、この王子、私の話を全く聞いていなかった。式を挙げる日取りはーとか、教会を予約してーなんて話し始めている。


 助かった。助かったけど、困る。

 ちょっと待ってよ、他の攻略対象も落としたいんだってば。


 っていうか悪役令嬢アクゥーヤさまは何してるの?  あなたの婚約者が暴走してるわよ?

 そう思って悪役令嬢の方を見ると、何故だか顔を真っ赤にして見惚れてしまっているご様子。はぁ?

 ちょっと待ってよ、これで王子に惚れ直すのもおかしいし、婚約者が他の女にコナかけてるのを黙って見てるのもおかしいでしょ。大丈夫なのこの人?

 っていうか助けて?


 私の腕をがっちりと掴んで、今にも連行しそうになるオーズィ殿下。

 私は聖女だけど、その身分は平民に過ぎない。まさか王族に抵抗するわけにも行かず、ただオロオロとオーズィ殿下と周囲を見比べるしかできない。

 そもそもただの小娘な私に対して、剣術とかで身体を鍛えているオーズィ殿下。力の差は歴然だわ。


 そんな風に困っていた私を見かねたのか、私の腕を拘束しているオーズィ殿下の手首を掴み止める人が現れた。


「殿下。レディに対して、些か乱暴が過ぎますぞ」


 そう言って助け船を出してくれたのは、筋肉質でがっしりした体格の男性。

 ノーキンさまだ。軍事部門のトップ、軍務卿を務めるジェネーィラァル家のご子息の一人で、もちろんイケメン。このお方も攻略対象一人ね。

 見た目と名前の通りの脳筋タイプ。これはひどい系のネーミングなせいで、初見の人からは運営から嫌われた不遇キャラじゃないかって思われがちなんだけど。

 そんな名前とは裏腹に、脳筋は脳筋だけど紳士で強くて頼りがいのあるキャラで、その扱いには運営からの深い愛を感じる程だ。

 脳筋だけど。脳筋なんだけど。


 これまたスチル通りのお姿とお声に私が惚れ惚れしているのをよそに、オーズィ殿下と軍務卿子息ノーキンさまが何やら揉めていた。

 その手を離せ無礼な、いいや離しませぬ、なんてやっている二人。


 って、ええっ? ノーキンさま、オーズィ殿下を殴り飛ばしちゃった!?


「少し、頭を冷やされよ」


 冷たい眼差しでオーズィ殿下を見下ろす軍務卿子息ノーキンさま。ゲーム上では、二人は深い信頼関係を築いていたはずなんだけど。なんかギスギスしてない?

 それに、王族に手を上げるのは流石にまずくないかしら。頭を冷やせっていうのは賛成だけど。


「レディ。ここは騒がしい、場所を変えましょう」


 と、軍務卿子息ノーキンさまが私の腕を引っ張って移動を始めた。

 え? ちょっと、どこへ行くの? っていうかこんなシチュエーションあったかしら?


 戸惑う私にはお構いなしに、ノーキンさまは学園内をどんどん進んでいく。

 大股でのしのしと歩くノーキンさまに、私は小走りで追従するのがやっとだ。掴まれてる腕がちょっと痛い。


 教室にでも向かうのかと思ったんだけど、軍務卿子息ノーキンさまは学舎を素通りしてしまった。その先にあるのは学園寮だ。人の居ない入り口を通り抜け、あれよあれよという間に寮の一室まで連れてこられてしまった。

 うん、スチルで見たことがある。確かこれ、ノーキンさまの寮部屋だ。


「聖女よ、俺のものになれ」


 ようやく私の腕を開放した軍務卿子息ノーキンさま、私に向き直るとそう言ってきた。

 ってそれ、攻略成功した場合にラストの夜会ダンスパーティで言ってくるセリフよね? 俺様で格好いいんだけど、流石に展開が早すぎると思うわ。

 っていうか、ヒロインわたしに向けた二言目のセリフがそれなの? いきなり結婚とかって言い出したオーズィ殿下と大差なくない?

 あ、思い出した。さっきの「ここは騒がしい場所を変えよう」ってやつも、ラストの夜会でのセリフだわ。


 戸惑う私を余所に、ずずずいっと踏み込んでくる軍務卿子息ノーキンさま。思わず後ずさりしてしまった私の肩を両手でがしっと掴むと、ひょいっと持ち上げてそのまま奥へと向かう。うわ、すごい力。流石は脳筋ね。


 なんて呑気に思ってた私のことを、ノーキンさまは軽く放り投げた。ぼよん、とベッドの上に落ちる私。

 えっ待って、もしかしなくても、ここって寝室じゃ?


 混乱する私を余所に、手早く上着を脱ぎ棄てる軍務卿子息ノーキンさま。そのままベッドに上ると、私を押し倒してくる。


 ええっ、ちょっと待って、俺のものって物理的な話!?

 流石にそれは早すぎっていうか覚悟が全然出来ていないっていうかまだ会ってもいない攻略対象が居るのにっていうかホントちょっと待って!?


 焦る私の上に、軍務卿子息ノーキンさまが覆いかぶさってきた。

 きゃーやめてー心の準備がーでもちょっと許しちゃってもいいかもー。


 ……。


 …………。


 ………………ってあれ? ノーキンさま、気絶してる?


 危ない危ない、つい雰囲気に流されそうになっちゃったわ。我に返って反省する私。


「危ないところでしたね、聖女様」


 気絶している軍務卿子息ノーキンさまの向こうから、私に声が掛けられる。

 よっこいしょ、と重たい筋肉の塊を押しのけて声の方向を見ると、紫色のローブを身に纏った、ちょっと陰のあるイケメンが立っていた。


 紫色のローブは、魔導士、それも高位の実力を持っている者の証だ。

 このお方、宮廷魔導士のご子息であるマヅースィさまは、将来を有望視されている魔導士。キューテー家のご子息たちの中でも群を抜いた実力を持つマヅースィさまは、もちろん攻略対象の一人である。ちょっと陰のある雰囲気がミステリアスで、何気に人気も高かったのよね。


 というか、宮廷魔導士子息マヅースィさまってば、ゲームだとこういう出会いじゃなかったわよね?

 んー、まあいっか。軍務卿子息ノーキンさまもそうだったし。


 ちなみに、マヅースィさまが扱う魔法のひとつに「昏睡」というのがある。ゲーム中のイベントで、ならず者の集団をこの魔法で華麗に捌いていたシーンはファンの間でも人気だ。

 つまり、軍務卿子息ノーキンさまを気絶させたのはマヅースィさまということよね。


 助けてもらったお礼を言う私に、宮廷魔導士子息マヅースィさまは憂いを秘めたニヒルな微笑みを返してきた。

 そうそう、この陰のある感じがいいのよ。ボイスよりもスチルの方が人気が高かったのは、攻略対象の中でもマヅースィさまだけだったのよね。他の攻略対象と同レベルのボイスなのにそんな状況だったあたりからも、スチルの素晴らしさが伺えると思う。


 軍務卿子息ノーキンさまには国家反逆罪の嫌疑が掛かっているとかで、宮廷魔導士子息マヅースィさまの後ろにいた兵士たちに連れていかれてしまった。

 嫌疑っていうか、王族をもろに殴っちゃったものねぇ。いくら何でもまずかったわよね、流石に。ノーキンさま、大丈夫かしら。

 まあ、私としては、彼の攻略はもういいかなとも思う。下手に関わったら乙女のピンチが再来しそうだし。脳筋は許せるけど野獣はノーサンキューだわ。

 え、一時の気の迷いはどうしたんだ、って? 知らなーい、何のことかしらー。


 残った兵士たちを従えながら、宮廷魔導士子息マヅースィさまが優しくエスコートしてくださる。

 ああん、このミステリアスな雰囲気が堪らないわ。攻略を進めていくと彼なりに体を鍛えて細マッチョ化するのもポイントが高いのよね。


 なーんて思いながら憂いのあるイケメン顔を鑑賞していた私だけど。

 間近からどアップでご尊顔を拝せるのはいいんだけど、流石にアップの度合いが過剰な気がする。


 あの、宮廷魔導士子息マヅースィさま? 流石に距離がちょっと近くありませんか?

 え、私の髪に顔をうずめて何してるのこの人? 歩きながらめっちゃ匂い嗅いでる!?


「ふひ。誰にも渡さない、聖女はボクのものだ」


 なんて具合に独り言をぶつぶつ言ってるし、ミステリアスな雰囲気が台無しじゃありません?

 えぇー? ちょっとぉ、幻滅ってレベルじゃ済まないんですけどー。




 その後は普通に入学式を終えて、クラスごとに分かれて初日のオリエンテーリングが行われた。

 ただ、私としては、予想外のイベントが多すぎて正直もうお腹いっぱいな感じになってしまったのよね。

 呆然自失している間に入学式もオリエンテーリングも終わっちゃった感じ。


 聖女わたし悪役令嬢アクゥーヤさまと同じクラスなんだけど、そんなお疲れ気味な私に遠慮してくれたのか、またしてもアクゥーヤさまが絡んでくるイベントは発生しなかった。ちょっと有難いわね。


 ◇


 オリエンテーリングが終わったら、学園寮の女子棟に戻ることになる。

 自室で少し休んだら、食堂に集まって夕食の時間だ。

 そのうち部活動や課外活動なんかの影響で寮生たちの夕食の時間がバラバラになっていくんだけど、今日は初日なこともあって満員御礼ね。


 貴族も平民も分け隔てなく一緒に生活する学園は、提供される食事も貴族準拠になっている。

 すなわち、平民出身の聖女わたしからすればとても美味しい食事! ……のはずなんだけど、ストレスのせいか味がよく判らない。

 というか、よくよく味わってみると薄味かな? 薄味なのかな?

 記憶が戻ったせいで、日本人としての味覚も戻っちゃったのかもしれないわね。記憶と味覚を比較してみるとそんな気もする。

 うーん。食事には期待していたんだけどなぁ。がっかりだわー。


 なんて思いながら何度も溜息をついていた私。

 そんな聖女ヒロインの様子を、悪役令嬢アクゥーヤさまがじっと見ていることに気付いた。

 おっといけない、ここでもイベントが発生するんだったっけ。殿方に不用意に近寄るな、貴族を見たら既に婚約者がいると思え、って釘を刺されるはずだわ。

 気力が大きく削がれている状況だから、攻略に直接結びつかないイベントは遠慮したいんだけどなぁ。


 なんて思いながらも一応は覚悟を決めた私だったけど、悪役令嬢アクゥーヤさまはこっちを見てるだけで一向に動こうとしない。

 なんかボーッとしてて、心ここに在らずって感じかしら。私の顔を見てるのは間違いないと思うんだけど。

 それとも、視線がこっちに向いてるだけで、実は何かトリップしちゃってる? せっかくの超絶美人が台無しになっちゃうわよ?


 そんな悪役令嬢アクゥーヤさまに気を取られていた私だけど、ふと気づくと、いつの間にか私の後ろに数名の令嬢が立っていた。


「平民のくせに。少しは弁えたらどうなの?」


 悪役令嬢アクゥーヤさまの取り巻きのモブ達だ。何やら偉そうに話しかけてくる。あれま、役割チェンジかしら。

 まあセリフは変わらないし、本人か取り巻きかの違いだけでイベントとしては同じだからいいや、って思ってたら、悪役令嬢アクゥーヤさまがものすごい表情でこっちに歩いてきた。

 般若のような凶悪な表情に加えて、おしとやかさの欠片もないような大股歩きでずんずんと歩いてくる。


 えっ? これがあの悪役令嬢アクゥーヤさま? あまりに完璧パーフェクト令嬢レディすぎて、「アクゥーヤさまに救いを」「アクゥーヤさまの立場で攻略したい」「むしろ攻略されたい」「アクゥーヤさま尊い」「……しゅき」っていうファンレターが山のように届いたっていう、あの?


「貴女達。ご自分が誰に向かってものを言っているのか、ご自覚はありまして?」


 私に何か言ってくるものだと思って身構えてたら、なんとびっくり、後ろの令嬢たちが相手らしい。

 しかも、ゲームで聖女ヒロインに掛けてきた声色よりも数段怖いレベル。


「このお方は聖女様、神に選ばれた存在でしてよ。すなわち、貴族であるわたくし達などよりも遥かなる高みにおられる御方。それを平民呼ばわりするとは、思い違いをするにも程があるのではなくって?」


 あれ? ひょっとして聖女わたし悪役令嬢アクゥーヤさまに庇われてる?


 アクゥーヤさまのものすごい迫力に、取り巻きの令嬢たちも圧倒されてしまったようだ。


「も、申し訳ありません。差し出がましい真似を致しました」


 そんな風に、もごもごと言いながら令嬢たちはあっという間に去ってしまった。


 あれあれー?

 ここは聖女が正論で返して、悪役令嬢が何も言い返せずにぐぬぬするシーンじゃなかったっけ?


 私が頭にハテナマークをいっぱい浮かべている間に、ほっと息をついた悪役令嬢アクゥーヤさまが、私の隣にすいっと座ってきた。


「聖女様は何も心配いりませんわ。何か困ったことがありましたら、気兼ねなくわたくしに相談してくださいませ。ね?」


 そんな風に、まるで聖女のような慈愛に満ちた表情になり、瞳を少しばかりうるうるさせながら語り掛けてくる悪役令嬢アクゥーヤさま。ちょっと待って、絶世の美女にそんな顔をされたら惚れてまうやろ。いや流石に惚れないけど。女同士だし。


 そんな悪役令嬢アクゥーヤさまと少し取り留めのない雑談をして、その日は終了した。


 なんだかアクゥーヤさまの雰囲気がぽわぽわしていて、ものすごく可愛かったわ。

 クールビューティなだけじゃなくて天使のような可愛さも持ち合わせてるなんて、流石は悪役令嬢、ズルいわね。

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