第17話

 俺は言われるがまま、足を少し広げる。


 目の前を沈んでいく、シミ一つなくて、綺麗で、柔らかそうな足。

 続いて、思わず触れてみたくなるまろやかなお尻。

 濡れてまとまった髪が見えて、俺の前は春香でうまった。


「気持ちいいね。」


 お湯があふれる音が聞こえる。

 春香の頭が俺に寄りかかる。


「あ、あぁ。」


 俺の息子に春香のお尻が当たり、柔らかさ感じる。

 春香の背中は俺の身体に寄りかかり、完全に俺に体を預けていた。


「その、春香。

 抱きしめてもいいか。」


 少しだけ、理性が戻ってくる。

 春香という色香に、俺は抗える気がしない。


「いいよ。」


 後ろから、春香を包むように抱きしめる。

 春香をちゃんと抱きしめたのはいつぶりだろう。

 手を握ったり、多少触れたりすることはあったが、抱きしめるなど長らくやっていない。


 腕は首のあたりに回し、胸元には触れないように気を付けた。


「苦しくない?」


 あまり力を入れていないとは言え、腕が首に回っているのだから、確認のために問いかけた。


「全然苦しくないよ。なんだったら、もっと強くてもいいくらい。

 それに、真一とくっついていると安心する。」


 それから5分ほどそうしていたが、さすがにのぼせてきたので、湯船から上がり体を洗うことにした。


「あ、背中は私が流してあげるね。」


 頭を洗っていると浴槽からザバッと音が聞こえる。

 おそらく春香が立ち上がったのだろう。


 後ろで待機している春香のために頭の泡を流す。

 正面の鏡を見るが、湯煙のせいなのかガラスは曇っていた。


「じゃあ、お願い。」


 春香は手際よく俺のボディタオルを取った。


 まず、予備情報としてわかってほしいことがある。

 俺は湯船の横のスペースで鏡に向かって座っている。

 鏡は入り口とは反対の壁に備え付けられており、ボディソープなどの洗剤類は鏡のすぐ横の棚に並べられている。また、鏡のすぐ下には桶などが置ける棚が設置されていて、俺と鏡の間には1メートル程度の幅が存在する。


 ということは、どうなるか、一緒に考えてみてほしい。

 春香は俺の方にそっと左手を置いて、右手をボディタオルごと棚へと伸ばした。

 右を向けば、下向きの山脈。若干前かがみになっているせいか、先ほど風呂場に入ってきた時よりもずっと大きく見える。可能ならば、俺の方に山脈をぶつけていただいても構わない。と思った。

 思わず手を伸ばそうとした瞬間に、山脈が見えなくなる。ボディソープを取り終わったのだろう。


 後ろからシャコシャコと泡立てる音が聞こえる。

 音の後、少しばかり時間が空いて、何かが俺の背中に当たる。


 フニャン、フニョンと形を変える柔らかな塊。

 まさか、これは、あれで洗っているのかと思った瞬間から、俺の記憶はなかった。

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