バニシング・ツイン(消えた双子と血染め花のマリー)
らぃる・ぐりーん
血染め花のマリー
プロローグ 血の塑像
長靴が古びた教会の中を切り裂くように進んでいく。赤い波紋が引き潮のように押し戻され、薄汚れた月明かりに照らされて鈍い青に輝いている。
手に持つ淡い光を放つランタンが、闇を押しのけ、奥へ奥へと誘っているように感じる。一段高い段差の上に上がり、一部が破損した教壇の上にある花瓶の横にランタンを置き、辺りが微かな光明に照らし出される。本来、神の像が鎮座する場所にある赤い像を眺めた。
赤い花束を持ち、もう一方では目玉が飛び出た生首を掴んでいる。手足の太さがまばらで、肩や腰から手足が生えていて、頭も三つある。
チグハグに結わえ付けられた人を模した像は、その下に重なり合った人々が互いを支え合うように跪き、融和していた。
本来あるべき場所にあった石像の欠片は、あちらこちらに散らばり、時おり白い破片を水面から覗かせている。
フードを目深に被った男は視線を足元に移し、頭を振って悪い考えをどこかへ追いやった。作業に慣れていないあの頃……初めの頃は吐き気と不眠に悩まされたが、いつの間にか効率化し、作業手順まで完璧に慣れてしまっていた。それが正常ではないのは明らかだったが、抗うすべもない。
男は肩にかけていたアルミ製の脚立を像の前に立てかけて登る。首から提げたカメラを持ち上げ、赤い点のボタンを押した。眩い光が空間を切り取ったようにフィルムへと残像を残す。
男が背後から聴こえる音に振り返ると、同様にフードを被った女が防塵マスクをつけ、タンクを背負ってやって来る。青い顔で一瞬それを見上げて胸で十字を切った。つぶやく程度の祈りが終わると、女は男の支えている脚立に登ってレバーを握りしめた。タンクから白い粉塵が、ゴォッと音を立てて赤い像をみるみる白く染め上げていく。
女が脚立を降りてくると、今度は男が脚立に登ってチェーンソーのエンジンを始動させた。うずうずと脈動するように震え始める。
女が病院などで使うストレッチャーを手早く組み上げている間、男が液体窒素を振りかけられた像を細切れにして切り落としていく。チェーンソーの刃が当たると、凍らされた像はハムをスライスするように次々と切り落とされていき、女はそれらを拾い上げてストレッチャーへと乗せていった。
今回は“四人”といったところだろうかと、男は切り落とした部位を見ながら思う。
複雑に絡み合った部分はまとめて切り落とし、女がタンクの粉塵をさらに吹きかけていく。赤い塵がポロポロと零れ落ちては足元の水たまりに赤い波紋を作り上げていった。
全ての解体が終わると、男は急ぐようにと腕時計をトントンと指で叩いて合図する。ストレッチャーにチェーンソーとタンクを乗せ、引っ張って外へと向かった。
半分だけ覗いている青い月明かりが、乱れる雨を映しあげ、ベッドの上のシーツを照らし、荒れ狂う風がそのシーツを捲りあがらせた。
時おり雲間に消え入る月光が、酷く絡み合わされたまま縛られた肢体を白く照らし、苦悶の表情を浮かべて凍りついている四つの青い顔を夜に浮かべた。
男は車の脇にストレッチャーを止め、ぐいと押した先でストレッチャーの脚がたたまれながら奥へと積み込まれていく。押し上げられた後部をばたんと閉める。白い車体が幽霊のように、ライトの照らす先を追って夜闇の中へと溶け込んでいった。
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