第5話 想像妊娠

「あ?」


 俺の嫌な予感はやはり的中した。

 こいつ、俺はこいつ自身に触ってもないのに、勝手に俺の子を妊娠してやがる。

 どこまで都合のいい頭してるんだ?ここまでくると重症だぞ。

 だって想像妊娠だぞ?流石にクラスのみんなも呆れている。


「あれ~、またやってるよ」「椎名ちゃん、次は人形の赤ちゃんとか買ってくるんじゃないの?」


 ほら、あちこちから声が聞こえてくる。それに、視線がいつも通り痛い。


「今ね、妊娠3ヵ月だってお医者さんが言ってたの。多分、前にゴムなしでした時に出来た子だと思うの」


「…………………。」


「これで3人家族だよ作くん!あぁ~名前は何にしようかな~」


「……………。」


 ダメだ、額の血管がキレそう。


「ねぇ、嬉しくないの?私たちの子供だよ?」


「………………。」


「あ~、黙ってるって事は信用してないね?ちゃんと証拠はあるから!」


 キャッキャッとテンション高く、椎名はバッグから一枚の写真を撮り出してきた。


「これ、私の中のエコー写真!どう?ここにちゃんと私たちの赤ちゃん見えるでしょ!?」


 体を跳ねさせながら、写真の中央にある小さな赤ちゃんらしき影を指差す。


「………………あ、そ…………」


 呆れすぎて、俺は蒼白した顔になる。

 もちろん、このエコーは拾い画。しっかりと写真の上端にGoogleの画像情報が出ている。


「………………。」


 俺は無言で立ち上がり、バッグを持つと教室を出ようと歩き出す。


「作くんどうしたの?嬉しくて泣きたくなっちゃった?」


 椎名も立ち上がると、俺の背中に話し掛けてくる。

 全くもって違う。今、これ以上一緒にいると血管が破裂するし、気が狂って発狂しそうだ。


「どうしたの!?悩みでもあるの?そうゆうのは2人で乗り越えていかなきゃダメだよ!?」


「普通に一人になりたい」


「ダメだよ!私と居た方が癒しがあるよ?」


「一人にしてくれ」


 教室の外に出ると、俺は無理やり作った笑顔でそう言いドアを閉めた。

 ドアに背中をもたれ、俯く俺。


 危ない、もう少しで窓ガラス割れるくらいの声量で叫ぶ所だった。

 一旦ここにいて精神を落ち着かせよう。

 ふぅ、と一回ため息を吐き、バッグに入ってたコーヒーを飲んでいると、


「みんな!私たちの結婚式には是非来てね!最高の式にするんだから!」


 教室の中から椎名の声が響いてきた。


「日程がまだ決まってないけど、海沿いの式場であげる予定だから楽しみにしててね!」


 クラスの全員に向かって、そう宣言する椎名。


 ………………我慢の限界だ。一回叫ばなきゃ気が済まない。


「っざっけんじゃね~~よ!!!!」


 どこか人気のない所に行くわけでもなく、俺は教室の前で絶叫し、学校中に雄叫びを響かせるのだった。


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