ばkΔ-オキシ

第1話

「かはっ」

ボクの本当の部分をわかってくれる人なんていない。

絶対そうだ。




「えーまじー?」

「そうそう、でさぁ……」

日本に広がるこのような会話がどうしても好きになれなかった。

でもそれは時によって変わって、大丈夫な日もあれば殺したくなるような日もある。

その殺したくなるような日にオキシは、決まって自慰を家で行った。

しっかりと、時間通りに。

唯一決まってなかったのはネタか。

その数が365を超えると、彼女は察した。


「ボクに性で勝てる人なんていない」


と。

自身が最高の先駆者だと。


しかしある日、転機が訪れた。

その自覚が、能力へと変わるような。


その日は曇りで、人の波は外では慌ただしくもけたたましかった。


ジリリリリリリリリ…


「………んっ………」

丁度彼女が行為を終えたところで、家の電話の音が何もない住宅街に鳴り響いた。

親もいない彼女からして見れば些か不思議なこと。

連絡も来ない彼女を見ると電話を置くことも十分不思議だが。

オキシは下半身全裸のまま廊下を歩いて目的地へと向かう。

色の良い太ももには彼女自身の液と、一本の縦の傷があった。

それは右足の外側にかかっており、意図的につけられたものだと判断できる。

その傷を右手で一度さすった後、オキシは受話器を取った。


が、黒いソレを取った瞬間、ガチャンと向こう側から結合が切られた。


「無言電話?いいシュミしてるね」


そう言いオキシは自身の部屋へと戻った。




翌日。

ジリリリリリリリリ…

ベルが鳴り響くかの如く悲しくも電話が鳴った。

「はいはい」

今回も彼女の自慰後。

まるで狙ってるかのように。

「はい」

ガチャリと受話器を取る。

が、今度は機械音が流れた。

「Congratulation.You are trapped in a maze. We can’t say details about it. Now , change your way of living.Or you’ll die .」

ボソボソとした声と、微かに聞こえる水の音。

それが何やら彼女のナニカを、刺激してしまったらしい。

「Quoi?!Qu’est ce que tu veux dire , ehh?!

Je vais mourrir ? Hâ! Une drôle bêtise.Je ne mourrirai pas , et ne pas vous déranger ! Ce que je veux faire c’est d’avoir une vie en fierté !」

そしてガチャリと、今度は自分から切った。

ソレも荒々しく。

「んっ……はぁ……」

激怒したはず。だというのに彼女は体に残る倦怠感を後にして、

「ムラムラする」

と言い部屋へと戻った。

その夜は、喘ぎ声が一晩中響いた。




そして後日。

いくら日にちが経ったのかはわからない。

唯一わかるのはオキシがいつもと同じような生活、いや性活を送っているということだけ。

あの電話以来更に自慰の頻度が増した彼女は、今になっては荒れに荒れている。

まるで一日を命懸けで生きるかのような獣のように。

が、そのことを良しと思ってしまっているのか彼女は心の中でこう思う。


早く殺しに来い、と。


自身の命との等価交換トレードで、死を選ぶ。

彼女は紛れもない、奇才だった。


「今日も、来ないのかな」

寂しそうにまたもや部屋へと向かっていく。

今日だけで5回目となる。


「ふぅ…」

そしてベットの上。

自身の股の間にスルリと手を入れようとした瞬間。




バギィ!!!!!!




木製の何かが壊れる音がした。

扉の音だということに気がつくのにも時間がかかったが、本能的に身の危険を感じたオキシは、反射的にベットの下へと隠れる。

先ほどまで死にたいと思っていたのに。

彼女は、ビビりでもあったらしい。


だがそんな努力は他所に、



「ねぇ、オキシちゃん………」



と、何者かの声がオキシの耳元で鼓膜へと振動した。



ゴクッ…………



緊迫した空気が狭い空間を覆う。

ここから先は、彼女らにとって死の領域レッドゾーンとなった。


「あなた、殺されたいんですってね」


今からでも殺せるとでもいうかのように耳元の女はオキシの股の間にある秘部に、ピストルを構えた。

オキシの額には脂汗がうっすらと乗っている。

「この引き金をさあ、クイッ…………て引けばさぁ、バァーンて、弾が打ち出されてさあ、グチョォッ………て内臓がさあ………」

擬態語が使われるたびに使われている者の体がビクンと跳ねる。

その姿はまるで初めて抱きしめられた時の初心な生娘そのもの。

「はぁ……やらぁ……」

死がこんなに怖い物だとは思ってもいなかった。

自分なら決断をすればすぐ、そんな考えが、今の私を作ってしまったんだ。

恐怖を抱くという。

「少女よ」

突然の呼びかけ。

「……はい」

「生きたい?」

愚問。

「……今は…」

通常のニンゲンなら理解することのできない答え。

だが女はソレに満足したのか


「いいわ、合格よ」


と言い、銃を向こう側の床へと投げつけた。

ガンガンという反響音の後、またもや静寂が走る。

そしてそれを破ったのは、再度の侵入者だった。


自覺シカク!!いんのか?!」


元々いたクラスの人だとは理解できる。

だがその声は不運にも、彼女が一番嫌っていた女のものだった。

あのくだらない界隈で恥じらいもなく笑っていた。

思い出すだけで腹が立ってくる。


「フー、フー」

興奮のをあげるオキシを他所に、後ろの女は無造作に外へと出る。

そして銃をもう一度手にすると、壁に打ち付けた。


ダァン……


乾いた音が響く。

そして向こう側にいるはずの娘の声は、そこで途絶えた。


「あなた、私と一緒に来なさいよ」

女は屈みながら彼女オキシの目を見てそう言う。

その目は、黒く光っていた。

そしてオキシ自身も……


「なんで?」

「だってあなた、絶対何か持ってるもん」


ただ単調な答え。

のはずだというのに、オキシは嬉しさに口角を上げ、

「行く!!」

と子供のような声を上げた。


バカはばか。

でももし私もそうだったのならば、





死ぬしかないネ





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