第39話 これから歩く白い道




「あー、マジ疲れた」


「ほんとですねぇ。足が疲れました」


「俺は肩こりだ」


「ドレスってあんなに重かったんですねぇ」


「お母さん手作りだろ? いい素材使ってるって分かる。それにしてもあれを作り上げるなんてすごいな……」


「ほら、私って小さいですから、レンタルでも選べないだろうって。心配されているのか、からかわれているのか分かりません」


 どうも採寸の時の会話がまだ納得いっていないらしい。


「他の奴に言われるなら分からないけど、お母さんじゃぁ娘の嫁入り衣装は自分で作りたかったんじゃないのかな」


 でも、娘の嗜好が知れている分、彼女らしいドレスだったと思う。冬場で寒いかと思っていたけれど、露出している部分を少なくして、寒くないように少し厚手の素材を何層にも重ねてあったし、ウエディングドレスで1回だけにしてはもったいないくらいデザインは凝っていた。


「お母さん、もともと家政科の卒業ですし、昔からお仕事でお洋服のお直しをしていました。持って帰ってくれば自宅でもできるからって。難しいのは今でもお母さんに回ってくるそうです」


「だから、浴衣も振袖も陽咲はみんな自分で着れるのか。ようやく謎が解けたよ」


 そう。あの振袖も、陽咲が結婚したことで今は実家に戻して直してもらっている最中だ。




 家に帰って、足を投げ出し床に寝っ転がったのは、日が落ちて予報通りに雪が落ちてきてからだ。


「あのシスターには世話になったなぁ」


「またお手伝い行きましょうね」


 式が終わり、元の姿に戻った俺たちは、全員で教会をクリスマス仕様に変身させた。いつも高所作業や工具を使いなれている連中だから、あっという間に作業を終わらせてしまった。


 飾りを取り替えて、お菓子の準備などを一通り済ませて、教会を後にする。


「また来てもいいですか?」


「お待ちしていますよ。あんなに頼もしい方々に見守られています。お二人はもう大丈夫」


 シスターも予想外な援軍の大活躍にクスクス笑いながら思い出す。


「陽咲さん、これをあげましょう」


 小さな袋を渡す。


「これって……」


「あなた方の式の時、十字架の前に灯したキャンドルです。お二人の記念に」


「ありがとうございました」


「坂田さん、お二人はこの雪のように真っ白です。これから素敵な色に染めていってくださいね」


 外は雪が降り続く。明日は雪かきからスタートするクリスマスになりそうだ。


「陽咲、そこにいるか?」


「はい?」


 いつもどおり、陽咲が二人分の紅茶を持ってきて、隣に座った。


「俺たち、頑張ったよな?」


「もちろんです。でも、これからもっと頑張らなくちゃです」


「だよなー」


「これまでの分、たっくさんデートします。あと……、赤ちゃん欲しいです」


 恥ずかしそうに声が小さくなった。


「大家族は無理だぞ?」


「二人くらい……なら……。私も頑張ります」


 自分のお腹をさする。その後の検査で、あれだけの治療にも関わらず、陽咲は自力で子供を授かれる力は残ったという。


「今日は私の誕生日ですよ?」


「そうだ。なんにも用意できなかった! 明日一緒に見に行くぞ」


「いいんです。今年は素敵な1日をプレゼントしてもらいました。寒いので温めてもらえますか?」


「いいよ。今日は疲れたもんな、ひな……」


「はい?」


「あの表札、また一緒に作り替えないとな」


「ふふっ、そうですね。今度は皆さん公認です」


 そうだな、あの連中なら勝手に作ってきそうだ。


「私、こんなにお祝いをしてもらえるなんて本当に予想外でした。これからもお願いします」


「俺からもだ。頼むぞ陽咲……」


「はい」


 陽咲が手元のリモコンで部屋の明かりを消し、俺たちは唇を交わした。


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