第4話 人数合わせだった出会い
俺と陽咲の出会いはもう4年前の4月に遡る。
当時、俺はまだ就職1年目。学校時代の友人に誘われて、パーティー会場に連れていかれた。
この当時、誰とも付き合いはしていなかったが、正直なところ俺自身こういった場は苦手だ。だから、隅の方で軽食をつつきながら、時計ばかり見ていた気がする。
そんなとき、同じように会場の隅で居心地が悪そうにしている女性を見つけた。
いや、どちらかと言えば、少女と言う方が正確な表現かもしれない。
何かしらカラーリングなどが全盛期だった当時としては珍しい、黒髪のストレートは大切にしている地毛なのだろう。
童顔にほっそりとした体型は痩せていると言う表現よりも、まだ未発達の方がしっくりくる。
服も一応ワンピースなど着ているけれど、正直なところ高校の制服でも着ていたほうが似合いそうだ。化粧もきっと慣れていないのだろう。
俺と同じように、人数集めで連れてこられた仲間だと察した。
「早く終わってほしいよなぁ」
「えっ?」
思いがけず話し掛けられて、固まっているこの彼女が
「あ、あのぉ……」
「俺も一緒。付き合いで連れてこられてさ。正直さっさと帰りたいところさ」
「そうですねぇ。私もこういうの……正直苦手なんです……」
「まったく、無駄な時間取らせやがって。せっかくだから夕飯だけでも済ませていこうぜ」
「そうですね。ちゃんと参加費は払ったんですから」
二人で思わず顔を見合わせてプッと吹き出し、それぞれの主催に文句を言いながらも、しっかりお腹を満たしていた。
会場は三々五々と散っていき、俺たちのような人数合わせも役目終了となったようだ。
「そろそろ帰るか?」
「そうですね」
クロークに預けてあった荷物を受け取り、会場を出ようとした時だった。
「あ、あのぉ……」
後ろから小さな声がした。
「おぉ。今日はありがとうな。気を付けて帰れよ?」
陽咲だった。
淡い桜色のコート姿はさっきのワンピースだけの時より似合っている。
「今日は本当にありがとうございました」
「こっちこそ、時間潰しになって助かったよ」
「もし、ご迷惑でなかったら……、これ交換してもいいですか?」
彼女は小さなカードを差し出した。
会場で意中の相手を見付けたときに使う挨拶カード。
当然のことながら、俺も陽咲も使う必要がなかった物だ。
「ここで使うことになるなんてな」
ポケットの中に無造作に押し込んであったカードを出して渡してやる。
「ありがとうございます。メールとかしてもいいですか?」
「暇だったらな。彼氏とか大丈夫なのか?」
「いないから大丈夫です。坂田さんも気を付けて帰ってくださいね」
「どっちに帰るんだ?」
大切そうに俺から受け取ったカードをバックにしまうのを待って歩き出す。
「私は田村町です」
「えっ? 俺もだ」
「えー、そうなんですか? じゃぁ……」
「一緒に帰るか?」
「いいですか?」
その言葉を待っていたかのような、会場では見せなかった満面の笑み。
あまり女子に興味がなかった俺でも可愛いと思ってしまう。
だからと言って、特に何かを話したわけではない。何となく一緒に夜道を歩いて帰った。
「私、ここで左です」
「おぉ、そっか。気を付けて帰れよ」
「はい。本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて、パンプスを鳴らしながら走って暗がりに消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます