恋のチカラ ~奇跡のひだまり~
小林汐希
第1部 いつか並んで歩いた道
第1話 信じられない新入社員って…
今年の新入社員のうち、女性は10人らしい。
4月1日の会社のオフィスのどっかにある他愛ない話題の一つ。
いや、オフィスなんて格好いい名前じゃない。俺のいるこの部屋は一歩間違えれば倉庫と呼ばれても仕方ない部屋なのだから。
「おーい、
課長も可哀想に。新年度始まったばかりできっとトラブルでも起きたに違いない。
課長自ら持っていく工具を確認していること自体、この職場の状態を示しているのだけれど。
「俺でいいんすか?」
一応は言うものの、この技術課のメンバーにおいて、スーツで出勤しているのは課長と俺くらいというんだから、他に選択肢がないという話だろう。
「頼むわ。あと新人への案内も頼む」
と言うことは、ここにも新人が配属されるのか。こっちもある意味可哀想に……。
俺、
うちの会社、新栄システムは、元々はシステム構築を中心とした、大手電機メーカーの工事請け負いが中心のはずだった。
しかしながら、今はそんな区割りは存在しない。親会社はグループ会社をどんどん合併させて、また不景気と言う言い訳と、目標達成のための経費節減という合言葉を盾に人は減らしていく。
じゃあ仕事は減ったかと言えば、逆に増えた。考えてみれば、グループ会社でまともに工事作業が出来るのはウチだけじゃないか?
数年前くらいからは、ビルの外壁に登るなんて作業も増えてきた。トータルソリューションなんてカタカナに踊らされた親会社め。結局は何でも屋じゃないか……。お陰で、いろんな資格は取らせてもらったけれど。
エレベーターの窓から見える今日の天気は生憎の雨。こんな天気も手伝ってのネガティブ思考で一杯の頭であっても、新入社員にいきなり愚痴っては可哀想だ。どんな説明をしたらいいかを考えながら会議室に入った。
あぁ、俺も5年前にはあんなキラキラした目でいたんだろうなぁ。このご時世に五十人という採用人数はともかくとして、5年後に何人残っているか。ブラック企業ではないものの、業務の変化につれて、同期も半分くらいは離れてしまった……。
当時、一緒にあそこに座っていた仲間の事を思い出しているうちに、入社式が始まった。
お偉いさんたちの話しが始まれば、こちらは出番まで待機だ。俺や一緒の列に座っている他の課長たちも同じで、最後に配属ごとにグループ分けされるまでは出番もない。
仕方ないので、そんな時には新入社員の名簿でも見ているしかないのだけれと……。
「ひ……な……?!」
一人ずつ名前を追っていった途中、俺は危うく声に出しそうになって、慌てて息を飲み込む。
もう一度、名簿の名前を見直した。
再び、俺の鼓動が高鳴ってくるのが自分でも分かる。
どのみち一人ひとりに入社辞令を渡されるときには顔が見える。程なくして、その瞬間がやって来た。
「星野陽咲さん」
「はい」
スッと立ち上がった後ろ姿、返事の一声だけでも分かる。
最後に顔を見たのは、もう2年も前のことだ。
「なんてこった……」
しかも……。
配属先ごとにグループ分けをされ、俺が指定された自分の課の場所に行くと、そこには忘れもしない顔が目の前にいた
「よろしくお願いします」
他の同期よりも前に出ていた彼女は、誰にも分からないようにチラリと舌を出した。
「あ、あぁ。こちらこそよろしく……」
俺はそう返すのがやっとだった。
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