第59話 建国祭・夜会4
「アルビー、ライリー」
二人の従兄の名前を呼ぶとアルビーが歯を見せてニカッと笑い、後ろにいるライリーはニコリと微笑む。こう見ると、見た目はよく似ているけどやっぱり性格がところどころに出ているなと感じる。
「やーっと挨拶が終わったからさ、暇だから来た!」
「そうなんだ」
「アルビー、うるさい。もう少し静かに出来ない?」
返事をすると同時にライリーがアルビーに苦言をする。注意されたことでアルビーがカチーンとした様子を見せる。
「は? ならついてくるなよな」
「それはこっちのセリフだけど」
「はぁっ!?」
言い返すアルビーにライリーが即座に切り返す。ああ、やっぱりこうなる。
アルビーが額に青筋を立ててライリーに抗議する。
「んだとライリー。兄貴様にその態度はなんなんだぁ?」
「本当のことを言っているだけ。声がうるさいんだよね」
「そう言うお前はいっつもニコニコしながら毒舌吐いてかわいくないんだよ」
「えー。やだなぁ、アルビー。男でかわいいのはどうかなって思うんだけど」
「この、腹黒がっ……!!」
「このトラブルメーカーが」
片方がキレながら、もう片方はにこやかに毒舌を放つ。ほら、やっぱりこうなった。ホールの端で音楽が流れているからと猫を被らずに口喧嘩をしている。こちらの存在忘れていない?
隣を見るとユーグリフトが珍しくきょとんとしている。うん、いきなりやって来たと思えば喧嘩していたらそうなると思う。
止めるのも面倒なのでもう一人の従兄で二人の兄である長兄の姿を探す。私が止めるよりこの二人を止めるのに適しているのは長兄だ。多分。
そうして探していると二人の兄である長兄が他の公爵家の人間に捕まっているのを目にする。……うん、ご愁傷様です。
「いいの? 放置してて」
「通常運転だから問題ないわ」
「それ逆に問題じゃない?」
質問に返答すると即座に指摘を受ける。いいんだ。下手に仲裁に入るのが面倒くさいから。
こそこそと話しているとライリーが思い出したかのようにこちらへ視線を向けてユーグリフトを見る。まるで何か見定めているかのような目だ。
そして二、三秒見ると、ニコリと外向き用の笑みを作ってユーグリフトに手を差し出す。
「こんばんは、ユーグリフト君。僕はライリー・ウェルデン。ウェルデン公爵家の三男でメルディの従兄だよ」
「初めまして、ライリー先輩。スターツ公爵家の嫡男のユーグリフト・スターツです。以後、お見知りおきを」
するとユーグリフトも何か感じ取ったのかニコッと猫を被って好青年の笑みで握手をする。うん、見事に二人とも外向きの笑顔だ。
二人が挨拶を交わしたことでアルビーも明るい声で挨拶をする。
「俺はアルビー・ウェルデン。ライリーの双子の兄。よろしくな」
「はい、アルビー先輩」
「にしてもどっかでユーグリフトの名前聞いたんだけどどこだっけ?」
うーん、とアルビーが悩みながらそんな呟きをこぼす。多分それ、去年の冬に話した時だ。
やばい、アルビーにユーグリフトとスターツ公爵のこと聞いてたんだ。余計なことを言いかねない。
どうやって口を塞ごうかと考えていると再びニカッと明るい笑みを見せる。
「……ま、いっか! それよりユーグリフトって剣すごいよな! 剣術大会見て感動したよ」
「ありがとうございます、アルビー先輩の剣技も素晴らしかったですよ。ぜひ、参考にしたいです」
「あはは、ユーグリフトって人を持ち上げるのが上手いなぁ~」
「いえ、本当にそう思っていますよ。アルビー先輩とは一度手合わせ頂きたいくらいです」
「へへ、照れるな。よし、ユーグリフト! あっちで剣技について話すか!」
ユーグリフトの肩に手を組みながらアルビーが楽しそうに提案する。思い出さなかったのはいいけど、いきなり後輩の肩組んでフレンドリーすぎない?
一瞬、きょとんとするもすぐに口許を上げてユーグリフトが頷く。
「いいですよ」
「よし! あ、ユーグリフトって呼んでたけどそれでいい?」
「構いませんよ。先輩の好きなように呼んでくれていいですよ」
「そっか! じゃあなー、メルディー!」
ひらひらと手を振りながら別れを告げるアルビー。相変わらず賑やかだけど大丈夫だろうか。
「元気なのはいいけど、余計なこと言わないか心配……」
「大丈夫だと思うよ。野生の勘なのか、言っていいこととダメなことは分かっているから」
「ライリー、アルビーに対して辛辣すぎない?」
双子の兄を野性と言う。ねぇ、ライリー、辛辣すぎない?
苦言を言うも「ん?」とにこやかな笑みを見せてくる。もうこのことには何も言うまい。
「それより、何か用があったんじゃないの?」
「ああ、ダンスの順番を聞きたかったんだけど……メルディ、彼と仲よかったっけ?」
彼というのはユーグリフトだろう。それ以外当てはまらない。
否定の意味で首を横に振る。
「クラスメイトだけどライバルって言った方が正しいと思う。よく口喧嘩してるし」
「ふぅん。その割には仲よさそうに話してたから驚いたな」
「そう?」
特に自覚はなかったけどライリーにはそう見えたのか。なんかこれ、リーチェにも似たようなこと言われた気がする。
……確かに出会った頃は険悪だったけど今は普通に会話も出来るようになったけど、それでも私はユーグリフトのことあまり知らない気がする。
猫を被っているユーグリフトとその本性をどっちも見てるけど、それでも知らない部分の方が多いと思う。
ユーグリフトはあまり自分のことや考えを語らない。語るにしても簡潔だし、私が知っているユーグリフトはユーグリフトを形成するほんの一部分なんだろうなと思う。
……そう考えると本音を打ち明けられる相手がいるのか少し気になってしまう。
いつも学園で見るのは猫を被った笑みばかりで、しんどくないのかなって思ってしまう。
「…………」
「メルディ?」
「お姉さま?」
「……えっ? リーチェ?」
ぼぉっとしていると目の前にはライリーとリーチェの二人がいて、二人とも不思議そうに私を見つめる。ライリーは分かるけどいつの間にリーチェがいる。気付かなかった。
「呼んでたよ。聞こえなかった?」
「あ……考え事してて」
「お姉さま、お疲れですか?」
リーチェが眉を下げて心配そうに上目遣いで見てくる。やばい、心配かけてしまった。
「大丈夫よ、ちょっと考え事してただけで疲れてなんかないわ」
「そうですか……? それならいいんですが……」
「平気よ。ライリー、お兄様は婚約者の方と踊るからダンスはよろしくね」
「エスコートしたんだから当然ダンスも付き合うよ。じゃあダンスの時間になったらそっちに行くね。ベアトリーチェちゃん、メルディのことよろしくね」
「は、はい」
ニコッと優しく笑いながらライリーがリーチェに私のこと頼み込む。別に平気なのに。
「じゃあね、メルディ。最近疲れること多いからダンスも無理して踊る必要ないと思うよ」
「うん。今日はあんまり踊る気ない」
しんどいのなら適当に断ればいいと言外に告げるライリーに頷いて返事する。建国祭だからいつもより余計に申し込まれると思うけど今日は断ろうと思う。
ライリーと別れると隣にいるリーチェに目を向ける。
「リーチェ、もう挨拶は終わったのね」
「うん。私はお父様とお母様の隣で佇むくらいだから」
ふわりと愛らしい笑みを浮かべる。今日は淡い水色のドレスを着ていて藍色の髪と青い瞳のリーチェによく似合う。
「水色のドレスよく似合ってるわ。リーチェの魅力がよく出てるわ」
「えへへ、お姉さまも緋色のドレスもよく似合っています! 紫を始めとする落ち着いた高貴な色から明るい色まで着こなしてさすがお姉さまですねっ!」
「あ、ありがとう」
うっとりとしながら述べるリーチェに少し引き気味になる。慕ってくれているのは嬉しいけど、こうも崇拝するように言われるのは恥ずかしい。
「スターツ先輩も思わずお姉さまに声をかけるのも頷けます。だって今日のお姉さまはいつもより華やかで一段と美しいもの!」
「それは関係ないと思うわよ。話す相手いないから来ただけよ」
「えー、お姉さま切り返しが早い~……」
「はいはい」
納得いかないように頬を膨らませるリーチェに苦笑する。何か話題を変えた方がよさそうだ。
そうして周囲を見渡しているとこちらへ来るアロラとオーレリアを見つけたので名前を呼ぶ。
「アロラ、オーレリア」
「やっほー、メルディ、ベアトリーチェちゃん」
「アロラ先輩、オーレリア先輩。こんばんは」
気付いたリーチェも二人に明るく挨拶する。オーレリアもニコッと微笑む。
「こんばんは、メルディアナ様、ベアトリーチェちゃん」
「お二人とも、素敵です。よく似合っています!」
「ありがとう、ベアトリーチェちゃんの水色のドレスも素敵だよ」
「嬉しいです、ありがとうございます。……あれ?」
ふふ、とリーチェが笑ったかと思えば目を丸めてオーレリアの髪飾りを凝視する。
「? えっと……どうかした?」
「あ、すみません……! オーレリア先輩の髪飾り、私が持っているのと似ていて」
「これ?」
オーレリアが触るのは白い小さな花模様をした髪飾りで、触れると僅かに動く。
「はい。私はラヴェル王国で買ったのですが、オーレリア先輩もラヴェル王国で買ったのですか?」
「ううん、私は領地で買ったんだ。私の領地はラヴェル王国と面しているからあっちの品物も領地に並んでいて買えるの」
「へぇ、そうなんですね! いいなぁ。ラヴェル王国の装飾品はどれも素敵ですよね」
「確かに。私はよく髪飾り買うかな。髪飾りならイヤリングとかと違って普段でも使えるし」
「分かります! 私も幾つもある中で夜会やちょっとしたお出かけに使用出来る髪飾りを選びました!」
「選ぶ理由似てるね」
「えへへ、そうですね」
ふふ、とオーレリアとリーチェが和やかな会話を繰り広げていく。二人とも穏やかな気質だし仲よくなってくれたら私も嬉しい。
その後、二人のやり取りを眺めながら先ほど挨拶できなかった令嬢や年の近い夫人と挨拶を交わし、流行りの観劇やお菓子、詩などについて語っていく。
中にはカサンドラ王国のお茶がほしいと頼む夫人に笑顔で応じながらお茶を渡す約束をし、ダンスをすると同時に社交に取り組んだのだった。
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