第46話 幼馴染たちとの会話

 ある日の放課後、一人廊下を歩いて談話室へ向かう。

 そしていつも使用する談話室をノックして既にいるであろう幼馴染たちに名前を告げる。


「私、メルディアナ。開けてくれる?」

「少しお待ちを」


 返事したのはステファンでそう告げるとすぐにドアを開いて中に入れてくれる。なので談話室に足を踏み入れる。


「あれ、まだロイスはいないの?」

「殿下でしたら少々遅れるかと。今は生徒会の副会長で忙しいので」

「ふぅーん」


 どうやら室内にいたのはアロラとステファンのみだったようだ。アロラがもぐもぐとパウンドケーキを頬張っている。寮に取りに行っていたから私が一番最後だと思ったのに。


「大変そうね」

「メルディアナ様、生徒会に入らないでよかったって思ってませんか?」

「思ってるわよ。だって面倒くさいじゃない」

「メルディアナ様……、思ってても言わないでくださいよ……」

「あら、ごめんあそばせ」


 ステファンに茶化すように謝りながらアロラの隣に座る。しかし、入りたくないものは入りたくない。

 生徒会に入ったら剣術の鍛練する時間が減るではないか。それは困るので断っておいて本当によかったと思う。

 ロイスが遅れているのは生徒会の中でも副会長を担っているからだろう。この間も手伝ってほしいって言っていたし、大変なようだ。


「何か取りに行ってたのですか?」

「ん? そうよ。これね」


 尋ねられて見せたのは茶葉だ。春休み、カーロイン公爵領に滞在して学園に帰る時にお兄様が持たせてくれた。

 前回貰った違う茶葉でこれも領地で飲んだけど爽やかな味わいで甘いケーキにぴったりな紅茶だと感じた。


「ステファンにアロラも飲む? お兄様がまたカサンドラ王国から仕入れた新しい紅茶よ」

「そうなんですね。ではお言葉に甘えていただきましょう」

「私もー! それにしてもジュリアン様まーた仕入れるってすごいね」

「お兄様は商才があるからね」


 話しながらステファンとアロラに紅茶を淹れる。二人に合うだろうか。

 温かい紅茶を淹れて二人の元に置くと二人とも飲んでいく。さて、どうだろうか。


「……うん、おいしい。爽やかな味ですね」

「うんうん。甘いスイーツに合うね」

「よかった。ほしかったら言って頂戴」 


 そして優雅に紅茶の味を味わう。うん、おいしい。普段から飲みたい紅茶だ。

 そうして過ごしているとコンコンとドアが叩かれる。ステファンが立ち上がってドアの前まで行って尋ねる。


「はい。殿下ですか?」

「うん。ステファン、開けてくれないかな」

「分かりました」


 そしてドアノブが回転してドアが開くとロイスが現れる。私に気付いてニコッと微笑んでくる。


「皆もう来てたんだね」

「ええ。ロイスも紅茶飲む? お兄様がまた新しい茶葉を仕入れてきたんだけど」

「じゃあ貰おうかな。ありがとう、メルディアナ」

「どう致しまして」


 そしてテキパキとティーカップからカップに注ぎ、ロイスに差し出す。


「どうぞ」

「いただきます」


 受け取るとロイスが一口含む。どうだろう、味は。気に入ってくれるといいけど。

 そっと様子を見ていると、飲み終えたロイスが小さく頷いた。


「おいしいね。新しい茶だっけ?」

「ええ。同じカサンドラ王国だけど生産地が違う場所の茶葉なんだけど気に入った?」

「うん。酸味があるけど飲んだあとスッキリする」

「ほしいのならあげるわ。お兄様、寮でも飲めるようにたくさんくれたから」

「じゃあお言葉に甘えて少し貰おうかな」

「了解」


 分けてほしいと言うロイスに快諾する。多分お兄様のことだ。私が誰かに分けることも考えて多めにくれたのだと思う。


「生徒会は忙しい?」

「少しね。副会長だから会長よりは少ないけどそこそこ仕事があって。でも音楽演奏会の準備は殆ど終わったから演奏会が終わればしばらくは落ち着くと思うよ」

「そうなのね」


 音楽演奏会は来週だ。演奏会のあとはしばらくは学園行事もないので確かに落ち着くだろうと思う。


「メルディアナは今年参加しないんだね?」

「別にいいかなって。オーレリアも去年優勝したから今年はいいって言ってるわ」

「そっか。彼女の演奏、聴きたかったな」


 お兄様が渡してくれた新しい紅茶を飲みながらロイスが呟く。ロイスは演奏会でオーレリアの音色を聴いて恋に落ちたから分からなくもないけど。


「それは分かるけどもし二年連続で優勝したら女子の目が怖いじゃない。そう考えると参加しない方が賢明よ」

「分かっているよ。だから聴きたかったけど参加しなくてよかったって思っているよ」


 それはロイスも分かっていたようで私の言葉に頷く。ロイスのファンは大人しい子が多いけど騒がしい子もいるのは事実だ。


「新しいクラスにはどう? ルーヘン伯爵令嬢と一緒だけど大丈夫?」

「上手くやってるつもりだよ。ステファンも一緒だから大丈夫だよ」

「それならいいけれど」


 ロイスとクラスが離れたけど、ロイスのクラスには王妃狙いでファンでもあるルーヘン伯爵令嬢がいる。

 そしてルーヘン伯爵令嬢はロイスのファンの中でも大人しい方ではなく騒がしい方だ。

 上手くやっていると言うけど、彼女の性格を見る限り積極的に話しかけているのではないかと思う。


 そんなこと考えているとくすくすとロイスが笑う。どうしたのだろうと目を丸める。


「ああ、ごめんね。なんだか嬉しくて」

「嬉しい?」

「うん。去年メルディアナと同じクラスだったからか毎日雑談とかしていたけどクラスが離れると毎日顔を合わすことなければ話すことも減って少し寂しくて。だから久しぶりにゆっくりと話せて嬉しくて」


 ニコリと優しい笑みを浮かべながらそう呟く。

 ……確かに一年の時は同じクラスで幼馴染だから毎日顔を合わせてなんでもない話をしていた。

 そう考えると少し寂しい。きっと、入学以前より簡単に会えるようになったからだろう。

 でもクラスが離れると意識して顔を合わせない限り毎日会うことが出来ないと実感した。


「……確かにこうしてゆっくりとお話しするのは久しぶりに感じるわね」

「うん。だから嬉しいんだ」


 さらりと言ってのける。オーレリアもそうだけど、ロイスもさらりと人の心を温める言葉を言えて尊敬する。ある意味、似た者同士ということか。


「クラスが離れると少し寂しいわね」

「そうだね」

「ねぇ、ステファン。どう思う? 幼馴染あるあるの会話」

「仲が良い証拠で言いと思うよ」

「そりゃあそうだけど」


 アロラがステファンの隣に移動してこそこそと口許を隠して何か話している。なんの話だろう。


「メルディアナこそどう? 新しいクラスになって、ユーグリフトと一緒だけど毎日喧嘩してない?」

「ちょっと待って。なんで毎日喧嘩してるって思うのよ」

「だっていつも顔合わせたら言い合いしてるだろう?」


 今度は私の方を聞いてきたけど見逃せない発言があるので聞き返すとそう返される。なぜ毎日喧嘩しているって思うんだ。

 そしてアロラとステファン。うんうん、と首を縦に振らないでほしい。


「あっちから仕掛けてくるんだもの。私は応戦してるだけ」

「にしてもしょっちゅうしてるよね。テストや課題とか暗唱とか」

「そんなに?」

「はい。今日は神学の授業でどれだけ聖書を暗記出来ているかバトルしてたんです」

「メルディアナ……」


 聞いてきたロイスにアロラが今日の出来事を報告する。なぜ報告するんだ。

 ジト目でアロラを見るも口笛を吹いて目を逸らす。逸らすな。


「でもメルディアナ様が素を出せるのは珍しいですね。いつもどんな相手にも淑女の仮面を被っているのに」

「そうだよね。このメンバー以外だと基本的に淑女の仮面を被っているよね」


 ステファンの言葉にロイスも続けてそう答える。

 それは私も理解しているけどユーグリフトとはライバルだ。追い越す敵、それだけだ。


「……そう言えば、リーチェにユーグリフトと仲が良いのかって聞かれたな」

「わぁ、ベアトリーチェちゃんよく見てるね」

「だからなんでそうなるのよ。あいつと私は勉強でも剣術でも張り合うライバルってだけよ」


 何度だって言える。私とユーグリフトの関係はライバル、それだけだ。


「ふぅーん、メルディがそう言うならそれでいいけど」

「はい。私の話はもう終わり。そう言えばロイス。手紙、オーレリアに渡したら喜んでくれてたわよ」

「本当? よかった」


 オーレリアの話を振るとロイスが嬉しそうにはにかむ。うん、やっぱりこっちの話の方が楽しい。


 カップケーキを貰ったロイスがお礼として手紙を書いたので私が受け取ってオーレリアに渡したら、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに文章を読んでいた。

 

 ここ最近のオーレリアを見ると出会った当初よりもロイスのこと意識しているように見える。やっぱり一緒にいて話す時間が重要だったのだろう。

 二人が上手くいくことが私の夢の一つだ。少しずつ前進しているようで心が弾む。


「何かあったら言ってね。ロイスの恋、協力するから」

「……ありがとう、メルディアナ。メルディアナも何かあったら相談してね。力になるから」

「ふふ、ありがとう」


 ロイスの言葉に笑いながら明るくそう返事したのだった。

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