第52話 建国祭初日2
王都の広い街道を歩いていく。
やはり建国祭ということもあって王都には商売をする人や遠方からの観光、祭りを楽しむ人たちで大賑わいだ。
「鞄はしっかり持っておいた方がいいわ。すれ違い様にトラブルに遭う可能性があるもの」
「そうですね」
素直に頷くオーレリアは平民向けだけど清楚な印象を感じさせる白のトップスと淡い水色のフレアスカートを着ている。
いつもどおり淡い珊瑚色のウェーブは髪はそのままおろしているけどかわいらしく見える。
だからだろう、通っていく男性の視線がちらちらとオーレリアに向かっている。元の素材がいいと何を着ても似合うなと思う。
「? どうかしましたか?」
「……何もないわ」
じっ、とオーレリアのコーデを見ていると不思議そうに見上げてきたのでそう答える。よし、仕方ない。変な人に声をかけられないように私がしっかりしてないと。
「まずはどこに行く? 観劇でもいいし、露店の商品を見るのもいいけど」
「そうですね……」
うーん、とオーレリアが考える。私は別にどこに行ってもいいと思っているので二人の要望を優先的に叶えようと考えている。
「あの、それじゃあ観劇とかどうですか? 私、見たい恋愛劇があるんですが……」
「そうなの? じゃあまずは劇にしましょうか。アロラもそれでいい?」
「うん。いいよ!」
「ありがとうございます。実は、もうすぐ開演時間で見たくて」
「え。なら言ってよ! もう、遠慮しないしない!!」
「えっと、すみません。見たいと言っても後の時間でもやっていたので……」
苦笑いを浮かべながらオーレリアが謝罪する。とりあえず、まずは恋愛劇を見よう。
「じゃあまずは劇ね。劇場はいくつもあるけどどこ?」
「王立第二劇場です。えっと、『王女の初恋』っていう恋愛劇で確か三十分後に開演予定なんですが……」
「え、『王女の初恋』?」
そしてオーレリアがタイトルを呟くと食いつくように尋ね返す。珍しい。どうしたんだ、一体。
「はい。それが見たくて……」
「えっー、奇遇! それ私も見たいって思ってたんだ!」
同じ劇と知るや否やアロラがキラキラと茶色の瞳を輝かせて答える。え、そうだったの?
「アロラ様も?」
「うんっ! 他クラスの友達は早速見ててね、すっごいよかったって言ってたんだ! 歌も加わった歌劇になってて原作によく似てるんだって!」
「わぁ、ますます見てみたいです……!」
「だよね!」
同じ劇を見たかったと知り私を置いて二人仲良く盛り上がる。確か恋愛小説であったなと思い出す。
令嬢に人気の作品ということで私も読んだことがあるけど、まさか歌劇化していたなんて。
二人が好きな小説――タイトル・『王女の初恋』というは王道の恋愛小説で、王女と護衛騎士の身分差の恋愛に幼馴染の公子を巻き込んだ三角関係の内容だ。
山あり谷ありの物語で令嬢の中でも人気でリーチェも大好きでよくどの場面のどこがいいか語っていたなと思い出す。
「楽しみだねぇ~」
「そうですね」
例の劇を観劇するために王都にいくつもある劇場の中から王立第二劇場へ進んでいく。
どうやら人気の恋愛劇のため一日に三回公演しているらしくまだチケットは販売していたので料金を払って前方に移動して三人で座る。ちなみに、席順は私・オーレリア・アロラの順だ。
「オーレリアちゃんは護衛騎士と幼馴染の公子のどっちが好き?」
「私は護衛騎士の方が好きです。いつもヒロインを危機から救うところとその描写と挿絵が素敵で……! 読んでてドキドキします」
「そっかぁ。私は公子派だなー。あの一途な部分が好きなんだよね。あと結局は王女と結ばれなくて読んでて泣ける」
「分かります! 好きだけど最後はヒロインの気持ちを想って異国の地へ留学するシーンは悲しくて彼にもいい人が見つかってほしいと応援したくなりますよね」
「そうだよね! 公子派としては幸せになってもらいたいんだよね」
隣でオーレリアとアロラが護衛騎士派か公子派かで話してきゃっきゃっと話している。楽しそうで何より。
「メルディアナ様は護衛騎士と公子、どちらが好きですか?」
傍観者気分で二人の話を聞いていると唐突にオーレリアに尋ねられる。私?
人差し指で自分を指すとうんうんと二人に頷かれる。そうですか。うーん、私はどちらかと言うと……。
「メルディは公子派? それとも護衛騎士派?」
「どちらも素敵ですが、よりいいのはどちらですか?」
「うーん……。正直、私は副団長派なんだけど」
「えっ!? メルディ、副団長派なの!?」
アロラにとってまさかの答えだったようで驚いたように尋ねてくる。別にいいじゃないか。誰が好みかは私の自由だと思う。
私が答えた副団長は近衛騎士団の副団長の役割を担っていて二十代後半のキャラクターだ。脇役なのであまり出番はないけれど常に護衛騎士の訓練や戦闘、悩みに短い言葉で的確に助言していて頼りがいある人で上司でこんな人がいたらいいなと思える人物である。
「出番は少ないけど護衛騎士にきちんと助言を与えていて影の立役者だと思ってるし。だから私は副団長派かなぁ」
「なるほど。確かに副団長の挿絵も美形だったよね」
「そうでしたね。その時その時にほしい言葉をくれて背中を押してくれる存在でしたね」
すると今度は副団長のどの場面がよかったのかで二人が盛り上がる。楽しそうに盛り上がっていて何よりだ。
しかし、二人がそんなにファンだったとは。知らなかった。
「二人がそんなに好きだったなんて知らなかったわ」
「だってメルディったら恋愛小説より兵法書じゃん」
「…………」
ぐうの音も出ないというのはこういうことだろうか。アロラが端的に切り返してきた。
確かに恋愛小説も読むけど食いつきがいいのは兵法書だ。でもね、アロラ? 兵法書って読んでて面白いって思うんだけど?
「あははは……。あ、始まりますよ……!」
私とアロラに挟まれたオーレリアが気まずそうに開演を告げる。あとで兵法書の魅力をアロラに伝えなきゃと決意した。
美しい音色が鳴り始めて口を閉じて舞台に目を向ける。
カーテンが開くと今人気の歌姫が主人公の王女の姿をしてセリフを発したのだった。
***
例の恋愛劇を見終わると少し遅い休憩兼昼食としてカフェに向かって先ほど見た劇について語り合う。
「三時間でどう纏めるかと思ったけど上手だったよね。大事な部分をきちんと取り入れてエピローグはオリジナルで締めくくってて感動しちゃった」
「それに歌も演技もすっごく上手で……! リズミカルな音楽からバラードまで多種多様な曲を流れたけどどれもきれいな歌声でしたよね」
「さすが今人気の歌姫よね」
観劇した恋愛劇は三時間だっただけどそれを感じさせないくらい女優の演技力と歌唱力が高くてとても見応えのある劇だった。
俳優の演技力も勿論、小道具や大道具もどれも良くて人気と言われて納得出来る内容だった。
「あ、メルディメルディ! これおいしそうじゃない?」
「何?」
昼食を食べ終わってドリンクを飲みながら休憩しているとアロラが声を高くしてメニュー表を見せてくる。
アロラが指さしたのはカップ型のジェラートで楽しそうに声を出す。
「見て見て! 十種類もあるんだよ! おいしそう、食べない?」
「そうね」
よく見るとジェラートにはフルーツも入っているようだ。今日は少し暑いし冷たいジェラートはおいしそうに見える。
「じゃあ食べようかな。オーレリアは? なんか食べる?」
「それなら私もジェラート食べます」
「そうね、オススメって書いてるしね」
そしてどの味にするか少し考えて決めてそれぞれ店員に注文していく。
「ジェラート三種類盛り合わせで!」
「私はパインアップルで」
「私はストロベリーでお願いします」
三者三様別々の種類を注文し、少しの語らいの後に到着したひんやりと冷えたジェラートを堪能する。
パインアップルの果肉は大きくておいしく、ジェラートも冷たくてとてもおいしい。頼んでよかったなと思う。
「うん、おいしい」
「フルーツも大きくておいしいですね」
「そうね。アロラは……もう食べ終わったのね」
アロラの方へ目を向けるとあっという間に三種類のジェラートを食べ終わっていた。さすがアロラ。今日も食べるのが早いがもっと味わって食べたらいいのにって思う。
「もっと味わって食べたら?」
「おいしいからあっという間に食べちゃんでしょうー? もう一個頼もうかなー」
「やめておいた方がいいわよ。どうせ屋台歩いているとまた何か食べたくなって買うでしょう?」
「あー、確かに。メルディよく分かってる。じゃあここは我慢しよう!」
「ええ。その方がいいわ」
アロラに同意しながらひんやりとしたジェラートを味わう。今度、ロイスに紹介しようかなと考える。
ジェラートを堪能したあと、次はアロラの希望で屋台と露店を回ることにした。
そして予想どおり、色んな屋台を見て串焼きやらホットドッグにクレープと色々と注文していく。
「うーん、やっぱり建国祭中って地方の軽食も売っているしおいしい!」
「さっきも食べてたのによく食べれるわね……」
呆れながら串焼きを食べるアロラを見る。本当、細身の体型なのになぜそんなに食べられるのだろう。
「あ、このお団子おいしいです」
「それは極東の串団子よ。甘いけどこの国のお菓子と比べるとさっぱりしているでしょう?」
「はい、これなら甘いのが苦手な人でも食べやすいと思います」
私たちが手に持っているのは極東にある串団子で甘味に分類するものだ。久しぶりに見たのでつい買ってしまった。
「極東かぁ、行ったことないけどどんな国なんでしょう」
「
こうして貿易をしているけど私は行ったことない。いつか行ってみたいなと思う。
「いつか行ってみませんか? 観光してみたいです」
「ふふ、そうね。その時はアロラをしっかり見てないとね」
「そうですね。勝手にあっちこっち行きそうだから見てないと」
そんな風に二人で話しながら串団子を食べ、食べ終わると串をゴミ箱に入れて露店の方向へ進んだ。
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