第17話 二学期

 夏休みも終わり、今日から二学期。

 とは言っても初日から授業が始まるわけではなく、始まるのは翌日から。今日は課題の提出と連絡事項を教師から聞くくらいだ。

 なのでお昼前には終了して私・ロイス・アロラ・ステファンの一行はいつもの談話室へ集まった。


「あー、永遠の夏休みが来ないかなー」

「アロラ、何不可能なこと言ってるのよ?」


 突然訳の分からないことを発するアロラに呆れた目を向ける。


「だってだって! 最後は課題ばっかりでほーんと大変だったんだもん!」

「だから協力してあげたじゃない。まったく、急に王都の屋敷に来て課題手伝って言ってきた時は呆れたわよ。夏休み何してたのよ?」


 じっとアロラを見る。夏休み残り数日って時に突然屋敷に来たと思ったら「課題教えて! 手伝って!」と言わて溜め息を吐いたのは記憶に新しい。

 

「えっーとね。旅行とかー、お茶会とか参加してた!」

「何やってるのよ……」

「だってせっかくの長期休暇だよ? 楽しまないと人生損でしょ!」

「分かるけど課題はしっかりしなさいよ……」


 頭を抱える。これは来年、ううん、冬休みも同じ現象が起きそう。よし、対策しておこう。

 切り替えて紅茶を飲む。うん、やっぱりおいしい。

 飲んでいるのはお兄様から貰ったカサンドラ王国の紅茶だ。昨日、アロラとオーレリアの女子会でも渡すと評判がよかった。

 今日の談話室で使用しているお茶もそのカサンドラ王国のお茶を使用している。


「ロイス、どう? お兄様がくれたお茶だけど」

「うん、おいしいよ。メルディアナ、ジュリアンに伝えてくれるかい? おいしかったって。ぜひ、近々お話ししたいって」

「分かったわ。お兄様には手紙で伝えておくわ」


 そして王都で人気のお菓子を一つ食べる。こっちもおいしい。


「アロラ、姿勢が悪い。……さて、二学期が始まりましたが、今後はどうしますか?」


 だらけているアロラに注意してステファンが切り出す。アロラは「えっー」とぼやくが放置する。姿勢が悪いのは本当だから。


「そうね……。学園主催の二学期には大きなイベントが二つあるけど……ロイス、剣術大会には出るつもり?」

「僕は剣術を選択しているわけでもないから参加しないよ」

「そうよね」


 予想どおりの返答が返ってきたので構わない。

 季節は秋。まだ夏の残暑が日々感じられる九月になった。

 そしてここにいつものメンバーが集まったのはロイスとオーレリアの恋を成就するために次なる策とイベントを考えるためだ。


「二学期の大きなイベントの一つである剣術大会にロイスが出ないのならどうしようもないわね」


 学園の二学期のイベントは二つある。その一つが剣術大会だ。

 涼しくなり始めた九月の末に開催され、春の音楽演奏会同様、学年別に戦い一位から三位までを決める大会である。

 参加するのは剣術の選択科目を取って騎士を目指している子息、また騎士の一族の子息が殆どだ。

 だがこの剣術大会、音楽演奏会と違う点が一点ある。それが外部から来る高貴な方々──つまり、貴賓が来るという点だ。


 剣術大会は未来の優秀な武人を見つける大会。つまり、国の重鎮が未来の若者を見に来ても特別おかしくない。

 外部からの来場者は主に王族の陛下、そして一部の大臣に王族を守る近衛騎士団長に国防を取りまとめる騎士団長と錚々そうそうたるメンバーがやって来る。

 なので参加者たちはやる気満々だ。ここで実力を示したら騎士団から声がかけられることもあるため、皆、自分を売り込むために必死だ。

 それに、ここで成績を残したら自分のステータスになり、婚約者探しにも有利に働く。そりゃあ、必死になる。


「メルディはー? 剣術の授業取ってるけど参加するのー?」

「参加するわ。あ、あと伝えるけど──私、騎士になるわ」

「そっかー。……えっ?」

「え?」


 アロラに問いかけられ、参加する旨を伝えてついでに騎士になると宣言する。

 すると、アロラとステファンが驚いたような声をあげた。


「ちょ、待って待って。メルディ、今なんて?」

「騎士になるって言ったの。お父様にも許可を貰ってるわ」

「ええ!? 嘘っ!?」

「公爵閣下も認めているのですか……!?」


 改めて言うも、呆然とするアロラとステファン。大分驚いているなと思う。


「びっくりした?」

「そんなのびっくりするに決まってるじゃん! メルディが剣術を嗜んでいるのは知ってたけど本気で騎士になるなんて……。公爵家で女性騎士になった人っていないよね?」

「ええ、いないわ。だからその初めての人になろうかなって。……幼い頃にお祖父様の剣捌きを見て私も騎士になりたいって思ったの。それは今も変わらない。だからお父様に騎士になりたいと言って認めてもらったの」

「そうなのですか……。よく公爵閣下も認めてくださいましたね……」

「まぁね。だからこの剣術大会で私の実力見せないと。陛下と一緒に見に来る予定だから」


 そう、その剣術大会に私も参加するため、父も貴賓の一人として来る予定だ。

 ここで不名誉な成績を残したら騎士になるのを取り消されるかもしれない。だから頑張らないと。


「剣術大会に出るんだ……。メルディ、本気なんだね」

「本気よ。私はずっと王妃なんかより騎士になりたかったから。だから公爵家初の女性騎士になるつもり」


 笑いながら告げるとアロラはそっか、と小さくこぼす。

 

「二人とも、心配?」

「そりゃあ心配だよ。騎士って大変でしょう? ……でも、メルディが決めたことだもん。頑張ってね」

「心配ですが……メルディアナ様がそう決めたのなら応援します。頑張ってください」

「ありがとう、二人とも」


 心配しながらも応援の声をくれる二人に微笑む。いい友人たちだ。


「メルディアナ……、騎士になるんだね。まずは認めてもらえてよかったね」

「殿下はメルディアナ様が騎士になりたいのを知っていたのですか?」


 ステファンがロイスの方を見て尋ねる。ロイスが驚いていなかったから気になるらしい。


「うん。昔から騎士になりたいって言ってたからね。だから夢に一歩近づいて嬉しいよ。……大変だろうけど、頑張って。僕は、いつもメルディアナの味方だよ」

「ロイス……」


 ロイスが目を細めてニコッと微笑む。ロイスは、ずっと前から私が騎士になりたいって知って応援してくれていた。

 だから、その表情は応援してくれていると分かる。


「ありがとう。初めてロイスに騎士になりたいって言った時もそう言って笑って応援してくれたわね」

「そうだったかい?」

「そうよ。……誰にも打ち明けていなかったから緊張したけど、ロイスったら否定せずに応援してくれて。嬉しかったわ」


 ふふ、と笑いながら昔を思い出す。

 初めて打ち明けた時だって公爵家出身の女性騎士は当然存在せず、ロイスに難しいと思うと指摘されると思ったけど……ロイスは私の夢を一蹴せずに耳を傾けて応援してくれた。

 自分の夢のように楽しそうに聞いてくれて応援してくれた時は心が楽になったのを覚えている。

 だからその時決めたのだ。ロイスが相談してきたり、頼ってきたら絶対に助けようと。


「ありがとうね、ロイス」

「別に大したことしてないよ」


 気恥ずかしいのか頬をかきながら苦笑するロイス。その姿に思わず笑ってしまう。


「だから今度の剣術大会には参加するわ。で、優勝を掴むつもりよ。それと同時進行でロイスとオーレリアの仲も深めるのも協力するつもり」


 剣の鍛練も大事だけどロイスとオーレリアの件も同じくらい大事だ。剣術大会には出なくてもコツコツと二人の交流の機会を作る必要がある。


「ううん。メルディアナ、僕一人でやってみるよ」

「え? ロイス一人で?」


 そう決意したのも束の間、ロイスからそんな提案をされて瞠目してしまう。


「うん。いつまでもメルディアナに頼ってばかりなのもダメだからね。幸い、メルディアナが挨拶の場を設けてくれたおかげで彼女とは知り合いになれたんだ。自分で距離を縮めてみるよ」

「そう? 大丈夫?」


 心配になりついつい尋ねてしまう。ロイス一人で上手く出来るだろうか。

 しかし、ロイスはニコッと微笑んで首を振る。


「大丈夫だよ、ゆっくりと彼女と距離を縮めるから。だからメルディアナ。今は自分の剣術大会に集中して。将来のことがかかってるんだ。今は自分のことを最優先にしてほしいんだ」

「ロイス……」


 そこまで言われるとこちらは何も言えない。だって、私を思っての言葉なのだから。


「そうだよ、メルディ! 殿下とオーレリアちゃんのことは私にまっかせて!! 何かあったら私がサポートするから!」

「そうですよ、メルディアナ様。そのための協力者の私たちなのですから」

「アロラ……、ステファン……」


 名前を呼ぶとアロラはえへへ、と笑い、ステファンも小さく微笑む。……そうだ。こんな時の友人だ。なら二人に任せて頼らないと。


「じゃあ、お願いね」

「うん!」

「はい、お任せください」


 そしてその後は夏休みどんな風に過ごしたか、など雑談しながら四人で楽しい時間を過ごした。


 

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